32 侵略者〈インベーダー〉
「よぉし、お前ら!! 今日もやるぞ!! くれぐれも無茶はするなよ!! 生きてりゃ後はある!! だが、先ずはこの戦いは勝つぞ!!」
「「「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
「突撃ィ!!!!」
男たちの魂の叫びは大地を揺らし、天まで届く勢いだった、一方……リザードマンの巣窟では
「オマエ゛タ゛チ、コ゛ノイ゛ク゛サ゛ハワ゛レワレ゛ノショウ゛リ゛テ゛カサ゛ルソ゛」
「「「「「ぐおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
「ス゛ス゛メェ゛!!!!」
リザードマンの軍勢も劣りはなかった。多くの同胞が打たれたとはいえ、その数もまだまだ圧倒的であるため、指揮は依然下がる気配を見せていない。先祖が魔の者ということもあり、血の気が日に日にましているようにすら思える。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ、俺らも行くぞ!!」
「「「おぉぉ!!」」」
「っとその前に」
ガクッ
みんなが勢い込めて叫んだ雄叫びを遮ったガーディーさんはグリードさんとアルを俺の連れとして紹介した。
「んじゃ、気を取り直して……いっくぞぉ!!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
些か、声量は落ちたように感じた守護チーム一員であった……
そんな彼らの掛け声と共に俺たちは戦場へと足を踏み入れた。
「ミリアス殿、我らは先陣のもとへ駆けつけたいのですが……」
戦場へ入ってまもなく、グリードはそんなことを言い出した。おそらく、頭では理解しているのだろうが、気持ちが追いついていないのだろう。これはまだまだ先は長そうだな……
「ダメだな」
「何故ですっ!?」
おおう、食い気味だな。強面でそんなことされるとビビるわぁ
「そんなこともわからないようじゃ、先へは行かせねぇよ?」
「くっ……」
「今はおとなしくしてろ、さぁ、第一陣、来るぞ!!」
「バカクソ親父が」
「チッ……」
「ここを守れねぇんじゃファミリーだって守れやしねぇだろ」
「し、しかしなぁ!!」
どうしても、助けたい、という気持ちが体を突き動かしてしまい、私もつらいのだ。
ミリアス殿やアル、皆がいるというこの状況が一歩を踏み出さず、今に集中させるのだ。
「少しは感謝しないとな……」
冷静でいられるのも皆のお陰か、グリードは感謝ということば自然と出たことに驚きを隠せないでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この日ギルドのチームはリザードマンの軍勢を押していた。
「よぉし、昨日の作戦会議のおかげかぁ? 今日は調子がいいぜ!!」
初日の戦いでリザードマンの戦力を分析し、昨日の夜に練った作戦のおかげで、戦況は有利に働いていた。しかし、そう簡単にはいかないのが現実である。昨日の戦いで戦力を把握したのはこちらだけではなかった。
「ふっ、はぁ!! あぁ? なんだか胸騒ぎがすんなぁ……」
「どうか、ふっ! しましたかっ!!」
「いや、なんでもねぇ!! よっ!!」
ギルドマスターはどこか引っかかっていた。
リザードマンたちの動きがあまりにも昨日と似通っていたこに。確かに、急激に強くなられても困るのだが、それにしても、あまりにも行動に変化が見られな過ぎる。昨日の今日であるとはいえ、少しは学習してくるだろうと対策を張っていたのが無駄になったような気分だ。だが、逆に、そう思わせることによってという線もあることにはある。一応警戒は怠らないように伝えておこう。そう考えていた矢先のことだ。
「ぐっ!? うわぁぁ!?」
「どうしたっ!!」
突如一人の冒険者が悲鳴をあげた。その声に悲鳴をあげた人物の方を見ると……
「ひ、火がぁ!? 熱いぃ!!」
その冒険者が燃えていた。火だるまになり、剣を落としている。
「おい水だ!! 沼に潜れ!!」
俺は咄嗟に沼へに潜る指示をしたが、その直後、後悔することとなった。
「ぐぅ!?!? あがぁぁぁぁぁ!!」
火だるまになった冒険者の周囲5m近くが突如爆破を起こした。瞬間を見ていたグランからは沼に引火し、爆発したようにしか見えなかった。
「な!? 沼かっ!?」
「うわぁぁ!!」
するとまた、今度は火だるまの冒険者とは逆側で悲鳴があがった。
「チッ! 今度はなんだぁ!!」
叫びながら顔を向けると、彼の視界では、人が砂塵となり、衣服や装備だけが重力に伴い落ちる瞬間が目に映った。
「なっ!! どうなってやがる!?」
急に火が出たり、砂になったり。一体ここで何が起こっていやがる!?
