4.私たちが気にすること。
「ほら、あれが…」
「例の銃の?」
「しっ、聞こえるよ」
遠巻きに囁かれる噂話。
あたしはそっちの方向を見ないように、ただまっすぐ歩く。
「すっかり有名人になったなぁ」
「おかげさまで」
メルの冷やかしに皮肉で答える。
あの後。
先生方立会のもと銃を使ってみたけれど、弓矢と同じ効果があった。
形は違えど、能力は同じ。
たた、なぜ銃の姿をしてるのかはわからない。
なんせ、長い歴史上初めてのこと。
学園長はビーナスさまとコンタクトを取ろうとしてるけど、上手くいっていないようだ。
そうして、あたしは先生や他の天使たちから好奇心や畏怖の目で見られるようになった。
ミリアを始め、クラスメイトからも距離を感じる今日この頃。
「はぁ〜この感じ、慣れないなぁ」
「そのうち周りも落ち着くだろ。にちょけんのキューピッドもすぐ見慣れるさ」
「略すのやめて」
あたしたちは話しながら、校舎の地下へと続く階段を降りる。
今日は人間界での実習の日。
薄暗い通路を進むと、大きな白い扉が姿を現わす。
前後左右は暗い空間で、扉だけがポツンと立っている。
この人間界への扉の前が、生徒たちの集合場所だ。
担当教官、生徒たち数名はすでにそこにいて、あたしをちらちら見やる。
あたしはその視線を気にしないようにして、輪から離れたところで待機した。
やがて生徒全員が集まり、点呼が終わると教官が一人一人にプリントを配った。
「貴女がたは、各自このプリントに記載された5名の恋を成就させてください。皆、恋愛成就をビーナスさまに祈ったものです」
あたしの手にした紙には女性4名、男性1名の名前があった。
「たった5名じゃなくて、手当たり次第に矢を撃てばいいのに。少子化で困ってる国も多いし、銃なら連射できそうでいいんじゃない?ねぇ」
隣にいたカイリがあたしに話を振ってきた。
オレンジに近い赤毛をした派手好きなやつで、あたしは元々あんまり好きじゃない。
周りはカイリがシャーロットに話しかけた…!ひぇっ!みたいな顔をして、成り行きを見守ってる。
「手当たり次第も困りもんじゃない?それで幸せに暮らせる保証はないし、未熟もの同士がくっついて子供の虐待問題も多い」
あたしは、とりあえず素っ気なくそう答えた。
カイリは小首を傾げると、
「それは私たちが気にすることじゃなくない?」
小バカにした口調で吐き捨てた。
「私たちの仕事はとりあえず人間をくっつけることでしょ。その後どうなろうと知ったことじゃないわ」
天使の中では人間を下等な生き物と思って疑わないものもいる。
カイリは典型的なそのタイプだ。
「カイリ、でもね、私たちは愛を届けるんだから、人間にも愛の気持ちを持って…」
真面目で優等生なミリアは、たまらず間に入ってきた。
「とりあえずどんどん繁殖させとけばいいって思っただけよ。せっかく二丁も銃を持ってんだから、生かしなさいよね」
「あたしのことよりも自分のどピンクの弓矢のことでも気にしてれば」
売られた喧嘩は買う。
(カイリの弓矢はショッキングピンクだったのだ)
「カイリ、シャーロット!私語はやめなさい」
睨み合うあたしたちに教官の注意が飛んだ。
「さぁ、皆さん!実習に出向いてください」
生徒たちが人間界への扉をくぐり、あたしとカイリもそっぽを向いて歩き出した。