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この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
40/57

40 怠惰ということ

いつもより、会話文が少なめですので、読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。

 怠惰

 ――あらゆることに対し怠け、だらしない態度を取ること。


 ベルフェゴール

 彼は怠惰の魔王として知られる悪魔だ。



「カルヴァドス様」


 名前を呼ばれた。返事はいらない。勝手にするだろう。


 数日前のことだ俺は転移した。

 嘗ては日本という国で高校生をしていたはずだが突然この世界にやってきた。『はずだ』というのは俺の記憶が曖昧でこの事実に確信が持てないからだ。そして、俺は今、前世? とでも言うべきなだろうか、日本にいた頃好きだった酒の名前を借りてこの世界を過ごしている。

 転移してから色々あったのだろう、今、俺はどこかにベッドで寝ている。


「あ、こんにちは、グレーテさん!」

「栗原様、主様が起きてしまわれます故、少しお静かにお願い致します」


 近くで声がした。

 会話文からして、どっちも俺の知り合いなのだろう。

 主様って俺のことだよな? 確か、一人、毎日のように部屋に来るやつがいたような気がするしな。そいつだろう。

 じゃあ、もう一方は?

 栗原、栗原? 栗原…………どっかで……


「……ぉぃ、くぃああ」


 ん…………? 今の……俺の声か?


「ん? 今、ゆーくんわたしの名前呼んだよね?」

「えぇ、栗原と」

「うわぁ、なんか、感慨深いなぁ、何年ぶり? ゆーくんの声聞いたの久しぶりだよぉ」

「私の知る限りでは七年と五十四日目になりますね」


 俺が転移したのってちょっと前じゃないの?

 てか、俺そんなに長いこと喋ってなかったのか。

 まぁ、確かに、喋るのって体力使うしな。


 しかし、なんだ、思いが伝わらないってのは不便だな。あぁ、なんか無いかな? 伝える手段みたいなの。


 >能力(スキル)[念話]を取得可能です。

 >取得しますか? Y/N


 え? だれ?

 こいつの所為でめっちゃ頭使ってる気がするんだけど。

 迷惑だな…………


 ……念話……必須だな。


 >能力[念話]を取得しました。


 お、おう、こいつ。俺の思考に即反映されるのな。

 試してみるか、使い方……は大丈夫そうだ。


〔あ、あ、マイクテス、マイクテス、聞こえてますか?〕


「「!?」」


 お、聞こえたっぽい。なんか、すごい顔してこっち見てる。

 えーと? 何すりゃいいんだ? とりあえす自己紹介か?


〔あー、俺は、えー、と、名前なんだっけ? まぁ、いいか、カルヴァドスだ〕


「ゆーくん? これ、なに? 頭に直接?」

「栗原様、これはおそらく念話です。あまり知られてはいませんが、スキルとして存在していると古い文献にあった記憶がございます」


 へーなんか、すごいんだ、これ。 

 んで、なんだっけ? なにか伝えたかった気がするんだけど、なんだったっけ?


〔栗原、飯〕


「は?」

「主様……カルヴァドス様、ご食事でしたら、私めがご用意致します、栗原様ともお久しぶりでしょうし、しばしご歓談などをしてお時間をお潰しくださいませ」


 えっと……誰だかわからないけど、ご飯作ってくれるなら誰でもいいや。

 栗原って、今、一番近くにいる女の人だよな……


「ゆーくん、久しぶり、裕里(ゆり)だよ」

「……」

「えっと、ゆーくんはこの七年間何してたの?」

「……」

「あ、私はね、転移したクラスの皆で助け合って、ギルドで冒険者やってるんだ!!」


 会話なりたたねぇなぁ、って思ってたけど、俺、今の思考何一つ声に出てなかったっぽい、念話使って話すしかないよな。


〔栗原……お前と俺って、そんなフレンドリーな関係だったっけ?〕


「へ!? あ、そ、そっか、そうだよね! 私たちそんな関係じゃなかったよね!! ご、ごめんね! 変な話しちゃって……」


 ん? 謝られることなんて言ったっか? おれ、別に、怒ってないけど……?


