謎の襲撃者
――ヒュンッ!
「なっ!?」
空を切り鋭利な刃がウィルムの首から迫る。
それも左右同時に。
ウィルムは、左右から突然襲撃されたのだ。
「くっ!」
反射的に体を捻り、必殺のニ撃を避けたウィルムは地面を転がる。
避けられたのは、ハンター時代に鍛えた俊敏性のおかげだ。
慌てて立ち上がると、首の右側から血が流れてきた。とはいえ、薄皮一枚で済んだのは幸運でしかない。
荷車の前には、黒装束に身を包んだ二人の男が立っていた。どちらも細身で、それぞれ片手にダガーを持ち、ウィルムをまっすぐに睨みつけている。触れれば切れてしまいそうな、静かな殺気を纏い隙がない。
ウィルムの額につーっと冷や汗が流れる。
(……どういうことだ?)
彼らの装備に、ウィルムはますます困惑する。
防御力を考えていない明らかな軽装。それにダガーなど、殺傷力が低いためモンスター相手には役に立たない。
となると、彼らは最初から人を狙ってこの密林に潜んでいたというのか……
「あ、あんたたちは何者だ!?」
ウィルムが恐怖心を抑え問うた。
しかし答えが返ってくるわけもなく、謎の二人は問答無用でウィルムへ襲いかかって来る。
――ヒュンッ!
「くっ!」
左右から迫りくるダガーの連撃を紙一重で避ける。
だが隙が小さく、カウンターを放つ隙もない。
攻撃が当てられないことで、敵にも焦りが見え始めるが、ウィルムも避けるので必死だった。
そのとき、背後で声が上がる。
「ウィルム!」
ジャックの声だ。
どうやらモンスターは片付いたらしい。
――ヒュンッ!
「しまっ――」
一瞬の油断を突かれた。
ウィルムは首へ迫った刃を慌てて左腕で防ぐ。
右の拳をカウンターとばかりに放つが、敵は軽々とバックステップでかわした。
ウィルムの左腕から血が滴り落ち、表情が苦痛に歪む。
「野郎!」
ジャックたちがウィルムの横へ並ぶと、敵二人は後ずさり顔を見合わせた後すぐに左右へ分かれて逃走した。
血気盛んな獣人たちが追おうとするが、ジャックが一喝して止める。
「ウィルム、大丈夫か!?」
「なんとかね……」
「奴らはいったい何者だ?」
「分からない」
ジャックは獣人に薬草と包帯を荷台から持ってこさせると、適当に応急処置を済ませた。
ウィルムは慌てて荷車に駆け寄り、乗っている商品を見回すが、特に盗られたものはなさそうだ。
となると、襲撃者たちの狙いが分からない。
ジャックは苛ただしげに鼻を鳴らす。
「なにか命を狙われることでもしたか?」
「いや、そんなことはない」
「そうかい。それにしても、中々の身のこなしだったな」
「ああ、危なかった。彼ら、かなりの実力者だったよ」
「違う違う。あんたのことだよ。貧乏商人の動きには到底思えないな」
「っ! ……昔、色々あってね……」
ウィルムは探るように目を向けてくるジャックから、目を逸らし悲しげに顔を歪めて声のトーンを落とした。
ジャックは「そうかい」とだけ淡々と言うと、それ以上は言及してこない。
すぐに獣人たちに荷車を引かせ、重苦しい雰囲気の中ドラチナスへの帰路につくのだった。
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