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この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
31/57

31 生き方

「ミリアス様! 人が、人を見つけたとはどういう?」


 俺が発した言葉のすぐ後にグリードさんの言葉は続いた。俺の報告で少々気が立っているようにも思える。


「そのまんまの意味だ。顔は確認できないが、人がいる」


「そ、それはどこに!!」


 俺は素直に答えるのだが、それでも彼の勢いは収まらない。


「この森を出て、南東に行った所にある渓谷の最深部だな」


「そんな場所に……ではすぐに!!」


「焦りすぎだ、クソ親父」


「っ!?」


 妙に焦りを見せるグリードさんを止めたのはアルさんだった。そういえば、アルさんこの会話中ほとんど割り込んでこなかったな。言葉遣いは荒々しいけどなんだかんだで色々考えているんだろうか。


「そうだな……グリードさん、今の状況ならまだ急がなくとも大丈夫だ」


「で、ですが!!」


「チッ、落ち着けってのクソ親父!! 今は森から出るのが先だろうが!! 馬鹿か!」


「そ、そうは言ってもなぁ!! アル!! 俺には……」


 グリードの言葉は続かなかった。確かに、グリードにも理解はできている。頭では理解していても、心がざわついて、自分のことがどうしようもできなくなってしまうのだ。それが良い結果に繋がる場合もあるのだが、今回に限っては裏目に出たわけだ。


「グリードさん、アルさんの言った通りだ、それに今のあんたじゃ火に油を注ぐだけだ」


「ぬ、そ、それは……そうかもしれませんね、すいません、お見苦しい所を」


「あぁ、じゃあ二人はここで待っててくれ、一旦仲間と合流しよう」


「「仲間?」」


「えぇ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 突然、ミリアスに呼び出された三人は戸惑っていた。


「こちら左からウナとレアリとエルだ、逆にこの二人はグリードさんとアルさんだ」


「は、はぁ、どうも」


 一番に挨拶をしたのはレアリだ、流石年長者といったところか。


「あ、これはご丁寧に、グリードと申します」

「ア、アルだ、よろしく」


 続いたのはお客である二人。


「ウナっていいます」

「エルです!」


 最後はウナとエルだ。


「さて、自己紹介は終わったところで――」

「あの、ミリアスさん?」

「あの、ミリアス様?」


 俺が話を進めようとしたところで、エルとグリード両者から待ったを掛けられた。


「あ、いえ、グリードさん? がお先にどうぞ」


「エル様、ありがとうございます。では先に」


 なんだかよくわからないが、エルの方はなんとなくわかるがグリードの方はなんだ?


「あのミリアス様、不躾ながら、貴方様は森の主様ではないのですか?」


「ん? あぁ、別に、俺はただの冒険者。森の主でもなんでもない」


「はぁ!? マジかよ!!」


 俺の回答を聞いた瞬間にアルは項垂れてしまった。なんなんだ?


「成程、分かりました。私どもはそれだけです。エルさんどうぞ」

「え? あ、はい。あのミリアスさん、こちらの方々は?」

「こちらは探検家のグリードさんとアルさん、二人は親子だ」

「あ、はい。分かりました」


 さて、自己紹介も終わったし、本題に入るとしますか。


 事情説明を受けた三人は納得していた。そして、ミリアスの説明が下手なことにも気が付いた。


「ミリアスさん この御二方に戦争のことはお話になりましたか?」


 問うたのはレアリ、ミリアスが説明していなかった箇所を的確に突いていく。


「あぁ、グリードさん、実は今、ギュノースの沼地までリザードマンが侵攻してきていて、我々冒険者は彼らと戦争状態になっている。そして、おそらく、ジェイソンファミリーの渓谷迷宮(ダンジョン)の浅部はリザードマンの拠点となってるはずだ」


「な、なんと……」


「だが、さっきも言った通り今すぐにどうこうできるような迷宮じゃないから、今のところ心配は不要だ」


「な、成程、ではミリアス様はこの森から出ることは出来るのですね?」


「あぁ、大丈夫だ、そして、後はそちら次第だが、リザードマンの侵攻をを止めるための手助けをしてくれないか?」


 正直に言えば、この二人の実力は知らないし、この戦場に関わらせるのはきが引けている、それでも、リザードマンの軍勢は強い。一人一人の実力は劣っていても数が多い。実力の差を埋めるほどの数の戦力があちらにはある。それに対抗するにはこちらも少しでも多くの戦力を集める必要がある。実際、ギルドマスターは他のギルドへ使いをだしている。このままではジリ貧なのは間違いないだろう。俺が全力を出せしても、敵う数ではない。