流石にリザードマン達が魔法を使って来るとは考えていなかったのか、魔法装備の対策はしていなかった。確かに、この現象を引き起こしているのはリザードマンではないのだが、そんなことを彼らが知る由もない。
「ジルサンダーさん! 一旦退きましょう!! このままでは!!」
「あぁ、そうだな……原因がわからないのはまずい! てった……」
「辺境の街【ソール】のギルドマスター、グラン・ジル=サンダーとお見受けする」
「あぁ? 誰だ? てめぇは!」
「む、失礼。拙者はザックでござる」
そう名乗った男は全身を黒い装束で覆っており、喋り方からも、忍者を連想させた。
「わりぃな、見ての通り、今は戦中でな、立て込んでるんだ、あとにしてくれ」
「ふっ、この戦の主犯が拙者たちだと言ったら?」
正直、この日本人バリバリなやつとはやり合いたくないんだが、おそらく、こいつらは敵側だ。リザードマンの侵攻もこいつらの手引きでまちがいないだろう。
「殴って捕まえるしかねぇなぁ?」
実際に捕まえられるかどうかはわからないがやるしかないのだろう。
「ふっ、話が早くて助かるな、拙者の願いは貴殿との手合わせよ」
「あぁ、いいぜ? お前らが主犯なら、殴らねぇといけねぇからなぁ」
「では」
その前に、仲間の撤退だけは済ませておかないとな……
「リャン、すまんが後頼むわ」
「お任せ下さい」
「おう」
まぁ、リャンなら、うまいことやってくれるだろう。さぁて、久しぶりの同胞人だ。腕が鳴るねぇ!
「いざ、推して参る!!」
「うぉらぁぁあああ!!」
互いの剣先が合わさるとあたりの泥沼はうねりをあげて散らばっていった。
「ふんっ!!」
「なぁっ!?」
「早い、か……」
「あぁ、てめぇもな、だが、まだ、俺には届かんぞ!!」
グラン・ジル=サンダー。元SSランク冒険者【速度の王】と呼ばれた男。
「十分承知!!」
「おらぁ!!」
「むっ!」
「今のを避けるのか……まるで化物だな……」
「この衣装はお気に入りでな、傷を作りたくないのでござるよ」
「はっ!! そうかよっ!!」
「くっ、こうでなくてはつまらんっ!!」
二人の男は打ち合っていた。お互いに笑顔で、ただ、ひたすらに不気味な笑みを浮かべて……
「よし、皆!! ギルマスが時間稼ぎしているうちに撤退だ!!」
「んん~、その選択肢はアウトですよぉ~! Sランク冒険者のリャンさぁん?」
声が聞こえたと同時に周りの泥が冒険者たちを取り込んでいった。
「な!? 貴様!! 誰だ!! 何をした!?」
辛うじて反応出来た冒険者は捕まっていないが、パニック状態に陥っているように思える。
「明らかに敵対意識を持っているものに話しかけるのもアウトですねぇ~、少々痛い目見てもらいましょ~!」
「チッ!」
Sランク冒険者【土壁】のリャン。彼が相対したのは道化師マニョール、彼らは二人ともが領土系の戦い方をするので相性としては互角といったところであった。
すると、その二組の後ろから男が現れた……
「さて、侵攻を再開しようか」
その男は笑う。人を民を国を世界を、神でさえ、彼には嘲笑の対象でしかない。目指すはただひとり。たった一人の女のために。
「待っていろ。アリス。今行ってやる」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へっぶションぬあん!!!!」
「んなっ!? メリーてめぇ!! きったねぇ!!」
メリーのくしゃみによって近くにいたレゲヌスの衣服に唾なり、なんなりが飛びついている。
「あぁ、ごめんごめん、よいしょっと、ほら大丈夫」
レゲヌスの衣服に砂をかけて自分のなんなりをきれいにした。
「……大丈夫なもんか!! オラァ!! オメェの便利な魔法で直しやがれ!!」
「あぁ、もう、うるさいうるさい! 服ごと消えちゃえ!」
