罰
翌日、午後には鑑定の結果が出て、「すべて品質に問題なし」ということが分かり、商品も無事に返却された。
だが、そのときにはもう手遅れだった。
「――悪いねぇ、あんちゃん」
いつもは豪快な笑みを浮かべる鍛冶屋の親方が、ばつが悪そうに目を逸らして後頭部に手を当てる。
これでもう三件目だ。
ウィルムは鑑定の結果が出てすぐに鉱石を売りに来たが、いつも取引しているお得意先は皆、迷惑そうに愛想笑いを浮かべ、鉱石素材の取引を拒絶してきた。
町中へ「ウィルムの取り扱う鉱石素材が不良品かもしれない」という噂が広まっていたからだ。
正式な鑑定結果も問題なかったと訴えるが、誰も聞く耳を持たない。
商人にとっての信用は、それだけセンシティブなものなのだ。
ウィルムが肩を落としながら台車を引き、大通りを歩いていると、背後から怒声が上がった。
「――おい、あんたっ!」
「はい?」
ウィルムが驚いて振り向くと、そこに仁王立ちしていたのはレザーアーマーを着込んで背に長剣を収めた獣人のハンターだった。
その眼差しはきつく強い意志を秘めている。
「ウィルム・クルセイドだな?」
「は、はぁ……そうですが」
「人ひとりを殺しておいて、よくのうのうと商売ができるな! どれだけツラの皮が厚いんだ」
「なっ!? そ、それは誤解なんです!」
獣人が声を荒げたことで周囲の注目を集め始め、ウィルムは慌てて否定した。
「よくも抜け抜けと、そんなことが言えるな」
「いきなり突っかかって来て、そう言うあなたいったいなんなんですか?」
「俺は、死んだハンターの仲間だよ」
「っ!?」
ウィルムは目を見開き、声を詰まらせる。
そしてようやく気付いた。
この男が瞳に宿しているのは、純粋な憎悪だ。
「あんたに俺の気持ちが分かるか? 目の前で仲間が死んだ俺の気持ちがよ。俺はあんたを絶対に許さない」
「だからそれは……」
ウィルムは気圧されながらも、なんとか誤解を解こうと声を発する。
しかしそれは周囲の声にかき消された。
「どうりで安いと思ったんだよなぁ」
「あぁ、今考えると怪しいね」
「ヴァルファームで仕入れてるってのは嘘で、本当は裏ルートで不当に仕入れてるんじゃないの?」
ざわざわと勝手な憶測が周囲へ伝搬していく。
まるで大きな意志が介在しているのかのようで、ウィルムにはもう止められない。
彼が頬を引きつらせ、立ち尽くしていると、目の前の獣人が歩き出す。
「もう二度と、俺の前に姿を見せるな――」
そう言って、茫然と立ち尽くすウィルムの横を通る。
その際、肩を強くぶつけてきて、ウィルムは情けなく尻餅をついた。
そんな姿を見て溜飲を下げたのか、野次馬たちは見下すような冷たい目で一瞥して散っていく。
ウィルムは拳を強く握り、顔を悲痛に歪め呟いた。
「これが罰なのか……仲間を見捨てて醜くも生きようとした僕への――」
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