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隠された真実

「――くっ」


 ウィルムは目を閉じ、反射的に両腕を胸の前でクロスして防御の体勢をとる。

 なんの意味もなさない行為だ。

 他のハンターたちがアビスを追って来ることを期待したが、結局現れず、後は大人しく喰われるだけ。

 そう覚悟したウィルムだったが、いつになっても敵に動きが無い。


「……?」


 恐る恐るウィルムが目を開けると、アビスはその場でピタッと静止していた。

 まるで時間が止まったかのようだが、口元は小刻みに動いて荒々しい呼吸を繰り返している。

 そのとき、ウィルムの視界を光が襲った。

 腕に着けているミスリル銀製のブレスレットへ、木々の合間を縫って差し込んだ光が反射したものだ。

 それはかつて、アクアがウィルムへプレゼントしたもの。

 他の装備と共に身に着けていたのだ。


「――ウィル、ちゃん」


「………………え?」


 突然の声にウィルムは顔を上げる。

 今のは低くおぞましいアビスの声だったが、はっきりと聞こえた。

 アビスは小刻みに震えだし、歯をガチガチと鳴らしている。

 今にも暴れ出しそうだ。

 ウィルムの体は恐怖のあまり勝手に動いた。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


 ロングソードを強く握り雄たけびを上げる。

 地を蹴って跳躍し、漆黒の髪を引っ張って高く舞い上がる。着地したのはアビスの首。

 そして、背中を走り胸の裏側まで移動すると、両手でロングソードの柄を握り、深々と突き刺した。


「グガァァァァァ!」


 アビスは苦しげに叫び暴れ出す。

 ウィルムは振り落とされないよう、突き刺さった剣の柄を両手で掴む。

 ひとしきりアビスが暴れ、背を大きく曲げたところで――


「これでぇぇぇっ!」


 突き刺さった剣の柄を思い切り蹴り、刀身をさらに深く突き刺す。


「グギャァァァァァンッ!」


 それがトドメとなったか、アビスは断末魔を上げ大樹の幹に顔面をぶつけると、そのまま横へ倒れる。

 もう飛び降りる体力もなかったウィルムは、勢いよく投げ出された。

 受け身も取れず体を地面に打ち付ける。

 砂埃を思い切り吸い込んでしまったウィルムが、咳き込みながら上半身を起こして前を見ると、アビスは完全に沈黙していた。

 もしかすると、最初から瀕死の状態だったのかもしれない。

 茫然としていると、倒れたアビスの髪から、光るなにかが転がって来た。


「これは……」


 ミスリル銀製のブレスレットだった。

 ウィルムは自分の腕が千切れてしまったのではないかと、慌てて左腕を見るが、同じものが確かにあった。

 と、なると、あれの持ち主は――


 ――ウィル、ちゃん


 アビスが最後に発した声が耳の奥で蘇る。

 あの呼び方をしていたのは、一人しかいない。


「……アク、ア?」


 茫然と呟く。

 まさかと思った。

 もし仮に、あれがアクアのブレスレットなのだとしたら、アクアはアビスに殺されてしまったのだと考えるのが妥当だ。

 だがあのアビスは、ウィルムのブレスレットを見て動きを止めたばかりか、彼の名を呼んだのだ。アクアの呼び方で。

 ウィルムは己を奮い立たせ立ち上がると、アビスの死骸へ近寄り、漆黒の髪を掻き分けて他の手掛かりがないか探す。

 そして、出て来たのは――


「――バカな……なにが起こっているんだ」


 彼の手に握られていたのは、薬品の臭いが残った白い布。

 察するに、白衣の一部だ。

 ドラチナスで白衣を着て仕事をしているのは、薬品の研究開発まで自前で行っている薬屋フローラ以外にない。

 だが妙だ。

 なぜハンターではないフローラ店員の白衣が、密林にいるアビスから見つかるのか。

 どうもきな臭い。


「まさか……」


 ウィルムは弾かれたように顔を上げた。

 ようやく竜人族の失踪と繋がる。

 五年前、アビスが出現する前にも失踪事件は起こっていた。

 もし、これの正体が本当にアクアなのだとすると――アビスの正体は『竜人』ということになる。

 そしてそれは、フローラが薬かなにかを使って、人為的に作り変えたのではないだろうか。

 ではなぜ、そんなことをする必要があるのか。

 今となっては簡単な答えだ。

 アビスの出現によって、ドラチナスは一度壊滅の危機に陥ったが、その後立て直し発展を遂げた。


「僕たち竜人は、ギルドの繁栄のための生贄いけにえだったのか……」


 ウィルムは拳を握りしめ、地面へ突き立てる。

 その手は震えているが、それは恐怖からではない。

 純粋な怒りだ。

 ウィルムの心に憎悪が吹き荒れる。


「よくも……よくもっ、僕に二度、仲間を殺させたなぁっ!」


 今までは、見捨てたことを悔やんでいたが、心のどこかでそれは仕方のないことだと諦めていた。

 もちろん、自分自身が許せないのは変わらない。

 だが今は、アクアをこんな目に遭わせ、そして自分に殺させた黒幕を許すつもりはなかった。


「アクアごめん。僕はまだ、君の元には行けそうにない。今は安らかに眠ってくれ」


 ウィルムはアビスの死骸の頭に手を乗せ、寂しげに呟くのだった。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

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