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1 お見合いは突然に

溺愛もの練習中ですので、応援よろしくお願いします…!

 中性的で理知的で素敵なキャロル・メイプル伯爵令息。と、巷では噂されているのが、私、キャロル・メイプル伯爵『令嬢』。


 子供の頃から兄のお下がりを着て、生まれる前に家が作った巨額の借金(不作で蓄えが足らず領民の為だというのだから仕方がない)のために大きさと歴史(つまり、古い)だけはある屋敷に住み、最低限の社交の場にも兄のお下がりを着て出て行くのだから、誤解されても仕方がない。私を着飾る事もできない斜陽貴族なのだ。


 誤解されても、いちいち説明するのも面倒なので、私も兄と同じように振る舞ううちにさらに誤解は広まっていった。貴族年鑑を見ればバレるが、私は嘘はついていない。兄と顔立ちも似ているので、二人で並んでいるとちょっとした黄色い声があがる。……たぶん、黄色い声だ。


 キャロルは男性でも女性でも名付けられる。ちなみに、2つ上の兄はアレックス、こちらもどちらの性別でもいい。この辺が、また誤解に誤解を呼ぶ要素の一つだろう。


 私は身体の凹凸が残念ながら少なく、肩は女性にしては少し広く、顔立ちも声も中性的。経済的だからと髪は伸ばしたことが無いし、マナーや教養は兄と一緒に習ったが、借金だらけの我が家でダンスや刺繍・詩歌音曲を習う余裕も無い。


 父と兄の領地経営を手伝い(二人は王宮で文官としても働いている)、調理人がいないので母と一緒に料理をし、立居振る舞いや口調も兄の真似なので男性じみている。


 厳格な父と、おっとりした母は、私に対してよく「すまない」「ごめんね」と言うのだが、私はあまり気にしていない。領民のために借金を背負ったのは、今年20歳になる兄が生まれる前。年若い伯爵とその妻君のやる事にしては、立派すぎるほど立派なことだ。


 節約生活も楽しいし、なんとか領を盛り上げて借金を返そうと画策するのも楽しい。私は充実していて、このまま結婚せずにいてもいいかと思っていた。持参金も無いし。


 しかし、ある日の家族4人の質素な晩餐の席で、父が言い出した。くず野菜を溶けるほど煮込んだスープに、メインは鶏肉の香草焼き、保存の効く黒パンである。


「キャロル、大事な話がある」


「何でしょうか、父上」


「………………お前に見合いの話がきた」


「はぁ」


 この「はぁ」は、驚きすぎての「は?」と、見合いという単語が右から左に抜けていって何かの幻聴かな? と思っての「はぁ」の真ん中くらいの発音だったと思う。暫くその言葉を吟味するのに時間がかかった。


「……は?!」


 やっと現実に戻ってきた私は、そう聞き返すしかなかった。


「あちらも嫁を取りたいが中々良い女性がいないという。で、私に年頃の娘がいると知ってお見合いしたいと。政略結婚なので、我が家の借金は全て肩代わり、持参金は要らない、結納金はたっぷり出す、という話だ。……お前が嫌なら断るが、……これ以上の相手はいないだろうというお方だ。私も年下ながらに頭が上がらない」


「……、まぁ、全部の問題が片付くのでしたら私は構いませんが……、その方は私が『コレ』だとわかっていらっしゃるのですか?」


「そこは……特に何も聞いてこなかった。向こうの条件は、財産や地位を目当てに寄ってこない子供が産める女性、だそうだ。ご苦労なさっているからな……」


 私は紫紺の髪を短く切って、サファイアの瞳をしている。女性ではあるが、顔立ちも体付きも先の通りに中性的。


 条件は満たしている。本来なら誰かに頼るより自分の手で借金を返したいと思っていたし、子供は産める。


 しかし、借金の額を考えると私が結婚する事で解決するなら悪く無いかもしれない。


 いつまでもこんな妹が家にいては兄の結婚にも障るかもしれないし。


「分かりました。断られる事前提で見合いを受けましょう。いつですか?」


「3日後だ。……ドレスを1着仕立てるくらいなら」


「要りません。断られたら金の無駄です。では、3日後に行ってきます」


 母は何故か額を押さえ、兄も苦笑いしていたが、父は諦めのため息を吐いて、返事をしておく、と告げ、また夕飯に取り掛かった。


 しかし……うまい話には裏があるというのが世の常だ。どんな裏があるのか、見合いの席で確かめなければ。

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