プロローグ
ーーキミが好き。
そう言われた瞬間、僕は怖くなって逃げ出した。
走った。無我夢中に、息が上がって苦しいはずなのにそれも感じずにただただ走った。
どこをどう通ったのか、それも憶えていない。
石ころか何かに躓いて転んだ瞬間、痛みが込み上げた。逃げた後悔や恥ずかしさ、胸の苦しみ……それらも一気にあふれ、口からこぼれ吐き出される。
気づくと顔はくしゃくしゃになり、足の脛には軽い傷ができていた。
体の傷なんて生きていればいくらでもできる。これくらいなんともない。
「……」
顔を上げると、どこか知らない場所に居た。
どこを走っているのか見ずに走ったから、現在地がわからない。
携帯はこの前壊れて今はないし、時計も家に忘れた。
あるのは背中のリュックと、その中身のもの。財布はあるけど、空っぽだ。全部貯金してあるから、降ろさないとお金もない。何の役にも立たないお守りの石が財布にくっついている。
とりあえず、来たと思われる道に戻ってみることにした。
裏路地みたいな所から出ようと右や左や曲がる。が、ほとんど勘だった。
そもそも僕はこの町に引っ越してきて間もない。半年も経ってないんだ。
もうすぐ卒業式で、だけど僕は転々と親の都合であちこち引っ越していたから、卒業という言葉がピンと来ない。学校に思い入れもない。
ただ一つ除いてはーー。
「……っ」
胸が痛む。
今考えるのはやめよう。帰ってからでもいい。
でも、ここはどこなんだろうか。
歩けば歩く程に道に迷っている気がしてならない。
気のせいだと思い、人気のない所から人が居そうな所へと向かう。
暗いとこから明るいとこへ、歩いて歩く。
そして人が居た場所……そこはーー。