23 やはり、そっちの趣味が? あっても、もう許しませんけどね
私の笑顔と言葉に何を思ったのか、コンラッド様が何かを堪えるような顔をしている。
握っている手の力が強くなるのを、私の手を潰さないように堪えて震えている。
その視線や表情が何を求めているものなのか、さすがの私でも分かる。
ずっと……最初に助けてくれた日からずっと、そして今も、まるで薄いガラス細工を扱うように私に接する人。
男装していたせいもあるかもしれない。
私は女性からそういう目を向けられる事があった。コンラッド様もあったろう。だから、分かる。
そっと背伸びをして、繋いでいない手で首を抱き寄せて、私からコンラッド様の唇を奪った。
「……!」
経験のない私のファーストキスで、稚拙な、重ねるだけの唇の触れ合いを、そっと惜しむように離す。
目を開けると、真っ赤になって硬直しているコンラッド様がいた。
「コンラッド様? 私、間違えましたか?」
「……いや、あまりに……嬉しくて……ちょっと待ってくれ、胸が苦しい」
本当に心臓が早いようだ。私と違って経験が無いわけではないだろうに、握った手が熱くなった体温でじんわり汗をかいている。それは私もだけれど。
ここで、こうしないと、コンラッド様とはこの先にいけない気がした。
この方は待ってしまう。私のことを、ずっとずっと。手を繋いで隣を歩いて、気持ちも重なっていると示さないと、コンラッド様は慈しむ以上の事は絶対にしてこない。
「君に初めて目を惹かれてから……、こんな日がきたらいいのにと、思ってはいて……」
「結婚までしておいて何を言ってるんです?」
「私が君を好きすぎるから、君にも私を好きになって欲しいと……欲がわいた」
「好きですよ、と言ったはずですが?」
側から見れば、たぶん男同士で何をやっているのだろう、と思うような光景だろう。私ならそう思う。今の私は、今までで一番気持ちが男寄りになっている。
この人が愛しくて可愛くて堪らない。完璧な貴族の仮面の下には、どうしようもない程私を愛して子供のように独占したがる仕方のない人がいる。
私が男装していたから目を引いたのかな。やっぱり、そっちの趣味があるんじゃないかな、というのはまだ疑っているが、お見合いの時のように他に恋人を作ってもいいとはとても言えない。
「コンラッド様、浮気をしたら許しませんから」
「君以外に……私の心は動きはしないよ」
泣きそうな顔で言われて、額を合わせた私はふと笑った。頰を撫でる。可愛い、という気持ちでいっぱいになる。
この人は怖くないし、この人でなければ嫌だし、私も感化されているのか、独占したい。
私も完璧な公爵夫人になろう。鎖と南京錠の代わりに、本当の私を閉じ込める外の顔。
男装で甘ったれな私は、コンラッド様だけのものになるように。
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