10 キャロル・アダムは男装でいいらしい
披露宴では席についたまま、挨拶回りは全てコンラッド様に任せ、あまりお酒に強くないという理由で水だけ舐めていた。
思えばコンラッド様には恥ずかしい姿ばかり見られている。式でも、化粧で顔色の変化など分からないはずなのに、ちょっとした事で気付かれてまた運ばれてしまった。
その後コンラッド様の屋敷に帰り(結婚したのだから今日から私はここが家だ)、私は部屋に運ばれると、暫くは寝室は別なので安心して屋敷に慣れてほしいという事と、男装で過ごしていい、という2つの事を言われた。
私付きの侍女として、少し年嵩の温和そうな眼鏡の女性と、長い茶色のおさげの女の子がつけられた。メリアとレイナと言うらしい。
足を怪我していることをコンラッド様が言い含めて出ていかれたので、私は全てを手伝ってもらい、重たいドレスを脱いで湯浴みをし、足に貼り薬を貼って包帯巻きにされ、ゆったりとした寝巻きであまりにも上等なベッドに横になった。
枕元には痛み止めと水差しとコップがあり、目が覚めてしまった時に飲もうと思って目を閉じた。
慣れないドレスや化粧に疲れていたせいか、呆気なく私は眠りに落ちて……、朝目覚めると、また手伝われながらの身支度をし、今日は一日安静、とメリアに言われて布団の上で朝食を摂った。
服は、新しいものだが寝巻きのままだ。数日はこの生活を続けるようにとコンラッド様に言いつけられているらしい。
到着していた時には意識が朦朧としていたが、アダム公爵邸は広い庭に立派な屋敷で、古くて大きさだけはあると思っていた我が家よりもずっと広いようだった。
足が良くなったらリハビリがてら邸内を散歩しよう。これから生活する場所を知らないのは、なんだか座りが悪い。
そうして足がよくなった日、朝早く目覚めた私はメイドが来る前に顔を洗い、クローゼットに何故か用意されていた男装を……サイズがぴったりでいささか落ち着かなくはあったけれど……身に付けた。
「おはようございます奥……さ、ま……」
「おはよう、メリア、レイナ。足はもう良くなったから、今日から旦那様と食事を摂るよ」
「……失礼ですが、その格好は?」
「習慣かな、こちらの方が落ち着く。慣れないハイヒールで足を挫いたばかりだしね。私服はこれで、認めてくれるかな?」
私の問いに、メリアとレイナは顔を見合わせてから考えるような顔になった。
「男装とは何のことかと思っておりましたが……確かにこれは、男装ですね」
「とっても素敵です、奥様……!」
「えぇ。とてもよく似合っております。公爵邸を覗くような不届き者はおりませんし、公爵様も許可されておりましたので異論もございません、が……」
メリアの眼鏡がキラリと光る。それを片手で押し上げて、メリアは続けた。
「女性の男装にも相応の化粧というものがございます。奥様には、化粧慣れしていただきますよ」
という宣言の元、私はドレッサーの前に座らされて、より美しい男装姿に仕立てられる事になった。
公爵家の使用人として『奥様』を飾るのを楽しみにしていただろう彼女たちの楽しみをこれ以上奪うのもなんなので、私は大人しく化粧とヘアセットを施される事にした。ごめん、メリア、レイナ。




