45.鍵
その恐ろしい言葉に息を飲むと、グランツは続ける。
「大丈夫、即死する程じゃない。オレの狙いは…」
地上へとゾーアンたちが這い出してきた。
皆、小さな体を一層丸め、口元に手を寄せている。
そして、ニコラとエオンさんの姿も…!
瞬時にグランツが動き、あたしたちも反応する。
ニコラは『生き字引』を守るため、両手を広げる。
エオンさんを捕まえ、鍵の情報を奪う気なんだ!
あたしたちの攻撃を跳ね返し、グランツが手を伸ばす…ニコラに!
グランツはニコラの首に腕を回し、再び空へと舞い上がる。
「ニコラ!」
悲痛な声を上げるエオンさん。
「婆さんを締め上げるより、こっちの方が早いだろ?婆さん、鍵の情報を吐かないと、この小娘の首の骨を折る」
グランツは淡々と語る。
「どうせ鍵の情報を教えても殺すくせに」
アコードが吐き捨てる。
「そうかもな。でも少なくとも、死ぬのは今ではない」
「教えたらダメだ!」
ニコラが力を振り絞って叫ぶ。
「こいつは鍵を知らなかったら終わりなんだ。扉の前でアホみたいに立ってることしか出来んのだ!」
「黙れ」
グランツが腕に力を込めたらしく、ニコラは苦しげな表情になる。
「この小娘を殺したら、順番にチビの一族どもを捕まえ、殺していく。それでも婆さんは黙っていられるかな?精神が持つだろうか?」
「…なに、私が死ねばいいこと。秘密を抱えて死ぬさ」
「エオンさん!」
その発言にあたしは彼女の肩をつかむ。
「なるほど。じゃあ、とりあえずこいつを殺すか」
グランツは軽くそういうと視線をニコラに送る。
彼女は苦しげに体をばたつかせる。
あたしたちは動くことができない…!
「やめろ…!」
絞り出すようにエオンさんが言った。
「なに?」
「…もうやめてくれ」
「やめて欲しい時はどうするんだ?」
エオンさんは涙で濡れた頬をぬぐいもせず、隣にいるあたしを見た。
「…許して欲しい」
「エオンさん…?」
そして空中を見上げ、言った。
「鍵の材料は…天使の翼だ。50人分の…」
天使の…あたしたちの翼!
「なるほどね。前の奴はその個数用意できなかった訳か。とりあえず1人分は手に入れられるとして…」
グランツの冷たい目があたしをとらえた。
「後は天界に行って調達するか。お話、どうも」
そう言って、奴は腕に再び力を込める…!
「ニコラ!」
「女王陛下、これを!」
その時、ビーカーを手にしたシェルダンが地下から飛び出してきた。
中には赤い液体?
ニコラは一目でそれが何かわかったようだった。
次の瞬間、ビーカーから巨大な赤いドラゴンが飛び出し、グランツとニコラ目掛けて突進していく!
不意をつかれたグランツはニコラから手を離し、交わす。
落下していく彼女をルウが受け止め、地上へとゆっくりと降ろした。
エオンさんはニコラを強く抱きしめる。
上空ではドラゴンが執拗にグランツを追いかけている。
「シェルダン、これは?」
ルウがビーカーを指差す。
「はい、実はここに辿り着いた時に後でこっそり調べようと思いまして、池の水を少々拝借していたのです。それをちょこちょこっと増やしまして。女王陛下の力であれば、少量でも扱えるのではと思いました」
さ、さすが…。
「少量でも水があれば、ゾーアンには力がみなぎってくる。感謝するぞ」
「光栄でございます」
ニコラに礼を言われ、シェルダンは恭しく頭を下げる。
「シェルダン。結界を張り、ゾーアンの民を守れ」
「御意」
今度は主人に命じられ、頷く。
「お二人も避難してください」
「私も戦えるぞ!」
「エオン殿のおそばに」
身を乗り出したニコラだったけど、そう言われて大人しく引き下がった。
「本当に…本当に申し訳ない」
「大丈夫ですよ」
泣きながらあたしの腕をさするエオンさんにあたしは微笑む。
ここで…終わりにする!




