3 禁断の質問
「軟弱な胃で……大変申し訳ありません……」
「かまわない。残したら持ち帰りできるように、とりあえず何でも頼んだからね。無駄にはならない」
結果から言って、菓子類と私の対決は私の惨敗だった。
ナプキンで口を押さえてから、口直しにアイスティを少しだけ飲む。今あまり胃の中に何かを入れたくない。一生の恥になる姿を見せるのは嫌だ。
私が戦えたのは最初のケーキ一皿だけで、後はクッキーを2~3枚、マカロン1つで、もうダメだった。どれもこれも甘くて味が濃くて、世の女性はコルセットを締めてなおこれを食べるのかと思うと、すごい事だと尊敬してしまう。
「具合が悪いなら、日を改めようか? 無理をさせたね」
「いえ……、あの、断らないのですか? 私はこのような者ですよ、いくら政略結婚とは言え……」
「あぁ……そうか、そうだね。断らない。君と、結婚したい」
何かに得心して頷くコンラッド様に、私はどうしたものかと思っていた。体調が悪いのもあったのだと思う、だが、私はこの質問をした事を後悔することになった。
「失礼ですが……、もしや、そちらの趣味がおありで?」
だから、子作りするにしても『そっち』の趣味でもなんとかなるような、お飾り妻が欲しいのかと、私は聞いた。聞いてしまった。
一瞬目を丸くした後、深く物事を考えるようにした彼は、私の質問には答えず呼び鈴を鳴らした。
しまった、これで破談となったら余りに失礼すぎる。父上の立場も危うい。
「君、このお菓子を全て持ち帰り用に包んで馬車を呼んでくれ」
「かしこまりました」
そう言って、コンラッド様はお菓子が下げられていった後、面白そうに目を細めて紅茶を飲んだ。
「なるほど……、そう見られていた訳か、私は。面白いね、ますます君と結婚したい」
「……失礼ですが、意図が読めません」
「素直な気持ちさ。あぁ、お見合いの理由は適当にかこつけたので、余計キャロルには分からなかっただろう。私はそもそも、最初から君と結婚したかった。16歳と23歳では少し体面が悪いが、18歳と25歳なら悪くない。ずっと君が育つのを待っていた。——後にも先にも、恋をしたのは君にだけだ。君と、結婚したい」
「……後々、いろいろとお聞かせ願えるのなら、……私たち、結婚しましょう」
熱烈なプロポーズに身体を叱りつけて背筋を伸ばす。
どう見ても、私は外見は中性的な男だ。なのに、彼は私がいいという。
そっちの趣味ではなく、もっと拗れた性癖かもしれないが、これ以上聞いてはいけないと私の中の本能がそれを止める。
今後私をこのように求めてくれる男性は現れないだろう。こんな好条件の見合い話も。
明確な回答は得られなかったが、彼は私に好意があると言う。それが理由で、お見合いの理由はこじつけ。ずっと私に目を付けていた。
きっと、根が深い何らかの性癖があるに違いない。結婚してしまってから、後々それは聞けばいい。政略結婚なのだから、私はある程度……性別を問わず浮気には寛容でいよう。
私の決意の返答に、蕩けるような笑顔を見せたコンラッド様のありがとうという返事のすぐ後、準備が整いました、と従業員が呼びに来た。