〔俺には、記憶がないみたいなんだが……お前はなにか知らないか?〕


「記憶がない? あ、さっきのってそういう事か、なんだ、よかっ……た? いや、良くないでしょ!」


 あー、なんか、面倒なことになったっぽい。記憶喪失、あながち間違いではない、なんでかは分からないが、俺の記憶は一日ごとに整理され、いらない記憶はすべて削除されていしまうのだ。なんて不便な能力なのだろうか? これもすべて異世界転移した所為に違いない。


〔落ち着いた?〕


「はぁ……はぁ……う、うん。もう大丈夫」


 おそらく彼女も何かしらの影響があったのだろう。そうでなければ、こんな変な子になったりしないはずだ。だって、そんな体力あるわけないよな……そう考えると、さっきご飯を作りに出て行った彼女はなんなのだろうか? ……いや、聞いたことがる。この世界には、メイドという生き物が存在する……と。

 そう、メイドである。メイドとは主の生活を支える重要な職業。主の命を預かっているといっても過言ではない。そういえば、さっき彼女は主様っていってたよな。やっぽりそうなのだろう。彼女はメイドで、俺は主様だ! なるほど、通りで毎日のように俺のそばにいたわけか、納得した。

 と、なると、本格的にこの女、栗原とかいうこいつは誰なんだ? 俺の記憶にはいないし、何処かで見たことがるような気はするのだが、全く思い出せない。思い出せないということはつまりその程度の関係だということだ。


〔さて、栗原が落ち着いたところで、質問いいか?〕


「うん、いいけど、私のことは『あき』って呼んでよ、昔みたいに、って言っても覚えてないんだっけ」


 あき? 名前か? そういえば、この女、昔…………いや、思い出せんな。


〔わかった〕


「ぁき」


「!!」


 うーん。ダメだな。声を出せない。もう金輪際、声は封印しようか。面倒だ。


〔それで、質問なんだが、俺はこれから何をすればいいんだ?〕


「へ? あぁ、そうだよね。何も覚えてないんだもんね」

「カルヴァドス様、栗原様。お食事のご用意ができました、よろしければ、私もそのお話、お聞かせ願いできませんか?」


 おぉ、ご飯だ。俺のメイドだ。ひと目でいいから見ておこうか。


「んっしょっと」


 まぶしぃ。


 寝返りを打って、二人の方へ顔を向け、目を開けると、視界は真っ白だった。

 長年、閉じ続けたこの瞳孔は光を拒絶し、全くもって何も見えなかった。


「んーがぁぁぁあああ!! 目がァァァァァ」


 その為、目が痛すぎて、大きな声を上げてしまった。


「主様!! 落闇(ブラックアウト)!!」


 声が聞こえた途端。視界は暗闇に閉ざされた。目の痛みも治まり、安堵したが……


「ゆ、ゆーくん……」

「栗原様、この事はご内密にお願いできますか?」

「は、はい……」


 なんだろうか。二人が何やら小声で会話をしていた。小声だというのに、俺にははっきりと聞こえてしまい、俺が原因でなにかまずいことが起こったということを自覚させられてしまう。


「主様、申し訳ありません、私め、せっかくお作りしたお料理を落としてしまいました、ですので、今日は、どうか、お休み下さいませ」


 あぁ、なぜだろうか。彼女が必死に隠している何かは俺の悪い部分なのだろう。確信にも近いそんな予感がしてしまう。


「いつも、すまないな、グレーテ」

「! はい、主様、ごゆるりとお休み下さいませ」


 不思議だ。

 さっきまでは全く喋るのは面倒だと思っていたはずなのに、今はただ、スラスラと言葉が出てくるようだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 私は名前のない、一介の孤児でした。そんな私が、今の職についたのは七年ほど前、忘れもしない、雨の日でした。

