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余韻

 それからしばらく、フレアダイト鉱石は飛ぶように売れた。

 噂を聞いた商人たちが次から次へと押しかけて来て、大量に仕入れた鉱石も日が暮れ始める頃には完売していた。

 ルークが広場を去った後、ウィルムも売り手として加わったが、彼への嫌悪から客足が遠のくということもなく、おかげでエルダもフェアもヘトヘトだ。

 もしかすると、エルフの美人姉妹がいたおかげなのかもしれない。

 ウィルムは、ベンチにぐったりと座り込み休憩している二人へ深く頭を下げた。


「今日は本当にありがとうございました! 急な依頼にも関わらず大量のフレアダイト鉱石を仕入れてくれて、それだけでなく販売まで手伝って頂いて」


「いいのよ、ウィルム君。困ったときはお互い様だから。それに、君のカッコいい姿も見れて良かったわ」


 エルダは頬に手を当て、うっとりと微笑む。

 そう言われると、ウィルムはなんだか気恥ずかしくなって目を泳がせた。

 横に座るフェアも、満面の笑みでうんうんと頷いており、彼女の頭をエルダが優しく撫でる。


「フェアも、『ウィルムさんを助けないと!』って張り切っていたものね」


「え? ちょっ、ちょっと!? お姉ちゃんは余計なこと言わないで!」


 フェアは頬を赤くして咳払いすると、立ち上がりウィルムに目を合わせた。


「このくらいお安いご用です。ウィルムさんが頑張ってるのに、協力しないわけないじゃないですか。もっと頼ってくれてもいいんですよ?」


 そう言ってフェアは上目づかいでウィルムを見上げ、いたずらっぽく微笑む。

 ウィルムにとっては、この上なく頼もしく感じ、同時に愛しさが込み上げてきた。


「ありがとうフェア、本当に助かったよ」


「えへへぇ」


 フェアは赤くなった頬に手を当てて幸せそうにはにかむ。


 美人エルフ姉妹に癒され、達成感に浸っていると、ウィルムの視界に見慣れた後ろ姿が映った。

 長い黒髪をポニーテールにし、背筋を伸ばして堂々と歩く後ろ姿。

 カエデだ。

 ウィルムは反射的に走り出し、カエデの元へ慌てて駆け寄った。


「カエデ!」


「っ!」


 カエデはビクッと肩を震わせ固まった。

 彼女はちょうど路地に差し掛かったところで、建物の下で影になっているため、今の時間帯ではよく見えない。

 しかし誰かに見られる可能性も下がるため、今は好都合だ。 

 カエデは後ろを振り向かずに言った。


「ウィルム……ありがとう」


「それはこっちのセリフだよ。力を貸してくれてありがとう。それと、リサさんのことは、ごめん」


 ウィルムは悲しげに声のトーンを下げ謝る。

 これで、アビスとなってしまったカエデの親友を殺すことになるからだ。

 たとえ正しい選択であっても、簡単に割り切れる問題ではない。

 

「……私にはなにも言う資格はないわ。でも、あなたを信じる」


「そうか……ありがとう」


 ウィルムの礼を聞いて、カエデはそのまま立ち去って行った。

 一抹の寂しさを覚えるが、これは復讐の道。

 生贄となった仲間たちの仇を討つためには、あらゆる犠牲と痛みを乗り越えなければならない。

 そしていつかは、カエデ自身も犠牲になるかもしれないのだ。

 ウィルムは胸に闘気を宿し、無意識に拳を握りしめていた。


 その後、エルダたちの元へ戻ると、フェアから「さっき話していたお姉さんは誰ですか!?」と切迫した表情で問い詰められた。

 去り際の後ろ姿くらいしか見えなかったはずなのにと、ウィルムは彼女の勘の鋭さに驚く。

 エルダは困ったように苦笑し、「恋する乙女は……」となにやら呟いていたがウィルムにはよく聞こえなかった。

 頬を膨らませてジト目を向けてくるフェアに、ウィルムはタジタジしながら事情を説明するも、あまり納得してくれない。

 なぜだか不倫のバレた夫の気分だ。

 しかし日も暮れてきているため、エルダに早くイノセントへ戻るよう促した。

 ここにいては、怒り狂ったギルド幹部に狙われる可能性があるからだ。

 エルダは売り上げの一部をウィルムへ渡すと、「うぅ~」と涙目になっているフェアと日雇いのエルフを連れ、すぐにドラチナスを去るのだった。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


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