表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/66

最悪の遭遇

 ――ガキイィィィンッ!


 ウィルムは間一髪で腰から鞘を外し、ダガーの刃を受け止める。

 そしてすぐに、二人目が右から回り込み、素早くダガーを突き出した。

 ウィルムは鞘で初撃を受けたまま、右手で反射的に柄を握る。

 そして躊躇する前に勢いよく振り抜いた。


「このぉっ!」


 薙ぎ払われた白刃をダガーの刃で受けた敵は、バックステップで下がる。

 ウィルムはそのままロングソード引き、目の前の敵へ鋭い突きを放つ。

 しかし軽々と身を捻り避けられた。

 敵の俊敏性は、まるで野性の獣だ。

 ウィルムが剣を握る右手を見ると、ガタガタと震えていた。

 

(くそっ、嫌になる。握れなかったはずなのに、自分がピンチになるとこれだ)


 内心で毒づく。

 仲間たちへの負い目で抜けなかったはずの剣が、自分のためなら抜けるということに強い自己嫌悪を覚えたのだ。

 しかし今は葛藤している余裕はない。

 真正面から仮面をつけたリーダー格が、左右からはダガーを光らせた敵が一斉に迫る。

 ウィルムは左で鞘を、右で剣を強く握り、天性の戦闘能力を駆使して立ち回った。


 ――キイィィィィィン!


 激しい金属音が幾度も鳴り響く。

 仮面の敵の片手剣は重い分、動きが鈍るが、ダガーの機動性で隙をカバーしてくる。

 三体一でも互角に立ち回れているように見えるが、ウィルムは確実に追い込まれていた。

 肩当てを砕かれ、腹に裂傷を負い、刃が頭部を掠めたことで垂れた血が片方の視界を奪う。それでもまだ戦っていられるのは、竜人特有の身体能力と生命力のおかげだ。

 そして、投擲されたスペアのダガーが太ももに刺さり、ガクンと片膝を地につく。

 それを好機と三人が一斉に飛び掛かって来るが――


「くっそぉぉぉっ!」


 ウィルムは鞘を捨て、両手で剣を握り力の限り薙ぎ払った。

 三人は咄嗟に武器で受け止め、一旦距離をとる。


「なんなんだコイツは……」


「商人とは言っても、やはり竜人か」


 襲撃者たちにも動揺は見えるが、肩で息をしているウィルムも満身創痍。

 太ももに刺さったダガーを抜くと、血が溢れ出す。

 剣を地面に突き刺し、それに体重をかけて前を睨むと、三人ともトドメを刺そうと地を蹴った。

 次はもう受け切れないと、ウィルムが覚悟を決めたそのとき――


「――ギィャオォォォォォンッ!」


「「「――っ!?」」」


 禍々しい咆哮が突如響いた。

 体の芯まで恐怖を伝える、おぞましく力強い叫びだ。

 ウィルムは動けず、襲撃者たちも足を止め、キョロキョロと慌てて周囲を見渡す。

 そしてすぐに静寂が訪れ、が吹き荒れたと認識したときには――


 ――ドスンッ!


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


 突如背後へ降り立った怪物に、襲撃者の一人がわしづかみにされ――そして、頭から喰われた。

 鮮血が飛び散り目の前の二人に降りかかる。

 残った二人は慌てて散開し距離をとった。

 背後にウィルムがいることなど、気にも留めていない。

 ウィルムも出血で意識が朦朧となりながらも、ゆっくりと顔を上げる。

 目の前にいたのは、一番遭遇したくなかった異形の怪物『アビス』だ。

 驚くほど細く黒い二本の足で立ち、平べったく大きい胴体の背を曲げ、顔を前へ突き出している。顔の上半分は漆黒の毛で覆われ、ギザギザな牙を光らせる巨大な口しか見えない。黒と灰の混じった肌色を持つ全長三メートルほどのバケモノだ。腕は長くてのひらだけ異様に太いが、左腕は肩から先が無く赤黒い血を垂れ流している。

 もしかすると、他のハンターたちから逃げてきた個体なのかもしれない。


「そんな……」


 絶望に茫然とするウィルム。

 アビスは彼を見定めて二ィッと口の端を歪めた。

 恐怖で背筋が凍る。

 襲撃者二人もやむを得ず、ウィルムの横を駆け抜け逃げて行った。

 同時に、アビスが長い腕をウィルムへ振り下ろす。


「ぐわぁぁぁっ!」


 ウィルムはかろうじて身を捻り、スレスレで直撃を避けたが、それでも衝撃に地面は割れ風圧で吹き飛ばされる。

 全身を激しく打ち付けてゴロゴロと転がる。激痛に顔を歪めながらもウィルムは立ち上がり、足を引きずりながら逃げようと走り出した。

 それを追いかけるように、ドスンッ、ドスンッとアビスがゆっくり追って来る。

 ウィルムの体力はもう限界だ。

 大きな樹木の幹に辿り着くと、背を預けアビスへ体を向けた。

 すぐに目前まで迫ったアビスはさらに背を曲げ、ウィルムの目の前まで顔を近づけてくる。

 そして、よだれまみれの口を大きく開け――

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


また、↓の作品もよろしくお願い致します。


・転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~

https://ncode.syosetu.com/n0778fw/


・ダークインベスター ~逆襲のための異世界投資術~

https://ncode.syosetu.com/n4804gj/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