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この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
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39 七つの大罪

 各地の戦況は収まりつつあった。

 そんな中ミリアス達の戦闘は未だに続いていた。


「ふっ!!」


 ミリアスはウナの能力(スキル)で創り出した神器を用いて相対していた。


「はぁ!」


 対して相手もミリアス同様に刀を所持しており、ミリアスの刀へと打ち付けていた。


「っ! 馬鹿力がっ!!」

「そ、れはっ! お前もだろうっ!!」


 二人が戦闘になったのはほんの数分前の事である。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミリアス率いる、グリード、アルの三人達は宙を舞っていた。正確には高度約五.二キロ地点からの紐なしバンジーを体験していたのだ。


「ミリィアァァァス殿ぉぉぉぉぉ!?!?」


「なんだ? グリードうるさいぞ」


「落ちているではないですか!? 先程落ちることはないとおっしゃっていたのに!!」


「あぁ、ほんと、すまん、落ちた」


 ミリアスは加速した思考の中でも落ちた原因を見つけられずにいた。

 取り敢えず、潰れたトマトになったグリードの絵面など誰得なわけだし、落下は対処しておこう。


重力相殺(ガーヴィフセット)っ!?」


「うぐぇっ!?」


「ぐふぉぁっ!?!?」


 重の魔術を行使し、自分たちに掛かっていた重力を相殺したのだが、よくよく考えれば分かることであった、重力を一瞬で消すということはつまり、地面にぶつかるのと大差はないということに。

 それでも、落ちてから魔術を行使するまでの時間が短く、ダメージ的には二階のベランダから、少し硬めのマットに落ちた程度までは抑えられていた。魔術によるものも多大に含まれているのだろう。


〔ニティっ! 起きてるかっ!〕


〔……っ……ふ……は、はいっ……ふふっ……ミリィ、今起きましたよ〕


 咄嗟にニティに話しかけてしまったが、一瞬魔力が消えた時の反動はなく、正常に起きているようであった。ある意味ではせいじょうではないのだが


〔念話の筈なのになんで腹抱えて笑ってるのがわかるんだろう?〕


〔? なんのことですか? 私には皆目検討も付きませんね?〕


〔惚けやがって〕


 おそらく、二ティはとても面白すぎて、笑いを表現したくなってしまい、最終的には念話で再現されてしまったというオチであろうが、笑われた当の本人は全く嬉しさなどこれっぽちもなかった。


〔それよりも、何が起こったのですか? 私、五秒ほど前の記憶がすっぽり抜け落ちているのですが……〕


〔あぁ、それはな――〕


 二ティは五秒前の自身の記憶が抜け落ちていた。

 彼女は記憶の能力を取得しているので、単に寝ているだけであれば、覚えているはずなのである。それでも記憶がないということは気を失っていたということか、あるいは何かしらの精神的干渉を受けた可能性である。前者の場合であればある程度の記憶は補填できるのだが、今回は後者の場合のようだ。

 記憶の補填も出来なかった。というか……


〔って!? 私の貯蓄魔力(へそくり)がっ!?〕


 二ティの貯蓄していた魔力が空になっていた。

 ミリアスになにかもしものことがあった時に最大出力をこえた魔力を放出できるように自身の魔力量の二倍を貯蓄していたのだ。しかしその全てが空になっていた。


〔に、二ティ? 取り敢えず、落ち着け?〕


〔これが落ち着いていられますか!? ミリィ!!〕


〔は、はい!!〕


〔今すぐ身体を譲りなさい!! 身体検査をさせていただきます!!〕

「ミリアス殿っ!? 聞いていますか!?」


「はい?」


 二人は同時に叫んでいた為にどっちの言葉もよく聞こえなかった、片方はグリードなので、まぁ、どうでもいいかと、聞き流し、二ティとの念話の話を聞くことにした。


〔……ですから、私の予備の魔力が使われているということはそれだけ大量に魔力を消費する魔術かなにかを放ったのでしょう!? そんな魔術を使う必要に駆られる状況など、今の戦場では所謂ボス戦としか言いようがありません!! それに私の魔力はそんじょそこらの雑魚魔術程度何千発打ったって問題ないはずですし、それが空っ! なんにもなくなっているのですよ!! どれほど強力な魔術を使ったのですか!! 確かに、私の記憶がないのが少し気にはなりますが、そんなことよりもまずミリィが怪我をしていないかどうかを確認するのが私の最優先事項なのですっ!! はぁ……はぁ…………〕


 二ティは大体十秒ほど念話で話続けていた。

 実際のすぎた時間は十秒ほどではあるが、思考加速の上位版である[高速思考]そのⅦレベルともなると、一秒が約十分に感じる。それが十秒。大体百分、彼女は一時間半以上も語りっぱなしだったのだ。


〔お、落ち着きましたか? ニティさん?〕


〔それじゃぁ《侵食開始》〕


 ニティは自身の話を終えると同時にミリアスの身体に侵食し始めた。

 身体検査の抵抗をさせないために自分がミリアスの身体を乗っ取ってしまおうという魂胆であった。


〔へ? あっ! ちょっ! ちょ、ちょっと待って! 今はだめっだって!〕


「――ですからミリアス殿にはぁぁぁぁぁぁああああっ!!?!!?!!?」


「ふぅ、侵食成功…… 身体状態に異常はなし、と……って、あれ?」


 身体検査の魔術を行使している間は重力の相殺がなされておらず、再び自由落下の旅へともどっていた。


「あぁぁぁあミィィィリィィィィアァァスどのォォォォ!!!!!」


「あ、落ちっ! 重力相殺(ガーヴィフセット)