 当時の私は九歳、私の住んでいた孤児院は人数が多く、十歳を迎えるまでに自分で仕事を探し、住む場所も見つけなければいけない、というルールがありました。

 それが出来なければ、その孤児院から追い出されてしまうのです。


 十歳の子供が、野宿で生きていけるほどこの世の中は甘くありません。十歳であれば、一ヶ月生き延びれば、運がいいほうでしょう。


 私は六十日後、ほぼ、一ヶ月後には十歳を迎えます。

 それなのに、住む場所どころか仕事も見つかっていません。私がこのままの状態であれば、二ヶ月以内にはそこらに転がっている人骨と同じように埋れて骨になることでしょう。


 私はそんなの、絶対に嫌でした。

 なにがなんでも、仕事を見つけて、幸せになってやる、と毎日、街へ訪れていました。

 しかし、私はただの孤児です。信用のない孤児風情に与える職はなく、何処の店へ言っても蹴られ、殴られ、追い出されてしまいます。それでも、私は諦めず、仕事を探し続けました。何日も何日も、孤児院には帰らず、死ぬ気で仕事を探しました。


 そんなある日、私はある男性に出会いました。その男は私のような孤児にも仕事を与えてくれるところを知っていると言いました。正直、この男の言葉の信憑性は皆無であり、付いていく価値だって、微塵もないとおもいました。それでも、他に頼れるものは無いし、私の力だけではどうすることも出来ないので、私はその男に付いていきました。


今となってはその選択は正解であったと言えますが、当時の私には苦でしかありませんでしたね。

 彼に連れて行かれたのは奴隷市。彼は私を商品として売りつけたのです。幼い私は愛玩奴隷にぴったりです。肉を付け大人になれば、私は調教済みの奴隷にされ、将来は売られることになるのでしょう。そして、年をそれば、捨てられて、今度こそ、確実に死んでしまうと思いました。ですが、気がついたときは手遅れで、私は貴族のような青年に買われました。


私の人生は、この青年のお蔭で薔薇色になったと言えるでしょう。

 彼が一番最初にした命令は「俺の世話をしてくれ」というものでした。私は夜のお世話なのかと思い「私には女としても魅力は無い」と申し上げると「俺はそんなことを頼んだ覚えはない」と突っぱねられてしまいました。彼の顔立ちは10代前半といったところでありましたが、立ち振る舞いはお年寄りのようでした。何せ、彼は10m歩く毎に立ち止まり、休憩しようと言うのです。体力がない、というレベルではありません、農家のお年寄りの方が体力があると思いましたよ。

 確かに、そのレベルであれば本当に身の回りの世話を頼む必要があるのでしょう。


 彼の家に着き、私は家の設備の紹介を家売りの方に教えていただきました。というのも、主様(名前を教えて貰えなかったので主様と及びします)が家に着いた途端に「俺は寝る」と言って、二階の寝室に向かい、途中の階段の踊り場で力尽きましたからね。主様をお部屋まで運び、家売りの方に事情を説明すると、あちらの方でも把握していたのか、大変でしたね、と仰っていました。

 そうして、家のあれこれを把握し、私は一度孤児院に戻ることにしました。孤児院にある私の荷物を持ってくる必要がありましたからね。ですが、その選択は間違いでした。

 孤児院へ帰ると、嘗ての私の部屋はなく、荷物も全て売り払われていました。なんでも、数日帰って来なかったため、死んだのだと思っていたそうです。私は言葉を失いました。怒りでこの孤児院をぶち壊してやりそうになりました。


 私の記憶が曖昧で、なにが起こったのか、思い出すことができないのですが、そうならずに済んだのは、主様のおかげだと確信を持っております。

 なぜなら、目が覚めた時、私はの主様のベッドのそばにおり、私は主様の寝姿失礼ながら見てしまいました。そして、私は主様のことがとても愛おしく感じたんのですから。

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