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この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
43/57

43 悪魔

 状況はいたって簡単だ。しかし、話をややこしくしている奴らがいる。それが……


「あたし……もぅ……お嫁にいけ……ない」

「だ、大丈夫よ、み、ノア!」


 こいつらは罪人と呼ばれる悪魔憑きの転移者だ。こいつらの目的は分からないが、敵ではないらしい。


「なぁ、お前らの目的はなんだ?」


 こういうのは素直(ストレート)に聞くのが一番だろうと思い、俺は、うずくまって幼児退行時の記憶の抹消をここみる水菜とその背中をさすり、焦っている咲夜。二人のそばに樹で椅子を作りながら自分用の樹椅子に腰を下ろし、声をかけた。


「あの……アルの分はあるのに、私の分がないのには何か訳があるのでしょうか……? ……ミリアス殿?」


 勿論グリードには俺の鬱憤の吐け口になってもらった。危険察知能力や精神面から見ても、常に動きやすい体勢でいたほうがいいと思っての行動だ。


「少しばかりの……少しばかり我にも……アル達にむける優しさを分けて欲しいで――」

「――親父は黙ってろ」


 アルの一声で、グリードは萎んだ果実かのようになってしまった。流石アルだ、父親の扱いにはなれているな、見習わねば。


 そうこうしている内に二人は立ち上がっており、俺の作った椅子に視線を寄せていた。


「す、座らないのか?」


 ずっと観察している様子だったので気まずくなり声をかけてしまった。


「いや、なんでもないんです。ただ、ちょっと驚いただけですので」


「ん? なんだ? 魔術のことしらないのか?」


「いやぁ、知らないっていうよりかは……」


 これには俺も少し驚いた。適正:魔属性 というのはとても珍しいもので、その中でも魔術を使えるものは少ないようだ。基本的に魔属性というのは魔力との相性がよく、精霊との相性は悪い、俺の場合は少し特殊なので例外とするのだが。

 通常の魔法は精霊魔法といって、自身の得意とする属性の精霊に代行を頼むようなもので、魔力を精霊に支払いその対価として事象を引き起こすといった具合らしい。その際には詠唱は必須であるし、詠唱が長ければ長いほど威力や精度が上がるそうだ。確かに、命令は細かく多いほうがこなしやすいもんな。そういうことだろう。

 それに対して、魔術は自身の想像力を元にして自分の魔力を自然に流れる魔力と一体化させることで、自分の魔力を扱うように事象を起こすことが出来るのだ。ただし、それには魔力量が多いことが必須な上、魔力の緻密なコントロールもできなくてはならない。魔法使いでこれができるものは数少ないらしい。下手に少量の魔力で大雑把に制御などを怠ると、自然界に自身の魔力を吸われ、魔力欠乏症を引き起こしてしまうこともあるようだ。ニティ様々だな。


「それで、私たちの目的ですよね……」


 どうやら、くだらない考えを続けてしまっていたようだ。


「とりあえず、自己紹介からしようかしら……私はセリア。色欲の罪人であり、アスモデウスの悪魔付きよ」


 なんとも端的でいてわかりやすい自己紹介だこと。まぁ、元々知ってたけどね。


〔……覗き見ですけどね〕


 うるさい。


「え、っと、ぼく。いや、あたしはノア。嫉妬の罪人、レヴィアタンの悪魔憑き、ゲーム好き……です」


 うん。知ってる。けどまぁ、いいや。


「俺はミリアス、冒険者だ。こいつはアル。あっちで立ってるのはグリード、二人共探検家だ」


 簡易的に自分たちの名前と職業だけを言い合ってこの自己紹介は完結した。


「さて、本題に入るとするか」


「私たちの目的ですね……率直に申し上げますと、あなた方転移者の保護です」


「……なるほど」


 え、めっちゃシンプル。


「まぁ、ウナの保護と元の世界に戻る為に協力しましょうってところか」


「えぇ、当初の目的はそうでしたが、貴方も保護対象に追加されました」


 まぁ、そうだろうな。というか、俺みたいな貴重なサンプルは否がおうにも連れて帰りたいだろうよ。こいつらが鑑定スキルのようなもの持ってないとは言い切れんし、俺の正体も知っている可能性だってあるんだからな。