「それは……そうだな、そのリザードマンを撃退することがファミリーを守ることにつながると私は考えた」

「つまり……?」

「分かりました、このグリードとアル、私共は微力ながら、リザードマンの殲滅を目標とした上でご助力致しましょう」

「お、親父いいのかよ?」

「あぁ、この程度なら問題あるまい」


 んん? そういえば、アルさん、グリードさんが行動を起こすたびに警戒、というか心配しているよな。グリードさん……何かあるんだろうか? 念の為……


〔ニティ〕

〔えぇ、何かあればお伝えします〕


 俺がニティに伝えていると、話が終わったと思ったのか、エルが質問をしていた。


「……あの、グリードさん、アルさん」

「エルさん? 何か?」


 エルも探検家だしな、自分のファミリーの心配ぐらいはするだろうな、それについて聞きたいことでもあるのだろう。


「御二人は、龍殺しの探検家を知りませんか?」


「ん、エルさん、それをどこで? いや、すいません、この話はいずれ時間があればゆっくりと」


「え、あ、はい。失礼しました」


 ん? 龍殺し? なんのことだろうか? いや、単純に考えるとファミリーのことなのは確かだが……あまり詮索するのは良くないか……


「おわったか? エル」

「あ、はい、大丈夫です」

「んじゃ、取り敢えず、二人の小屋を造らないとな」


「あ、ミリアス様、お気ずかいなく、我々は近くで野営の準備でも致します故」


「いやいや、遠慮すんなって、対した魔力じゃないしすぐだよ、アルだって屋根のある部屋のほうがいいだろ?」


「ん? まぁ、ないよりはある方がいいのは確かだぜ」


「よし、なら決まりだ」


「なら、お言葉に甘えて、よろしくお願いします」

「よろしくな」


 さて、日が変わる前に終わらせないとな……っと、後でグランさんにも報告しなくちゃだな。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「成程なぁ、リザードマンの洞穴に、渓谷のダンジョンと来たか」


 遅め夜ご飯を食べた、俺は、ギルドマスターであるグランさんのところへ報告に来ていた。ちなみに夜のご飯はレアリが作ってくれた。森の動物たちの肉を使って作ったスープだったが、何の肉なのかわからんが、肉は美味かったし、スープはパンとも相性が良かった。


「はい、それで、その探検家のことですが」


 俺は二人のことも報告をしたのだが


「んー、俺としちゃあ、ありがてぇんだがな、生憎ギルドの連中は探検家と仲が悪りぃ、優遇はできねぇが勘弁してくれよ?」

「いや、受け入れてくれるだけでも十分だと思いますよ」

「いや、流石に、リザードマンの数が多いしな、数はいたほうがいい」

「まぁ、そうですよね」

「あ、そういや、昼間のレアリちゃんの魔術か? すごかったぞぉ、ありゃ、流石精霊っつったところだな」


 ん? レアリの魔術? いや、今日ってレアリそんな大きな魔術打ってたか? ましてやグランさんのところまで届くような魔術なんて、俺が放った……もしかして?


「あの、グランさん、それって、雷の魔術のことですかね」

「あ? そうだぞ、あの一撃はすごかったな、俺でもまともに受けりゃあ怪我するレベルだろうな」


 いや、あの威力の魔術で怪我するでレベルで済んでしまうグランさんもグランさんだろう。


「すいません」


「ん? なんでお前さんが謝んだよ、あれのおかげで助かった野郎も何人かいるんだぞ? お礼こそ言えど謝罪なんぞいらんわ」


「いえ、そう言っていただけると幸いです」


 自分がやったといいそうになった。態々それを伝える必要もないと思ったのでレアリがやったということにしておいた。実際、今回のは俺がやったものではあるが、レアリにも出来ないわけじゃないだろうし、問題ないだろう……たぶん。


「うむ、報告ご苦労だった。探検家にも事情は伝えているんだよな?」

「えぇ」

「ならよし」

「では、失礼させていただきます」

「おう、またよろしくな」


 軽く会釈をして、ギルドマスターの部屋を出て行った。



「ふぅ、ミリアス一行、なぁ」


「あら、ため息なんて珍しい。どうかしましたか?」


 ミリアスと入れ替えに入ってきたのは秘書であるリラ=グルメリンだ。彼女にはミリアスとの会話で魔術の話をしようと思っていたので体質してもらっていた。


「いや、なに、あいつがどっちのジョーカーになるかと思ってな」


「ん? どっちの?」


「プレイヤーになるか、ディーラーになるかだな」


「はぁ? なんの話ですか? プレイヤー? ディーラー? ってなんのことでしょう?」


「こっちの話だ、気にすんな、それより、リザードマンの方はどうだった?」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「グランさん怖かったぁ~」