 それでも、咄嗟に気付き、キチンと重の魔術を行使していた。

 今回はニティの魔術行使であったためか、ちゃんと相殺を柔らかにしており、ダメージは一切なかったが……

 

「一旦……地上に降りましょうか……」


 三人中二人がダウンし、その片方は気を失っていた。

 三人のうち一人は気を失ってはいたが、全員、これといった外傷も見られず、無事に沼地に降り立つことができた。

 だが、ミリアスの身体を支配している二ティは、地面に近づく途中にある異変に気が付いていた。


「……グリードさん」


「えぇ、これは明らかにおかしいでしょう」


 それはグリードも同じようだった。

 現在、降り立ったギュノース沼地は霧に覆われており、十五メートル先は真っ白で何も見えない状態になっていた。それでも、ミリアスには探知の能力があり、ミリアスのことを支配しているニティにもミリアスの脳から情報が伝わっている。


「二人、来ます。場所は南南東へ五十メートルです」


「グリードさん、探知のスキルでも持ってるんですか?」


「えぇ、というか、ミリアス殿は真面目な場面では敬語になるのですな……」


「ま、まぁ、気分によりますけどね」


 グリードの報告からあったように、ここから南南東、つまりは最前線の方から、二つの強力な魔力反応があった。ミリアスが感じ取ったものとは違うのだが、この魔力量は敵であれば脅威に成り得る量だ。おそらく、5000。だいたいウナの魔力量の二倍ほどだろう。


「敵でないことを祈るばかりですが……」


「そうはいかないようですね、ミリアス殿」


 霧の中から近づいてきた二人の手にはそれぞれ、赤く染まった獲物がぶら下げられていた。


「あらぁ? 男がいるわぁよぉ?」

「くっ、これだから淫乱は……」


 歩いてきたのは二人の女であった。

 一人は赤いドレスをきて、ハイヒールを履いている、グラマラスなスタイルのピンク髪の女。

 もう一人はボサボサにした紺色の髪をうしろでまとめポニーテールのようにした、体格の小さい、白衣を着た女。

 どちらも戦場には似つかわしくない格好をしているのだが、その佇まいからは殺気が感じられない。素人目にはただ、呆然と会話しながら、ショッピングを楽しむ休日の光景にしか見えないのだろうが、二ティにはそれは全く感じられず、どちらかというとゾッとしてしまい、全身の神経が逆立つのを抑えられなかった。


「何者だっ!! 止まれっ!!」


 グリードは案外いつもどおりの対応で、だからといってこのふたりの異常性に気がついていないことはないだろうと思わせる様子であった。


「ふふっ威勢よく吠えちゃって、かぁいいわねぇ」

「てか、あんたが誰だよ、名前きくならまず自分から名乗れよ」


「(ん? 今の言葉……)」


 二ティはその言葉に聞き覚えがあった。確か、前にミリィの記憶を漁ってい時にニホンジンとかいうミリアスの元の世界での人種の文化にそのような作法があっただろう。


〔ミリィ、バトンタッチです。共有はしていたので覚えていますよね?〕


〔あぁ、問題ない。彼女はこっちの人間だろう〕


〔では任せます〕


 そんな念話をしていると、隣のグリードが目配せをしてきた。取り敢えず時間は稼いでくれるようだ。


「俺はお前たちのことが信用ならないのでな、簡単にすませるぞ、俺はグリード、探検家だ」


 ってあれぇ!? 今の目配せなんだったの!? 俺わかんなかったよ!? と、と、とりあえず、自己紹介しておくしかないよな。


「冒険者のミリアスだ」


「あたいはアルだよ」


 うぉっ!? ビビった、そういえばいたな、今の今まで、気を失ってたのか。さっきの目配せってそれか!!


「ふぅん、へぇ、じゃぁ、先ずはあたしからかしら?」


「いいよ、はやくしろよ」


「はいはい、私、色欲のアスモデウスでございます。どうぞお見知りおきを」


「あたしは嫉妬のレヴィアタン。ま、教えても、意味ないけどね、どうせあんたたちもこうなるんだし」


 そういってレヴィアタンと名乗った女は自分の手に持っていた人間の身体を破裂させた。


「あたしの人体実験、試しに受けてみない?」


「それは、大いに遠慮願おう、俺にはやることがあるんでな」


「残念、でも、関係ない……なら、ただ殺すだけ」


 自然と会話は流れ、ミリアスの相手はレヴィアタンがすることがきまったようだ。


「ミリアス殿、こっちは任せてください、二対一ですから心配はご無用です」


「おう、任せた」


「うっふふ。あなた達二人はどんな関係なのかしらね?」


「アルの事か? おれの娘だ。 娘を傷つけるものは許さんぞ」


「あら怖い、私困っちゃう」



 着々とことは進みつつあるようだ。

 果たして、この二人の名前である、大罪は彼女たちが魔王であるという証明なのだろうか。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



〔ニティ、報告〕


〔どうしました?〕


〔傲慢だった〕


〔なるほど、こちらは色欲と嫉妬でした〕


〔おい、ニティ、俺んとこは強欲と暴食だったぞ〕


〔ふむ、分かりました、二人ともありがとうございました。残るは憤怒ですか……これは生存確率は低いですかね……〕

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