恩人
エルフ族の統治する国ヴァルファーム。
国中に緑の広がる自然豊かな国で、ダークマターやミスリル銀鉱石など、様々な鉱物資源の鉱脈に恵まれ、交易によって膨大な国益を上げている。
資源に恵まれ自給自足に長けていることもあり、他国で発展しているテクノロジーにはやや懐疑的だ。
ヴァルファームの国土の端にある森の奥には、『イノセント』という小さな村がある。
ここはドラチナス近傍の森と繋がっており、ウィルムは五年前ここを通じてアビスから逃げ延びた。
そして今でも頻繁に行き来している。
「――よし、こんなものかな」
たくましい木々が生い茂り、木製の民家や店舗が並ぶ中、大きな荷車にせっせと鉱物資源を積み重ねていく一団がいた。
荷台の上では、光沢を放つ無数の鉱石が輝いている。
順調な作業状況に、ウィルムは満足げに頬を緩ませた。
「エルダさん、いつもありがとうございます」
「いいのよ、ウィルムくん。今のあなたは私にとっても大事な取引先ですから」
ウィルムの対面に立ち微笑んでいるのは、イノセントに店を構えているエルフ族の『エルダ・ジュエル』だ。
長い金髪を後ろへ流しており、肌は雪のように白く鼻目立ちが整っている。落ち着いた雰囲気に優しい性格もあり頼れる美人お姉さんだ。
ウィルムは、恩人であり今は商売仲間でもあるエルダの元へ、鉱物資源を買い付けに来ていた。
店の倉庫から荷車へ、店員のエルフとウィルムの雇った用心棒たちが鉱物資源の移動を終えたところだ。
パッと見ただけでも、ダークマター、鉄鉱石、エーテルストーン、ミスリル銀鉱石……と、種類は多岐にわたる。
ウィルムがドルガンの通貨であるリュートの入った巾着袋をエルダへ渡したところで、荷車の後ろからエルフの少女が歩み寄って来た。
「ウィルムさん、もう行っちゃうんですか?」
「うん、そうだよ」
「えぇ~もっとゆっくりして行けばいいのにぃ」
少女が不満そうに頬を膨らませると、エルダは苦笑して諭すように言った。
「邪魔しちゃダメよフェア。ウィルムくんは忙しいんだから」
「分かってるよ、お姉ちゃん。私だってウィルムさんに迷惑をかけたくないわ」
少女の名は『フェア』。
エルダの妹で店の手伝いをしている。ヴァルファームでは鉱石商を営む美人姉妹として有名だ。
金髪碧眼で抜群のプロポーションはエルダに引けを取らないが、姉と違って顔にはまだあどけなさが残っており可愛らしい。
年齢はウィルムの二つ下で、五年前突然転がり込んできたウィルムに対し、強い警戒心を持っていたが彼の真面目な働きぶりに今は心を許していた。
背の低いフェアは上目遣いでウィルムを見て問う。
「次はいつ来られるんですか?」
「う~ん、また数か月後かなぁ」
「そうですか……次こそ、もっとゆっくりしていってくださいね!」
「うん、そうするよ」
「絶対ですよ? 私、楽しみにしてますから!」
フェアは花が咲くように笑みを浮かべると、「それでは」と頭を下げ、軽快な足取りで店へ戻って行った。
ウィルムもエルダへ礼を言うと、荷車へと歩く。
すると、嫉妬の混じった視線を向けてくる用心棒と目が合った。
「――まったく、いいご身分じゃないか」
「よしてくれよ。僕は貧乏な商人で、ジュエル鉱石商は大事な商売仲間さ」
「へっ、そうかい」
彼はドラチナスからイノセントを行き来するために雇ったハンターだ。
名は『ジャック』。
ハンターには獣人や鬼人も多いが、彼は身体能力で劣る人間だ。
しかし腕はそれなりに立ち、ウィルムが商売のために遠出するときはよく雇っていた。
不愛想だが仕事も早く信頼できる。
「それじゃあ、行こうか」
「了解」
ジャックは短く返事をすると、他三人のハンターたちに指示をだ出し荷車を引く準備を整えた。
ウィルムは背後を振り返り、手を振って見送ってくれるエルダと、再び戻って来たフェアに頭を下げ、イノセントを出発するのだった。
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