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15 私はどうしようもなく女だった

「きゃっ……?!」


 休憩室の一つのソファに投げるようにして寝かされ、一人が鍵をかけた。


 何をしようとしているのか、私だってわかる。血の気が引いて、青い顔でやめてと何度も訴えた。


「なんだよ、きゃっ、なんて。お前らしくもない」


「やめて、って本当に女みてぇだな。いや、女じゃなきゃ連れ込んだりしなかったがよ」


 ぎゃはは、と2人が声を合わせて笑う。


 これが、男? 私が真近で見てきた父上も兄上も、コンラッド様も、こんな風じゃなかった。


 下劣で下品で粗野で力だけは強くて、人の話……いえ、女の話なんて聞く耳もない。


 無遠慮に私の太腿の辺りに触れる手。ドレスの上からでも、なんと気持ち悪く怖気がはしるものなのか。


 コンラッド様はこんな風に触れなかった。必要な時に、助けてくれる時に、優しく抱き上げてくれた。


「……コンラッド様! コンラッド様、ここです! 助けてください!!」


 私はようやく勇気を出して声を張り上げた。怖い。怖い。この男たちが怖い。


 男装して男の仕草で男のように喋っていた。それが私はちょうど男に見えるようなスタイルだったに過ぎない。たまたま、男の中でやっていけていただけ。


 私はどうしようもなく女だった。


「叫んでも聞こえねーよ、鍵もかけてんだぞ?」


「そうそう。大人しくしとけって、上等なドレスを破られたくはねぇだろ?」


 これが貴族の令息とは思えない。


 なんて下品な言葉遣いなのだろう。そして、これからされる事を考えると、私は一層声を張り上げるしかなかった。


 コンラッド様、と名前を叫んでいるのに、彼らは私の連れ合いが誰なのかも理解できていない。


 令息という立場に甘んじて勉強を怠っている。この国の宰相閣下の名前すら、彼らの中では私と結びつかないらしい。


「キャロル、喉が枯れてしまう。もう大丈夫だから少し待っていて」


「コンラッド様……」


 扉越しに聞こえた声に、令息二人は顔を見合わせた。鍵が掛かっているのに、という顔だ。まさか私に連れ合いがいるとも思っておらず、私が叫んでいた名前は誰か私の懸想している相手だと思ったのだろうか。


 コンラッド様が使用人に合鍵で鍵を開けさせ、警備兵を後ろに連れて中に入ってくる。どこまでも上品な登場の仕方は、今は何より暴力的なものに晒されたくない私には涙が出るほどありがたかった。


 しかし、状況を見たコンラッド様の目は氷よりも冷たくなり、表情は険しくなる。


 怖い、コンラッド様。でも、コンラッド様が怒っているのは私にではない。


 私に取り付いていた男2人の襟首を掴んで警備兵の方へ放り投げる。コンラッド様にくらべればひょろひょろの体の令息たちは、呆気なく捕まえられた。


「大丈夫だった? いや、この状況で女性が平気だったわけがない。すまない、君を一人にして」


「……!」


 私はソファの傍に跪いて心配そうに尋ねるコンラッド様に、自ら抱きついた。


 強く、強く抱きしめて、化粧が移ってしまうかもしれないのに彼の肩に顔を埋めた。


「コンラッド様、コンラッド様、……怖かったです」


「キャロル……、うん。家に帰ろう。怖い思いをさせてすまない」


 その後のことは泣きじゃくっていてよく覚えていない。


 コンラッド様に抱き抱えられて、そのまま馬車に乗って、部屋に連れて行かれてからもしばらく頭を撫でてもらっていた。泣き疲れて眠るまでずっと。


 本当に、私はどうしようもなく、女だ。

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