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この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
33/57

33 動き出す戦場

 皆と作戦会議をしている中、最前線の戦況が一気に傾いた。


 ニティの報告で戦況が劣勢になってきていることは聞いていたが、今回のはニティだけじゃなく、俺にもわかった。とてつもなく強大な力が二つ。一つはグランさんで、もう一つは敵のほうだ。グランさんひとりでは抑えきれない可能性が高い。


「レアリ! ウナ!」


 自然とエルを呼んでいないのは、彼女が沼と同化している上、自分のパワーアップに興奮状態だからだ。今の状況で呼んだら、こちらに攻撃を向けかねない。それほど、頭のネジが外れている状態にあるのだ。


「はい!? なんですか!?」

「んみゃぁぁぁぁ!! どうしましたぁ!?」


 ん? エル? …… いや、今はそんなことはいいか

 返事はすぐに返ってきたが、ウナがどうにも変なテンションになっているようだ。これはエルと同じかそれよりひどいかも……いや、戦闘中は涼妹の方になるのか? なんかそんな気がしてきた。


「前線に強いのが居る! 少し様子を見に行くからここを頼む!!」


「「了解!!」」


 用件だけを伝えてもその状況に合わせて上手く対応してくれる二人。これだから信頼をおけるのだ。

 と、少し嬉しくなりながら、最前線まで飛ぶための魔術構築を済ませていると二つの近づく気配があった。


「ミリアス殿!! 自分たちをお供に!!」


 案の定グリードとアルだ。

 確かに彼らが行きたいのはわかるし、今回の場合、敵が敵なだけに、人数は多いほうがいい。


「しょうがないか……わかった!! だが、気を付けろよ!!」


「はい!! 行くぞアル!」

「はいよ、親父!」


 二人はリザードマンの群れを一気に抜ける気でいるのか力を溜めるような仕草をし始めた。


「あぁ、二人とも! 俺に捕まってくれ! しっかりとな? しっかり捕まるんだぞ!?」


「ん? ミリアス殿に? 何かあるのでしょう、アル!」

「はいよ!」


 二人が両肩に捕まるのを確認した。グリードの方は汗臭さが臭ってきたが、アルの方は流石は女の子というべきなのか、探検家としてどうなのとでもいうべきなのかわからないが、とてもいい匂いがした。後、佑夢の柔らかさと同レベルっぽい。


「ん? ミリアス殿?」

「あぁ、いや、なんでもない、行くぞ!!」


「ヴォーラント!」


 風の魔術と重の魔術を組み合わせて、抵抗を限りなく少なくして飛行する魔術だ。今回の場合、魔力を多めに消費したので、飛行機でいうとエコノミークラス並みの快適さだった。


「え? うぉぉぉぉ!? なんですぞこれぇ!?!?」

「きゃぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」


 なんということでしょう。早い早い。時速120kmで飛んでいってしまった。計算だと、最前線まで一分程度といったところだ。


「二人とも、しっかり捕まってろよ!!」


「「あぁ!!」」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぐっ……!」


 一閃。一つの攻撃で、かなりの重みのある斬撃を放ってくるその攻撃はそう呼ぶに相応しいであろう。ザックと名乗った男の実力はギルドマスターであるグランでさえ圧倒するのにさほどの時間はかからなかった。


「はっはっはっ! さすがのグランといえども、老いには勝てなんだか?」


「ちくしょーなめやがって……」


 確かに、おれは老いた。だが、こんな若僧にやられるほど落ちぶれちゃぁいねぇはずだ。さっきからなんだ? 身体が妙に重てぇんだよな……バフ系統の魔術でも使ってやがんのか? いや、あいつからは魔力の糸はみえてねぇ。となるとなんだ? 別のやつか? とするとここじゃあ数が多くてわかるわけねぇよな……


「ふっ、この速度は……どうでござるか?」


 ザックの戦い方は単純だ。速度で攻めて、相手の知覚出来る速度ギリギリで攻撃を放ってくるのだ。つまり、今、あいつには手加減するほどの余裕があるということだ。分かってもうれしくねぇ情報だな。


「ぬぅ……!? んのやろぉ!! なめんじゃぁねぇ!!」


「む、お見事!! これが敵でなかったらどれほど良かったことか……」


 思ってもねぇことをペラペラと……


「お互い信念掲げてるんだろうがよ?」


「ふっ、なればこそ、我が真名を明かそうか」


「あぁ!?」


 真名!? 今、こいつ、真名といったか? どういうことだよ、こりゃぁ、俺も本気出すしかねぇじゃねぇかよ……


「なんぢら(おの)がために財寶(たから)を地に積むな、ここは(むし)(さび)とが(そこな)ひ、盗人(ぬすびと)うがちて盗むなり。なんぢら己がために財寶を天に積め、かしこは蟲と錆とが損はず、盗人うがちて盗まぬなり。なんぢの財寶のある所には、なんぢの心もあるべし。……人は二人の主に兼ね(つか)ふること(あた)はず、(あるい)はこれを憎み彼を愛し、或はこれに親しみ彼を(かろ)しむべければなり。汝ら神と富とに兼ね事ふること能はず。我が名はマモン富と財を司る、強欲の悪魔なり」