〔いえ、その可能性は薄いかと〕


〔ん? どういうことだ?〕


〔ミリィの言うとおり、先程から鑑定のスキルをこうししているようです〕


〔まじか、じゃあ、色々と知られているんじゃ?〕


〔ご心配なく、妨害も対策も抜かりありません故〕


〔な、なるほど〕


 そういう話はもう少し早くしていただけると俺嬉しいんだけどなぁ……


〔な・に・か?〕


〔ナンデモナイデース〕



 まぁ、なんにせよ、彼女たちには俺の能力がわからないどころか鑑定スキルの妨害にあっているのか。それだとよっぽど連れて行きたいだろうな。こんな得体の知れない魔術師なんぞ放っておけるわけないわな。


「一応、聞いておこう。この戦争の引き金を引いたのはお前らか?」


「「「「っ!?」」」」


 少し大人げないのだが持てる能力の全力で凄んでみた。ステータスの差もあってか、効果は絶大であったようだ。


 >能力(スキル)[脅迫Ⅳ]が[脅迫Ⅹ]に達しました。

 >能力[脅迫Ⅹ]が[威圧Ⅰ]へ進化しました。

 >能力[威圧Ⅰ]が[威圧Ⅲ]になりました。


 なるほど、俺が全力を出すとこういうことになるのか。そして、更には……


――バタッ、バサバサバサッ


 近くにいた四人はその場に気絶し、森の奥で隠れていた動物たちや昆虫が一斉にこの場を離れていった。気が付けば周囲に俺たち以外の生命反応はなく、近場の兵士たちやリザードマンにも悪影響が出ているようだ。


 さて、皆をたたき起こすか。ま、グリードは面倒だから寝かせておこう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺はガーディー。忘れている奴らもいると思うが、Sランク冒険者の【戦車(タンク)】のガーディーだ。俺は今、人生の佳境にさしかかっているといっても過言ではないだろう。まさに、クライマックスだぜ。


「Sランクといえども、この程度か……笑わせてくれる……タンクのガーディーといったか? ふざけるのも大概にしたまえ。この我、サタンの前に立つこともできぬ弱きものよ」


 名前だけでも覚えてくれりゃあ、大したもんじゃねぇか……なんて言葉もでねぇか。当然だな。何せ俺はこいつの覇気に負けて体がうごかねぇし、この覇気がなくたって、俺はこいつにゃ手も足も出ねぇだろうよ。


「ふんっ、腹立たしい」


 なんで、こんなことになってんだろうな、俺。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい、お前ら、ここは最後の砦だかんな! たとえこの命を燃やし尽くしたとしても一体も後ろには通すなよ!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」 


 よし、まだ、十分士気はあるな。これならなんとか、今日は持ちそうか。


 にしても、あいつらどこ行きやがったんだ? この作戦の肝パーティーがいねぇんじゃ締まらねぇじゃねぇか。さっき最前線の方で爆音もしてたことだし、各地で激しい戦いになっているのは間違いねぇんだけどな。アイツ等の無事を祈るか。


「ガーディーさん! 休憩してないで、こっち手伝ってください!!」


「ばっか、お前! 休憩じゃねぇよ!! 回復薬持ってきてやってんだよっ!!」


 こっちもこっちでかなり限界がちかいかぁ? 今日の日暮れはもうすぐだし、リザードマンの買い集う限界時間まで、俺が粘ればなんとか持ちこたえられるか?


「あぁ、もう、考えてたって変わらねぇ!! おっしゃ!! 気合入れてくぞ!!」


 俺たち守備チームは守りの要だ。ここを突破されることすなわち、後方で待機してる支援チームの壊滅を意味するといってもいいだろう。支援チームの壊滅はそれこそ、戦闘継続能力の損失と同等。それゆえにここの役割は重要だ。なんとしても守りきらなきゃならねぇ。


 だというのに……


「ガーディーさんっ!!」


「あぁ、なんだ!? あれはッ……」


 姿はみえてねぇが、明らかに分かるぞ。

 そんじょそこらの一般兵とはわけが違う、威圧感というものがある。もしかすると、このリザードマンたちは、こいつを恐れて、こいつから逃げてきていたんじゃねぇのか? そう思わせる程、そいつは恐怖を纏っていた。魔力量だけじゃねぇ、身体能力も遥かに格上だ。


「緊急連絡だ!! 支援チームに撤退要請!!」

「その必要はない」

「なッがぁ!?」


 俺が意識を失う寸前にみたのはまさに悪魔だった。


 肌は浅黒く、荒れていて、龍のウロコを纏っており、頭に角を生やし、背には赤い翼が、尻尾のようなものもみた。

 何をされたのか、理解する暇さえなく、俺は、静かに意識を手放した。

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