デーモンの談合
とある商会の豪邸。
夜遅くに談合する三人の男の姿があった。
光沢放つ高級テーブル上のロウソクの灯に照らされ、獣人の顔が浮かび上がる。
金の毛並みを携えた獅子の顔に、商人にしては豪勢な身なりは、存在するだけで空気を圧迫するようだ。
グレイヴ商会の会長で、ギルドデーモンの創設者でもある『グレイヴ』だ。
「ついに、債務超過した店が出たようだな」
「はい。しかし即座に店を押収し、迅速に債権回収を済ませました。連鎖的に資金繰りが悪化する取引先がないよう、既に手は打っております」
答えたのは、ドラチナス金庫の総合番頭である『ホルムス』というオークで、デーモンの副会長を務めている。
金庫番は、主に顧客の資金を預かったり、商会や店に融資したりして、手数料と金利で収益を得る事業だ。
もし、融資先が破産したりすると大損害をこうむるので、あらかじめ信用調査をし、その後の定期面談などで融資先の財務状況を把握。雲行きが怪しくなった場合は、返済期日に関わらず融資の全額返済を迫る。既に破産していた場合は、融資先のあらゆる資産を押収し負債の回収に回る。
この町の金庫番は各地区に数店舗あるが、すべてドラチナス金庫の配下であり、実質的に金融を支配していた。ギルドに逆らえば、ドラチナス金庫を敵に回すことになり、この町では生きていけない。
グレイヴは目を光らせ厳かに問う。
「手が早くて結構。損害のほどは?」
「大したことはありません。差し押さえた店は、新たに開業しようとしていた商人へ売り渡し、店員は皆、都市部の闇市場で奴隷として高く売れましたから」
そう言ってホルムスは、パンパンに膨らんだ頬を笑みで歪ませる。
オークは本質的には欲望の塊で、市場の裏側でよく奴隷商や違法薬物の転売などを営んでいる。ホルムスはその伝手が豊富なため、貪欲なわりに隙が無い。
それでもグレイヴは、険しい表情を崩さず低く唸った。
「しかし、これからも破産する者は増えるだろうな。現存するアビスどもは減り、上質な素材も在庫が少ない。それを察したのか、ギルドを退会してよそへ移住する商人も現れ始めた始末だ。そのせいで、ギルドの収益は落ちている……シャーム、例の薬物開発はまだか?」
「もう間もなくでございます」
落ち着いた声で答えたのは、ホルムスの横に座る細身の人間だった。
薬屋フローラの店長で、デーモンのもう一人の副会長でもある『シャーム』だ。
狡猾そうな不敵な眼差しをグレイヴへ向け、堂々としている。
そんな余裕綽々な態度に、グレイヴは額に青筋を立て苛ただしげに言った。
「遅いぞ。なにをもたもたしている」
「申し訳ありません。それが、あと一歩というところでどうしても素材がそろわず……アルビオン商会にも協力を依頼しているところです。もう少々お待ちください」
「まったく、わしも多額の出資をしておるのだ。もっと急いでくれ」
ホルムスが眉間にしわを寄せ、少し険の含んだ声で言うと、シャームは無言で頷く。
そしてグレイヴは深く息を吐き告げた。
「とにかく急げ。我らデーモンの繁栄のために。邪魔な者は排除して構わん」
「「承知しました」」
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