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14 『似合わない』『男のくせに』

「大丈夫?」


「練習、しましたので」


 今日はコンラッド様と初めての夜会に出る。結婚後、夫婦揃っての夜会は初めてだ。


 家の中では男装を許されている私も、さすがにもう借金もなくなった実家と、『完璧な貴族』の妻になったのだから女性として恥ずかしい格好は出来ない。


 立ち居振る舞いもダンスを習う中で直された。女性らしい立ち方、動き方があるらしい。


 しっかり教師に見られながらのハイヒールでの歩き方の練習の甲斐あって、今はあの時程不安定さを感じず、足をくじくこともないだろう。せいぜいダンスの時にドレスの裾を踏みつけないように気を付けるだけだ。


 短い髪ばかりはどうしようも無かったけれど、白い小花を象った髪飾りに、髪と同じ紫紺の、肩と首が大きく出ているドレス。上品な色合いと、ウエストのくびれを絞った作りでマーメイドラインに似た形だが、裾に向って広がっている生地。


 素直に、綺麗だな、と思う。それにあわせてめかしこんだ私は、女、に見えた。


 コンラッド様も揃いの紫紺の服で、夫婦という事を示している。彼の腕に手を乗せてエスコートされていれば、練習の甲斐もあるが、安心して歩けた。


「どうやら私の口調も頂けないそうですが、こればかりはどうも……直らず。恥をかかせてしまったら申し訳ありません」


「君といて、恥ずかしい事なんて何もないよ」


 この人の前では大事なところで失敗ばかりしている気がするのだが、どうして蕩けるような笑顔でそのような事を言えるのか、甚だ疑問だ。


 会場に入ってすぐは、立食形式のパーティーで、コンラッド様についてまわり式の時にはできなかった挨拶をしていった。今日は足も痛くないし、気持ち悪くもない。料理やデザートも少し(実はまだお見合いの席の事は引きずっている)いただいて、彼は宰相閣下でもあるので仕事の話をしに少し離れますと断って離れていった。


 私は今日は男装でも無いし、女性との社交の経験がない。


 壁の花にでもなろうか、地味だけれど、と思って飲み物のグラスを一つ持ち、壁際に寄って女性を目で追っていた。


 零れるように笑う可愛らしい女性。上品に口元を扇子で隠す美しい女性。背筋を伸ばしてまっすぐと歩く老齢の女性。


 私もいずれ、こういう風になれるのだろうか。華やかな服装の中、私も充分に華やかではあるけれど、まだ着慣れていない感覚はある。


「おい、キャロルじゃないか?」


「あぁ、本当だ……、なんだ、お前? 女装してんのか」


 年若い、身分の低い貴族の令息たちだ。社交の場で何度か顔を合わせた事がある。私とコンラッド様の結婚式に呼ばれる事もない子爵や男爵の令息は、私が人妻になった事を知らず、かつ、ずっと男だと誤解していたようだ。


「似合わねぇな」


「男のくせにその恰好はどうかと思うぜ? あぁ、いや、実はずっと女なのを隠してたのか? 趣味悪いな」


「んだよ、女だって知ってたらもっとお上品に接してやったのによ」


「何急に色気づいてんだよ。あぁ、婚約者でも漁りにきたのか?」


 聞くに堪えない。今迄は男同士だったから、こんな風に言われる事は無かったけれど、まさか女装をしているだけでここまで態度に差が出るとは思わなかった。


「いいじゃん、俺らも婚約者を探してる身だしさ」


「そうだな。こっち来いよ」


「え……、ちょ、まって……?!」


 ぐい、と無遠慮に腕を引かれる。


 怖い。男の力はこんなに強かっただろうか? コンラッド様を目で探すが、見つからない。


 夜会には休憩室がいくつか設けられている。そこに続く廊下に、私は大きな声をあげる事もできず、彼ら2人に連れ込まれた。

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