面倒なので、服ごと全て異界に送った。というか、神王様の目の前に転移させた。つばとか、砂付きの布切れみたいな衣服
「はっ? あぁ!? おい!! お、お前! 服! 服返せェ!!」
「あぁ、もう、そのまま、街に転ぃんぐっ!? むぐっ!! うう!!」
この状態のレゲヌスを街にだしたら、一発で討伐対象になるだろう。例えどれだけ人間のようになったとしていても……
「はぁ、思いの魔術? だっけか? 厄介なことこの上ないな……ほんとに」
メリーの能力は神だった頃の能力ではなくなっている。だが、全部が全部使えなくなったわけではなく。[干渉]の能力はのこっていたため色々と弄り尽くしていた。
「っぷはぁ!! 何すんのさ!! 僕の体を汚すんじゃないよ!!」
「あぁ? 元々オメェの身体なんざ汚物じゃねぇか!! 何度言ったら風呂に入るんだ!!」
「ひどいな! これでも魔術でキレイにしてるし! こう見えても、僕は処女だよ!! 純潔なんだぞ!!」
神には性別というものがなく、この世界に落とされた時は女だったので、純潔で問題ない。
「何が、こう見えてもだよ……餓鬼じゃねぇか」
彼女の身長は全く伸びていなかった。というか、どこも成長してないのではなかろうか?
「くぅ~!!!! 見てろよ! いつか、いつか目に物見せてやるわ!!」
「あ~はいはい」
こうして、二人の日常は進んでいく……完。じゃないよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「てことで、作戦会議!」
「あの、何が、っていうことなんですか? 説明を求めます、ミリアスさん」
戦況が変わったことをニティからの報告で察知した俺は、仲間を近くに集め、作戦会議を開こうとしたが、残念ながら皆には二ティの報告が伝わるわけがないので、一から説明をするひつようがあるようだ。
「あ、そうだったな。レアりよ、そこに座り給え」
リザードマンが火を放って来たが、取り敢えず、切り伏せた。やっぱり、ウナの[神器創造]は便利だなぁ、今回ウナに頼んで生大刀を創ってもらった。生大刀とは大国主が根の国から持ち帰った大刀で、八十神、多くの神を殺した剣だ。ついでにリザードマンを屠って、みんなに説明を開始する。
「いやです」
「ミリアスさんが変ですぅ」
「カッコイイ」
なかなか、聞いてなさそうだ。
「おい親父」
アルはグリードへと質問した。
「なんだアル?」
「ココセンジョウダヨナ?」
アルは機械仕掛けになりながらも、意識を保つことに成功していた。
「さぁな、冒険者のことはわからん」
残念。回り込まれてしまった。
「い、いや、冒険者とか、そういうレベルじゃ……そうか、味方はいなかったな……」
「ということだ、ほっ! ふっ! よいしょっ!」
説明の途中にも関わらず、大量のリザードマンが流れて来たので、皆で応戦しながら、説明をした。
「成程、通りで先程から個体数が増えたわけですね、ふっ!」
先程から、あれよあれよ、という間にリザードマンが攻め込んできていたのだが、ここより後ろには一匹たりとて踏み込んではいなかった。それもエルの同化が心強いのだ。逃がさない。離さない。気付かれない。三点揃ってこれ一本。的な。
「どうしましょー! ミリアスさぁん! 私強くなってますぅ!!」
「エルちゃん、ずるぃ……」
ウナはウナで、そのエルの様子に睨みを利かせていた。
「うんうん、エルもウナも相変わらずだな、せいっ!」
「いや、ウナさんは明らかに……ダメだ、聞いてない、ふっ!」
「なぁ……親父、はっ!」
再び、アルはグリードへ質問する。
「ふっ! なんだ? アルよ」
「せゃぁ! なんであいつら余裕そうなんだ?」
「さぁな、冒険者のことはわからん」
「聞いた私が馬鹿だった……」
だが、残念なことにここには彼女の味方はいなかった。