不気味な咆哮
ルークは協力者を求めていた。
彼はギルドのやり方に対して強い疑念を抱いていたものの、熱心なギルド支持者である領主補佐官カドルの厳しい反発によって、大きくは動けなかったのだ。
ルークの前任者はギルドの権力増大に危機感を抱いていたが、カドルの策略によって失脚した。
脅威を感じた領主アンフィスは、若く正義感に燃え実力的にも頭一つ抜けていたルークを補佐官に任命し、現状の打破に期待しているのだという。
ある日の深夜、本来なら寝ているはずのウィルムは来訪者と向き合っていた。
テーブルを挟んで向かいのソファに座っているのは、フード付きの焦げ茶色のロングコートを羽織った騎士の男。
コートから伸びた腕には、魔物の毛皮で編みこまれた籠手が装着されている。ガタイの良い短髪の大男だが、穏やかな表情を浮かべ、丁寧な口調で話す様子は騎士には見えない。
だからこそ彼が来たのだろう。
一般人を装ったこの男は、表立って動けないルークの腹心だ。
「ギルドはまだ資金援助を求めているんですか?」
「はい、相変わらずです。それだけでなく、カドル補佐官の圧力が強まっているようで、ルーク様もいつまで時間を稼げるか分からないとおっしゃっています」
「そうですか……」
ウィルムはため息を吐く。
現状は芳しくないようだ。
いくら領主補佐官の一人を味方につけたからといって、そう簡単にギルドを倒せるわけではない。期待していた分、落胆はあった。
とはいえ話を聞いていると、カドルという男は領主補佐官という立場にありながら、ギルドに与し過ぎている。
それは、ギルドの存在がドラチナスの経済を支える上で、最重要だと認識しているからか、それとも……
「カドル補佐官がギルドと裏で繋がっていると、ルーク様はお考えです」
騎士はウィルムの考えを察したのか、先回りして告げる。
「やはりですか」
ウィルムは頷き、難しい顔で俯いた。
そうなると、ギルドを打倒するのはさらに困難と言える。
しかしそこまで資金繰りに苦慮しているというのなら、そこが弱点になるのではないかとも考えられる。
ウィルムも商人の立場からすれば、ギルド側の気持ちが分からなくもない。
もし資金調達が必要なら、他地域の金融業者に借りるという手もある。しかしそうすると、金利も高くつく上に、下手すればギルドの支配が揺らぎかねない。
結局は、留保されている領内財源から無償で支援を受けるほうが後々の財務に大きく影響が出るのだ。
ウィルムはふと顔を上げる。
「このまま資金調達が受けられなければ、ギルドは勝手に潰れるのでは?」
「それは分かりませんが、ルーク様の望むところではありません。ギルドが資金難によって破産するということは、ドラチナスの市場を巻き込み経済恐慌を引き起こすでしょう。そうなれば、多くの市民が不幸に見舞われることになる」
ウィルムは頬を歪ませて頭を抱えた。
前途多難とはこのことか。
だからこそ、ルークも極秘裏に練っている改革の実現性を上げる必要があるのだ。
そのためには、ギルドが腐りきっている現状が……ドラチナスの害となっている決定的な証拠が必要だった。
そしてそれこそ、ウィルムの成すべきこと。
「そう言えば、例の研究施設のことですが……」
「なにか分かりましたか!?」
ウィルムは思わず身を乗り出す。
彼がルークへ依頼していたのは、アビスを研究しているフローラの施設がどこかにあるのではないかという調査だった。
ルーク自身も半信半疑ではあるが、調査には協力してくれている。
しかしウィルムの期待とは裏腹に、騎士は残念そうに肩を落とした。
「詳しいことはなにも」
「そう、ですか……」
「ただ、奇妙な話を聞きました」
「奇妙な話?」
「なんでも、グレイヴ商会長の屋敷の近くで不気味な咆哮を聞いた者がいるのです」
「えっ!?」
「その者は怖くなってすぐに離れたそうですが、もしかすると――」
ウィルムは目を見開き拳を握る。
一筋の希望を見つけた気がした。
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