〔結局、終始威圧されたまんまでしたね〕

〔だよな~、あれは何? 魔力の感じじゃなかったんだけど……〕


〔……あれは、闘気でしょうかね〕


〔闘気っていうとあれか? 武力がどうのこうのってやつ?〕


〔えぇ、確証はありませんがそうでしょう〕


〔ん? ステータス見たんじゃないの?〕


〔いえ、それが〕


 弾かれたのか、俺のは神術(マヌアート)だってのに、それを弾くってことは……


「グランさんは転移者?」


〔そう決め付けるのは尚早かと〕


〔まぁ、そうだよな〕


 鑑定系の能力がこの世界にないとは限らないし、それに対応する魔法具だってある可能性もないわけじゃない。もちろん、転移者である可能性も捨てるわけではないので、今は中立を貫こう。事を荒立てて足を掬われてちゃあ意味がないからな。


「ま、なんとかなるだろ」


 俺はお気楽に自分の造った全力で人を駄目にする拠点に帰った。

 その背中を見つめる二つの眼眸は黒く、深く、そして白く染まっていた。


「これ、以上追ったら、死ぬ、よね……」


 その影は呟くと夜の闇と同化していった。


「……また、こ、んど」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 私は涼妹。

 はい。ウナちゃんがそっぽ向いて出てきてくれません。どうしたらいいですか。私はふかふかの幼葉で蹲っている。


〔とりあえず、二つの事を同時に考えてみなさい〕


 うぉわぁ!? だれ! だれ!? 頭に直接声が聞こえるんですけどぉ!?


〔私は………………天使です〕


 タメなっが! 絶対今決めたでしょ!? タメ長かったもんね!!


〔それでは〕


 あぁ待って! 待ってぇ!! 謝るからさっきのこと詳しく教えてぇ!?


〔じゃあ、今すぐミリィ、んん! ミリアス様に事情を説明しなさい〕


 ミリィって? えぇ!? 無理だよぉ!! だって……私……私……彼が好きなんだもん!! 上手く話せるわけないよぉ!!


〔チッ、じゃあ、知らん〕


 えぇ!? 舌打ち!? チッって、今チッってぇ!? しかも、知らんてぇ!?


〔うるせぇ、小娘だなぁ、クソが!!〕


 あれぇ!? キャラ変わりすぎじゃない!? さっきまでと別人!?


〔たりめぇだろうが! 別人だよ!!〕


 うへぇ、天使さまはいづこへぇ!! 悪魔がやってきたよぉ!?


〔ん? 悪魔? うーん、いい表現だな! 俺様にぴったりだ!〕


 え? あ、はい。どうも。


〔はっはっ!! いいな、いいなぁ! 気分がいいからお前に一つだけ教えてやるよ〕


 うぇ!? ホントですか!?


〔あぁん? 聞きたかねぇなら話さねぇぞ!〕


 お、おおお願いしますぅ!! どうか私に教えてくださいぃ!!


〔んん、よし! よく聞け? 一度しか言わねぇからな〕


 は、はい!!


〔ウナは女だ〕


 は、はい?


〔以上! 後は自分で考えな! じゃあな!!〕


 え、えぇ!? それだけ!? 既存の事実じゃん!! どういうことぉ!?


〔涼妹さん、彼の言うことは理解できるように頑張ってください〕


 あぁ! 天使さま!! どういうことですかぁ!! 教えてくださいぃ! 私に知恵をぉ!!


〔自分で気付くからこそ意味があるんじゃないですか、それじゃ、がんばってね~〕


 あぁ! まって! まってぇ!! 天使さま? 悪魔さん? 行っちゃった? うわぁぁぁ


「どうすりゃ、いいのさ……」


 私は再び、ふかふかでいい香りのする、ミリアス、櫓実くんが造ってくれた幼葉で蹲った。


「櫓実くん、現世ではどんななのかなぁ?」


 独り言ちっているのを、二つの意思は見守っていた。


〔こりゃだめだな……〕

〔ですねぇ〕


 そこへ一つの意思が増える。


〔すず、まだ、だめ?〕

〔ウナさん……〕


 ニティは首をフル動作をする。彼女たちの姿は普通の人には見えない。ミリアスや、神様ならともかく、この世界で見えるのは、固有能力(ユニークスキル)[透視(スケープ)]か[幽霊(ゴースト)]とった視る(・・)類の能力持ちだけであろう。 


〔もう少し、時間が必要ですかね、まぁ、気長に行きましょう〕

〔うん、これも、ミリアスのため〕

〔はぁ、女って面倒な生き物だよなぁ〕


 三人はそれぞれが静かに虚空へと消えていった。

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