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私達の決断


 私が神界に住むことになって、数日が経過した。


 その間に得た情報を、以下に述べよう。


 神々には、世界を管理すると言う役割の他に、その補助や、神自身の生活に関わる役の神も居た。

 そう、生活もだ。


 神だって四六時中神様らしい事をしているわけじゃ無い。彼らは就寝するし、食事もする。

 私は外に出たことはないが、女神から話だけは聞いている。

 コンビニやスーパーの様な店、あった。

 レストラン、酒場。勿論ある。

 生理現象だって私と同じ様にあるから、トイレもある。


 現に、夜が訪れると、私に与えられた部屋の隣部屋で、女神がパジャマ姿で出入りする様子を目撃できる。

 そして、使われた跡のある台所だってある。今はフライパンが火にかけられている所だが。



「……」


 この世界は、神界と呼ばれている。住民も全員が神である。だが、彼らは人間と同じ様に生きている。

 この数日で、この事を理解した。


 しかしまた、疑問が一つ生まれる。

 生きていると言うのであれば、死ぬ事もあるのだろうか。


 私は、神界に住む事が決まった数日を過ごして、そんな疑問を抱いた。


「神々が死ぬ事は人間と同じ様にありますよ。ただ、寿命が桁違いって程度です」


「ああ、帰ってきていたのですか。お帰りなさいませ」


「はい、ただいま。って、「お帰りなさい()()」って……。それは無いんじゃないんですか?」


 解せぬ。

 これでも学生生活で培った知識を最大限に活かしている礼儀を払っているつもりなのだ。

 ゾンビと過ごした数ヶ月の間、その知識に錆が付く様な事もなかったはずだ。恐らく。


「前から言ってますけど、敬語抜きでも構わないんですよ?」


 成り行きで思考による会話が普通になってしまった現状、これで十分ではないのだろうか。


 少なくとも、目の前にいる存在は人間の表層的な思考を容易に読み取れるのだ。

 ならば線引きという意味も兼ねて、このままが良いと私は思う。

 全ての神は思考が読めるわけでは無いとのこと。プライベートとの線引きとしては適切なはずだ。


「そうですか……。それってつまり、私にだけ敬語をなくしているっと事になりませんか?」


 そういう事になるのかもしれない。

 しかし彼女以外に親しい神ができたなら、そうとは限らなくなるだろう。神と親しくなるだなんて、滅多に無いことなのだろうが。

 当分は身近な友人は彼女だけになりそうだ。


「……何度も言ってますけど、軟禁状態で過ごさせて申し訳ないです」


 私こそ、何度もこう返している。


「気にせずとも、私にとっては幸せな日常です」


「……」


 ───普段ならば、この返事をすると少なからず安心したような表情を見せてくれる。最初でこそ建前だと思われたが、彼女の能力で本心だと分かってくれた。


 だが、今回は違うようだ。難しい様な顔をしている。


「いかが致しましたか?」


「……ええ、実は伝えようかと悩んでいたことが」


 私が知ると都合の悪い情報なのなら、気にせず口を閉じてもらっても構わない。

 別に都合が悪くないのならば、なるべく話は聞きたいと思っている。


「極秘情報という訳でも無いのですよ。しかし、その……」


「……?」


「……そうですね、これは私の都合です。クライさんは知るべきでしょう」


 私は無言で彼女の言葉を待つ。


「別の神が管轄する世界、所謂異世界というものは、以前話しましたよね?」


「はい」


「そこで、例の魔力が発生。緩やかにですが感染を拡大させています」


 魔力……。それはつまり、私が居た世界を、文明を滅ぼしたそれなのだろう。


「ええ、それと同じ物が確認されています。今日もその関連での会議が行われたらしいのですが……」


 言葉を切り、彼女の瞳が私をじっと見つめる。どこか申し訳無さそうな感情が込められており、そういう感情を向けられる覚えが無い私は、しかし少しだけだが察する事ができた。

 そこで私に関することが議題に上がり、何か私に対して不利な事が決められたのだろう。


 例えば、免疫がある可能性を知り、私の解剖を決定したとか。


「そんなゾンビ映画みたいな話にはなりません!」


 違うらしい。


「……貴方をその世界に送り出し、調査を任命する事が検討されています。本当に、貴方にとって重要なことなんですよ」


 それこそゾンビ映画みたいな話だが。免疫を持つ人間が、ゾンビアポカリプスの真相を明かす流れは、一体何度使われたのだろう。


「揚げ足を取らないでください!」


「はい。申し訳ありません」


 しかし、そういう事なら私の方こそ協力したい。

 この魂が消える結果となるなら少々抵抗があるが、そういう形での協力ならば私は意欲を示そう。ただ前者の様な事を請うのであれば従う。


 そもそも本来無かった筈の魂。それを救った神が、その魂をどうしようとそれは正当な扱いである。


「……そう言うと思っていました」


「以前から同様の事を言っています。私の魂は、神々に捧げています」



 特に、貴方。

 シルヴィア女神の命であれば、私は日々の料理から魂そのものまでを捧げるつもりだ。


 そう、誓う様に心のなかでこの言葉を唱えると、以前伝えた時と同様に彼女は目線を反らしてしまう。


「貴方がそれだから、私は悩んでいるんです。……本当に」


 という事は、私のこの考えが悩みの種だったのか?

 となると、申し訳ない。確かにこの考えだと、ほとんどの決断を彼女に任せることになる。


「はい。私の為に貴方と共に過ごすか、世界の為に貴方を送り出すか……。悩むには十分な選択肢です」


「……そうですか」


 もし私に選択権があるのならば……彼女と同様に悩むかもしれない。

 あの魔力から世界を救う機会があるというのであれば、流石に無視し難い。しかしここでの生活を続けたいと思う気持ちもある。


 ……だが、決断はできる。


「でしたら参考の程度に、どういった決断をするのかを聞きたいです」


「私であれば、ここを離れ世界の調査に赴く事を選ぶでしょう」


 その決断の理由は、『神々への恩』と、『義務』と、『気持ち』だ。


「義務なんて……まだ貴方を送り出すかは決定してませんよ?」


「言語化しづらいんです」


 たまたま義務という言葉が出たが、『使命感』という言葉も当てはまるかもしれない。

 それに、滅ぶ世界があるというのにそのまま見送るというのは気持ち悪い。


「……」


「参考になりましたか?」


「……それなら、最後にクライさんに聞いておきます」


「はい。なんなりと」


「もし私に貴方を扱いを問われた時、調査に送り出す決断を下しても良いですか?」


 それはもちろん。


「仰せのままに」



「……それはそうと、今日の夕飯はハンバーグです。ちょうど今出来上がっていると思うので、食卓でお待ち下さい」


「あ、うん。ありがとうございます。……あの、クライさん」


「はい?」


「あんまり美味しいと、決意が揺らいじゃうかもしれません」


 冗談っぽく笑いかけられて、私も笑みを返す。

 来るかもしれないその日まで、存分に楽しんでおいた方が良いだろう。

神界暮らしはあと三話ぐらい?


追記・展開を変更。三話もいかない。

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