7 黒い奴 その1
俺は今、街に買い物に来ている。
と言うのも今日で俺はちょうど五歳を向かえるので三歳の時のようなパーティーを催されるわけなのだが、そのパーティーで使う食材の調達を言い渡された。
という建前で、なんかサプライズでもするらしいというのを小耳に挟んでしまったから、ついでで適当にそこらへんを散歩しているところだ。
それはいいのだが、今日のパーティーでは、前回のように気楽ではいられない。
その理由としてあげられるのが結婚を申し込んでくるお嬢さん方が多く参加するということだ、今までもいくつか申し込まれて沸いたのだが、その場合は俺が申し込んできていた御家のお嬢さんにこっそり会いに行き、その意思確認をしていた。
幸い、まだ、恋心は芽生えておらず、親が言ったからという理由だけであったために、こっちから断る、という形で落ち着いてはいた。
ただ、その作業ができないのが、今日のパーティーだ。
遠くから来られたお嬢さん方にはその場で返答する必要があり、それから逃げる手段は、今のところは見つかっていない。
ちょうどその時事件は起きた。当の俺はどうしたものかと頭をひねって、店で買ったりんごをかじっていた。
「お悩みかね? そこの少年」
そう、声をかけてきたのは、謎の仮面をかぶった、謎の男であった。
ご丁寧に? マークのシルクハットまで付けていやがる。
ただこの仮面のすごいのは、そんなシルクハットがでさえ、おれの魔眼で見ることのできないそのステータスだ。
こういった不気味な奴には関わってはいけないって、ばっちゃんが、言ってた! ダメ! ぜったい! ……ばっちゃんって誰だ?
「おぉっと、これは手厳しい、無視ですか」
「だれかー! 衛兵さん読んできてもらえませんかー!!」
「気は済みましたか?」
「防音魔法?」
「えぇ、ですから残念ですが、彼らに君の声が聞こえることはないで」
「あのー、どうされましたか?」
「へ?」
「どうかなされましたか? こちらに呼ばれたもので」
「衛兵さん!?」
「はい、そうですか?」
「なぜだ! この魔法を発動している対象の音は聞こえないはずなのに」
「あのー」
「あ、衛兵さん! こちらの勘違いだったようです!」
「は、はぁ? ……何もないのですね?」
「えぇ! 何の問題もなかったです! すいませんでした!」
「そうですか、でしたら、私はもう行きますね?」
「はい! 大丈夫です! ご苦労様でした!」
「いえ、これも仕事ですので、では」
「どうも~」
衛兵さんは人ごみに紛れ、路地裏に行くと、黒い煙を吐き出し、その体を縮めた。
「ふぅ、やっぱ、持つべきものはスキルだな」
衛兵の姿から元の姿に戻ったミリアスはそんなことを呟きながらさっきの謎の男、敬愛を込めて?男と呼んでやろう。衛兵の姿になったのは[交換]のおかげだ。見た目だけなら大したことではない。そして、ミリアスは?男の後をついていった。
実はこの?男逃走能力を持っているのだが、ミリアスは難無く追跡していくのだった。
というのも、この二年の間で、日常取得できるスキルはないか試してみたところ多数取得できたのだ。
そのうちの一つに[追跡]という能力があり、気配遮断と相まって、絶大な追跡力を誇っているのだった。
これのおかげで、見失わずに追いかけることができていたのだが、その男は町を出てしまい、今のミリアスではここまでが限界であった。
なので、能力[式神]と[従魔]によって生み出された犬型に森を監視させることにした。
ちなみにこの式神と従魔の名前はポテとチップだ。もちろん、二匹一対で行動させるつもりであり、その場合はポテチと呼ぶだろう。
そうして?男はポテチに任せ、俺は再び散歩兼おつかいに勤しむ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
