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虚栄

 そのとき、しびれを切らしたシャームが怒りの声を上げる。


「えぇいっ、往生際が悪い! なぜ倒れない!?」


 ウィルムはシャームへ目を向け、気丈に言い返す。


「俺が倒れれば、また竜人たちが犠牲になる。そんなこと、もう二度と許すわけにはいかないんだ!」


「竜人どもが犠牲になることで、ドラチナスは再び繁栄を取り戻すのですよ。少数の不幸によって、大多数が幸せになるのだから、それは素晴らしいことでしょう!?」


 シャームの身勝手な言い分に、ウィルムは拳を強く握る。


「繁栄? 違う! あんたたちギルドの一部の者が富を得るだけだろう!?」


「なにを!? ドラチナス領民だって豊かになることは変わらない!」


「俺たちは、そんなもの望んじゃいなかった! ただ平凡な毎日が暮らせればそれで良かったんだ!」


 叫んだウィルムの声が震え、感情がむき出しになる。

 彼の脳裏には今、かつての穏やかな日々が蘇っていた。 

 そこには兄がいて、アクアがいて、決して贅沢はできなかったが充実した毎日があった。

 そんな大事なものを奪ったギルドが許せない。

 

「ふんっ、所詮は偽善だ。そんな綺麗ごとを言っても、飢えに抗うことは誰にもできない!」


「違う! 飢えているのはあんたたち特権階級の奴らだ! どれだけの富を得ても、足りない、まだ足りないと、いつまでも満たされることのない飢えに……脅迫観念に突き動かされている。いつまでも満たされることのない、幻の繁栄なんているものかっ!?」


「なっ……」


 その言葉にシャームは瞠目し後ずさる。

 ウィルムの言葉は虚栄に隠された真実をあばき、現実を突き付けた。

 だが、だからこそ認められず、シャームは憎悪によって醜く顔を歪めた。

 彼は白衣のポケットから一本の注射器を取り出すと、ウィルムに殴り飛ばされてうずくまっていた獣人の元へ歩み寄る。


「いつまで寝ているつもりですか!? さっさとあの偽善者を葬りなさい! これは依頼ではない、ギルド副会長としての命令です」


 胸を押さえて苦しそうにうめいている獣人の腕を掴み、注射器を刺す。

 中の液体が彼の体内に注入されていく。

 それを確認したシャームの口の端が三日月のように吊り上がる。シャームの歪んだ笑みを見るに、なにかとんでもないことが起きそうな予感がしていた。

 次の瞬間、獣人がバッと目を見開く。

 その瞳は黄金に輝き眩い光を発した。


「ゥ、ヴゥゥゥ……ヴアァァァァァッ!」


 両膝を立てて上半身をしならせ絶叫。

 森中に響き渡るほどの声量がビリビリと空間を揺らす。

 鼓膜に叩きつけられるおぞましい叫び声は、痛みすら与えてくる。


「な、なんだ……」


 豹男が困惑の表情で仲間の異変を見守る。ジャックも同様に警戒していた。

 どうやら仲間の彼らでも、想定していない事態のようだ。

 しかし一歩下がったシャームは肩を揺らし、愉快そうに笑っている。

 いったいなにが起こっているのか、ウィルムにも分からない。

 やがて、獣人は苦しそうに自分の体をかきむしり始めた。


「お、おいっ!?」


 見かねた豹男が慌てて駆け寄るが、すぐに足を止める。

 獣人の全身が突然肥大化し始めたのだ。

 またたく間に体が何倍にも膨れ上がっていき、やがてその姿は醜いバケモノへと変わる。


「なん、だと……まさか、アビス……なのか?」


 バケモノの目の前で豹男が唖然と呟いた。

 その姿はアビスというには、あまりにもお粗末だった。

 アビスのような立派な剛毛は生えておらず、灰色の液体が全身から溢れ出し、皮膚はドロドロにただれている。顔は右半分が爛れて溶け出し、左目はギラギラと黄金の眼光を放っていて、真っ赤な口の中には鋭い牙。牙の間からはよだれと共に、腐臭をまき散らしている。全長三メートルは超えているが、背が酷く曲がって細い二足で立ち、ゆらゆらと上体を揺らす様はまるでゾンビだ。

 どう見てもウィルムの知るアビスではない。

 

「そんな、バカな……」


 豹男が頬を引きつらせて後ずさる。

 バケモノは彼を見据えると、長い腕を右へ振り抜き叩き飛ばした。


 ――グチャッ!

 

 まるで紙屑のように吹き飛ばされた豹男は、勢いよく大岩にぶつかり血をまき散らした。

 あまりにも無惨な最期だ。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


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