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21 『完璧な貴族』の休暇

「キャロル、邸内を案内しよう。遅くなってすまなかったね」


 と、コンラッド様が言い出したのはいつもの私の部屋での朝食の最中だった。


 私は突然のことに驚きながら、口に入れていたスクランブルエッグを飲み込む。


「い、いいのですか? あれだけ鍵まで掛けていたのに……?」


「1週間休みを取れるように調整した。待たせてすまない、私も邸内の使用人の監督は全て執事長と侍女頭に任せていたから、自分もちゃんと知りたくて。知っておけば安心して君を家に残していけるしね」


 たしかに、城での宰相としての仕事の他に公爵としての領地と事業運営で、家の中まで手が回らないのは当たり前だろう。


 とは言え、私を軟禁(監禁?)するのはやはりやり過ぎだし、信用が無さすぎる。私に対しても、執事長や侍女頭に対してもだ。


「コンラッド様」


「ん?」


 ……だめだ、一言申し上げなければと思ったのに、コンラッド様は長い休暇を心の底から喜んでいる。


 忙しい方だし、結婚式の後も特別ゆっくりできる日は無かった。夜に一緒にお茶にするくらいで、朝が早いのでそれも短時間という日もあった。


 勘違いでなければ、私と丸々1週間のんびり過ごせるのがこの人は嬉しいようだ。内容はなんでもいいのだろう。旅行でも、屋敷の案内でも。


「なんでもないです。そういえば、私は執事長にも侍女頭にもお会いしてませんね」


「先代から2人は勤めてくれているからね、信頼してるよ。君の事も気に入ってくれるだろうから安心してくれ」


 この邸に住んで暫く経ってやっと顔を合わせる私を、果たして気に入ってくれるのかは甚だ疑問だ。


 朝食が終わると、コンラッド様は行こうかと手を差し出してきた。家の中で手を繋ぐ気なのか。でも、砕けた格好で嬉しそうに、当たり前のように手を差し出されると、それを拒否する気も無くなれば、そもそも権利も無い気がしてくる。


 だってこの日のために、あらゆる事を片付けて段取りをつけてきたはずだから。


 ご褒美……になるといいな。コンラッド様は私に甘えられるのがご褒美のようだから、私はちょっと笑ってから手を取った。


 男装していると私の所作は男らしくなる。着ているものに合った所作をしがちだが、メリアが慣らしてくれたおかげで薄化粧はしている。


「そういえば、髪を切ったのはどうして?」


「あぁ……、ずっと部屋の中にいるのに、伸ばしても邪魔だなと思ったので」


 その髪も少しワックスをつけて形を作られている。多少ボリュームを出した方がいいというメリアの慧眼には感服しきりだ。お陰で寝る前などの髪はぺっそりしてるな、と逆に違和感を覚えるくらいになった。


「君は前から美人だったけど、今はもっと美人だ。あぁ、着いたね」


 と、褒めながら廊下を歩いていたコンラッド様は不意に一つの扉の前で足を止めた。ノックすると、どうぞ、と老齢の男性の硬い声が返ってくる。


「ダロン、紹介が遅れた。妻になったキャロルだ」


「初めまして、挨拶が遅れて申し訳ない。コンラッド様に嫁いだキャロルです」


 私の姿や中性的な声や言動もあってなのか、ダロンと呼ばれた執事長は厳格そうな目と口を大きくあけて暫くほうけた後、目頭を押さえて涙ぐんだ。


「くっ、……まさか、ぼっちゃんの奥様を紹介される日が……くるとは……! 奥様の事はメリアたちから聞いております、良い方だと。熱心でもあり、旦那様を良く理解されていると。監禁していると聞いた時にはいつ三行半を突きつけられるかとハラハラしましたが……このダロン、精一杯奥様にも仕えさせていただきます」


 あ、やっぱり監禁だったんだ。


 とは思えど、私の評判がいいのはコンラッド様は嬉しいらしい。ぜひそうしてくれ、なんて言っているが、三行半を突き付けられるようなことをしていた自覚が抜けているようだ。


 その後、どこにいっても似たような反応をされる。私は物覚えはそんなに悪く無かったので、邸の人たちと挨拶を交わして顔を覚えていった。


 その間、旦那様が私の手を離す事は一度も無かったのだけれど。

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