家に帰ると同時にメリーに抱きつかれた。
「おそい!!」
どうやら、俺がなにか事件にあったんじゃないかと気が気出なかったらしい。追い出したのは自分だというのに何を言ってんだか、でも、心配されるのも悪くないので、ここは素直に謝っておこう。
「ごめん、遅くなったね、ただいま、メリー」
「おかえり、ミリィ、急に怒鳴ってごめんね?」
「いいよ、遅くなった俺が悪いんだから」
「えへへ、ありがと、うん、怪我はなさそうだね」
あぁ、かわいい。なんだよ! えへへって、反則だろ! こんなの理性が耐えられるはずがない! いや、まだ、身体は子供だから、大丈夫だ。今のところは、なんの兆しもない。
メリーを離して、洗面所に向かい手を洗っていると、ポテチから連絡が来た、どうやら?男が動いたようだ。
そもそも森は?男の拠点ではないらしく、ただ俺を巻くために行っただけだったのだろう。おそらくポテチのことにも気づいているのだろうが、それでも動くということは、これからの行動では情報を得ることはできないと見といたほうがいいな。だが、何かあるかもしれないし、念のため共有はしておこう。
式神の能力に[共有]というものがあったので、使わせてみたとこを、ある対象と自分の感覚を共有できるという名前通りの便利能力であった。
その[共有]を発動し、視界半分をポテのものにして、脳の三割をそっちに回した。並列思考のレベルが上がり、思考加速の能力が進化し[高速思考]になったために、その作業は大した手間にはならなかった。
そして監視中の?男は誰かに会いに行ったようだ。
?男の対面から、フードを目深にかぶった黒い男、黒フードの男が音もなく歩いてきた。
「うっす」
「久々だな」
「そうっすね」
?男は黒フードと仲が悪いのか、そっけない態度を取っている。
「はぁ、まだ根に持っているのか? 早く切り替えたらどうだ?」
「けっ! お前らとは違って俺はそんな薄情じゃねぇんだよ、昔話がしてぇなら他所でしてくれ」
「あぁ、わかっている、つけられていないだろうな」
んー、これはやばそうか? ポテチいつでも逃げれる準備しとけ。
「あぁ、大丈夫だよ、またレベルも上がったしな」
「ふんっ! ならいいだろう、本題だ」
どういうことだ? 俺たちに気付いていないとは思えないし、何か別の目的でもあるのか? だとしてもあいつになんの得があるってんだ? まだ情報が足りないな、怠りすぎたか?
「主様から伝言を預かっている」
「!?」
ん? なんだ? なんか? 男の顔色が変わったぞ? 主のこと聞いたからか? 主様って誰だ? 相当やばいやつなんかね?
「……主が? なんと?」
「『あの少年には手を出すな』だそうだ」
「はぁ!?」
「口の利き方には気をつけろ」
「ぬぐっ!?」
怒鳴りそうになった?男を黒フードは制した。一瞬で?男の懐に入り込み、襟を持って地面に打ち付けその上で顔に剣を突きつけた。動きが見えなかった。どれだけ早く動いたんだよ……
「わかった、わかってるって! 逆らえないってこともな! ついカッとなっちまっただけだよ!!」
「そのせいで命を落とすとわかっていたらそんな気も起きんだろうに」
「ふん! 用件はそれだけか?」
「あぁ、いや、最後に、一言だけ」
「あぁ?」
「すまなかった」
そう言って黒フードは闇に消えた。
「今更何様だ! このクソがぁぁぁぁぁあ!!!」
その後、?男は理性を失ったかのように近くの森へ走り去っていき、手当たり次第に魔物を蹂躙していった。
おれはただ、その姿を見ることしかできなかった。?男があんな目を、淀みきった目をしていて、さっきまでのおちゃらけたそれと比較して、見るに堪えない顔であったから。
そのあとはポテチの能力を解除し、回収することしか出来なかった。
今回の投稿はちょっと長めだったので、何話かに分けることにしました。