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絶望の連続

「――ごめんなさい」


 最後の希望もはかなく崩れ去った。

 結局、取引がすべて不成立となったウィルムは、フローラに来ていた。

 しかし期待は裏切られ、悲しげに放たれたカエデの一言は、絶望の淵にいたウィルムを無慈悲に叩きのめす。

 エーテルストーンを詰めた袋を持つ手が震えた。


「どうしてなんだ? 騎士団の鑑定結果も問題なかった。それなのにどうして……」


「ごめんなさい」


「それだけじゃ分からないよ」


 声のトーンを下げ、伏し目がちに繰り返すカエデ。

 これでは交渉の余地もない。

 もしかすると、店長のシャームから通達があったのかもしれない。「信用のおけない商人とは取引をするな」と。

 それでもウィルムは縋ろうとする。


「頼むよ。もう後がないんだ。このままじゃ僕は……」


「あなたはなんのために商売をするの?」


「え?」


 強くまっすぐな言葉に、ウィルムは怯む。

 カエデは真剣な表情で彼を見つめていた。


「自分が生活するため? それとも金儲けのため?」


「それは……」


「私は薬屋の仕事を通して、誰かの助けになりたいと思っているわ。誰かを幸せにできない商売なんて、それでお金を得たって、ただ虚しいだけだもの……」


「それは……僕も同じ気持ちだよ」


「だったらどうして、今回みたいなことが起きるの?」


「だからそれはっ! みんなの勘違いなんだ」


 思わず感情的になったウィルムは、慌てて言葉尻を弱める。

 カエデのとがめるような冷たい目が辛かった。

 彼女は悲しげに目を伏せる。

 

「私だって信じたいわ。あなたは真面目な人のはずだもの。でも今のあなたは、それを売ることしか考えていない」


「っ……」


「事件のことを聞いたときは、本当にショックだったわ。商売は誰かを幸せにするものであって、迷惑をかけてでも押し通そうとするのなら、それは間違ったやり方だと思うの」


「そっか」


 ウィルムは悲痛に顔を歪めた。

 理不尽への怒りはない。

 ただただ悲しかった。

 なにも言い返せない自分が惨めで嫌だった。


 重苦しい沈黙が流れる。

 周囲には他の店員はおらず、気まずく息苦しい。

 カエデはため息を吐くと、エーテルストーンを受け取りウィルムの前に金を置いた。


「カエデ?」


「私個人としては、信じたいという気持ちが捨てられないの。だから頑張って、ウィルム」


「……ありがとう」


 ウィルムは震える声で礼を言って金を受け取り、フローラを去るのだった。



 それから毎日、諦めずに何度も取引先を回った。

 迷惑がる商人や鍛冶職人たちに何度だって事情を説明した。

 だが一度植え付けられた不信感が消えることはなく、鉱石素材の在庫は一向に減らない。

 このままでは、購入費用を回収できず赤字となり、破産が見えてくる。


「……ダメ、か」


 精神的に疲弊していたウィルムは、中央広場のベンチに腰掛け天を仰ぐ。

 曇った空はまるでウィルムの心を映し出しているようだ。

 今にも雨が降りかねない。

 大きくため息を吐き、肩を落として俯いていると、突然声をかけられた。


「ウィルムさん」


 特に感情を宿さない平坦な声に顔を上げる。

 ベンチの前に立っていたのは、首にグレーのスカーフを巻き、紺のブラウスの上からグレーのケープを羽織った男だった。綺麗に整えられた黒の短髪に、やや白が混じっている初老の紳士だ。背を伸ばし堂々としている。

 ウィルムはその顔に見覚えがあり、すぐさま立ち上がった。


「あ、あなたは……」


「いつもお世話になっております。ドラチナス金庫の者です」


「僕にいったいなんのご用が?」


 ウィルムの頬が引きつる。

 この男はいつもウィルムが利用している金庫番二番店の店員で、鉱物資源を仕入れる際には、融資担当になったこともある。

 そんな人物がわざわざ自分に声をかけてくるなど、ただ事であるはずがない。

 男はあくまで穏やかに告げる。


「融資の件でご相談がありまして。二番店までご足労頂けないでしょうか?」


「……分かりました」


 ウィルムはなんだか胸騒ぎがしたが、大人しく従うことにした。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


また、↓の作品もよろしくお願い致します。


・転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~

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