 なるほどな、強欲の罪、マモンか。欲する悪魔。


「神話じゃよく見かけるが……実物は半端ねぇな……」


「我が真名を聞いて恐れぬか……」


「まぁ、聞き慣れてるからな……」


「ふん、まぁ、よい、ふっ!」


「くっ!? はぁ!!」


「甘い! そして遅い!」


 元とはいえグラン・ジル=サンダーはSSランク冒険者である。それでも、まだなお、この悪魔の速度には追いつくことが出来ない……相当な速さを持っているのだ。


「はぁっ!!」


 能力に強化を乗せた一閃ではあったが、マモンはこれを難なく躱した。


「ふっふっふっ、その程度か? その程度では我は殺せんぞ?」

「チッ、まだ、抜けきらねぇのかよ……本当に迷惑だな……」


 グランが悪態をついているとマモンは次第に腕時計を気にし始めた。


「そろそろ時間か……仕方ないが、早急に終わらせよう」

「そうかよ。なら一撃ずつだ。お互いに一撃ずつくらって終わりだ」

「成程、自分が生き残る可能性を少しでも上げたいということか? まぁ、我にメリットはないが、いいだろう受けてやる」

「倒せるもんなら掛かってきやがれ!!」


「ふふふ。我が名はアモン。強欲の権能により、グラン・ジル=サンダー。貴様の命、私がもらおう」


「貰われてたまるか……」


「「ふっ!!」」


 グランの双剣。マモンの双刀。お互いの獲物が接触すると同時に地形が抉られていく。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある山の頂きで少年少女はドラゴンの上に座っていた。たった今、倒したばかりの龍種だ。竜のほうが強いのだが、それでも龍種は相当な強さを誇っている。その龍種の上に座って、遠くを見つめる少女は気付いた。


「ほよぉ? 何か飛んでいきましたぁねぇ?」


「うるさい、黙ってろ」


 少年は黙々と何かの作業をしている。


「はぁい。ところで、今飛んでいったのなんですか?」


 少女はめげずに質問を投げかけている。


「はぁ、イレギュラーだろ。前の大戦の時は居なかったしな」


 溜息をつき、作業を一時中止し、彼は少女の疑問に応えた。


「ふぅん」


「あ、おい? 何処へ行く!!」


「ちょっとトイレ~」


 そう言って少女は山から飛び立ち、ギュノースの沼地に向かった。


「チッ! これだから馬鹿は嫌なんだよ! まて! 明らかに参戦する気だろ!!」


 少年はその少女の後ろ姿を追うように空へと飛んでいった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「エル! ウナ! 中央!」


 指示を飛ばすのはレアリの役目だ。ミリアスがいない時は一番のリーダーシップのあるレアリがチームの指揮をすることにしてあるのだ。


「わかった!」

「了解ですぅ!」


 各々がキチンと返答をし、意思疎通をするのも、三人で決めてあった。三人は意外と仲がよく、色々なことを決めてあった。それこそミリアスとのことなども全て。


「戦況が悪いようですね……大丈夫でしょうか……」


「大丈夫だよ! レアリちゃん! ミリィだったら何とでもしてくれるよ! なんてたって主人公補正がついてるからね!!」


 相変わらず、お元気なウナさんのままです。普段はもっとこう……『大丈夫、心配ない』みたいな簡素でクールな感じなのですが……


「そうですよ! レアリさん! ミリアスさんは凄い人ですから!」


 いやまぁ、確かに、すごいお人ではありますけどね。規格外的な意味で。


「いや、まぁ、そこまで、心配はしてませんけどね」


 あの方の規格外さは私も理解していますからね。


「……ところでウナさん?」


「ビクッ」


「貴方本当にウナさんですか?」


「え、えっと、その~パスとか――」


「ですか?」


 レアリさん。その笑顔がとてもおそろいいということに早く気が付いて欲しいです。


「て、敵来ちゃいましたから!!」


「チッ」


 確かに、敵はこちらが大事な話をしていても待ってくれるわけではなく、今も、話しながら切り伏せているのだ。


「話します! 後で話しますからぁ!! 今はリザードマン攻略に専念しましょ!!」


「そうですね、分かりました」


 彼女の言っていることは曲がりなりにも正しかったのでとりあえずは従って置くことにした。


「なんの話ですかぁ!?」


 すると、突然近くにエルが飛んできた(・・・・・)


「エルさん……取り敢えず、なぜ、前方から飛んできたのかですか?」


「飛ばされましたぁ!」


 ?


「誰に?」


「おじいちゃんリザードマンです」


 ??


「どこから?」


「前線付近からぁ!」


 !!?


「どうやって?」


「風魔法でしょうか?」


 !?!?


「魔術師のリザードマンの可能性があります。少し興味がありますね」


「強かったです」


 成程……


「絶好の獲物ですね……ん? というか」


「はい?」


「なんで前線付近に行ってるんですか?」


「あ、えっと……気分です!」


 本当にこの子らは……


「はい、後で、二人共私の部屋に来て下さりませんか?」


「「はい……」」


 この後、リザードマン百体相手するよりも辛い説教が待っていた。

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