30 探検家ファミリー
俺は二人の客人には敵対心がないと判断したのだが、自分の拠点、しかもウナやレアリ、エルがいるこのツリーハウスに入れることはできないと思ったので、即席ではあるが石でテーブルと椅子を作り出した。椅子の方は座りやすいように柔らかくしておいた。
「適当ですみませんが、どうぞ」
「あ、あぁ、すまない」
「……マジかよ」
その態度が気になり二人見ると、女の方は顔が引きつっていた。男の方も顔には出てないが、やはり石の椅子に座るのは抵抗があるのだろうか、若干声が震えていた。
「大丈夫ですよ、柔らかくしてありますから」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ……」
それもそうか、まぁ、しょうがないだろう。ここは我慢してもらうしかない。
「って、うぉっ!?」
「!? ぬ、主殿、これは本当に石なのか?」
「へ? そのはずですが? …………あぁ、これはやり過ぎましたね」
二人が座っている石の椅子を見ると彼らの身体は椅子の半分ほどまで埋まっていた。
「すぐ戻しますね」
そう言って少しずつ高さを上げていき、それぞれの高さに合わせた。
「取り敢えず自己紹介から始めましょうか。私はミリアス、ミリアス・エグノスです」
「私はグリード・シニアだ。こっちは娘の……」
「アルだ。よろしくな」
なかなかにフレンドリーに名前を言ってくれたな。顔は思いっきり俺のこと睨んでたけど……
「おい、敬語を使えといっただろう?」
「知るかよ」
「おい」
「別に構いませんよ」
グリードさんがアルに注意をしていたが、取り敢えず止めておいた。この場には俺しかいないわけだし、俺がいいと言えば問題ないだろう。
「それならば、主殿も、敬語などおやめください」
そう考えていると、グリードさんも気を使って暮れた。俺もそろそろ敬語が面倒になっていたところで丁度よかった。
「ん? そう? じゃあ、やめるよ? 敬語苦手なんだよな」
「はい、ところで、主殿――」
「と、その前に、その主殿は改めようか」
いつまでも主殿と言われるのはむず痒いので、直すようにいった。
「ではミリアス様と、先程、エグノス、とおっしゃっていましたが、あなたは……」
「あぁ、推察通り、十年前の事件の生き残りだよ」
「そうでしたか、御無礼を致しました」
「いや、そのことに関してはなんとも思ってないし、それに、俺はまだ諦めてないんでな? そう言わんでくれるとありがたい」
実際に俺は今言った通りに思っている。ベルさんの話で、生存者の確認すらできない状態であったことはわかっていたことだし、最悪の場合、覚悟はできている。それでも、一縷の望みを掛けるのは仕方のないことだろう。
「んじゃ。本題に入ろうか。グリードさん詳しく説明してくれ」
俺は本題に入るよう促した。
「では簡潔に、我々の正体を」
「……探検家といったところだろ?」
「そうです。私たちは探検家。ですが、私たちは縄張りを持っておりません」
縄張りをもっていないのが普通ではないのかと言われればそうではないのだが、基本、探検家の多くはファミリーと呼ばれる探検家が集まった探検隊に所属し、自分たちの縄張りを確保してそこで狩りなどを行う。中には二人のように、縄張りを持たず、旅をする探検家もいるが、ほどんどはギルドの冒険者と掛け持ちをしていることが多い。そうでない純粋の探検家で縄張りを持たない、つまり、ファミリーがいないというのはとても稀なケースだ。
「我々には少し事情がありましてファミリーには所属しないのですが、その話は後ほど、取り敢えず今は話を戻します。それで私たちはここらを縄張りとしているジェイソンファミリーという探検隊からの援助願いを見て来たのですが、この森に入ったところで、まぁ、簡単に言えば迷子になってしまったのです」
「なるほどな、ジェイソンファミリー? だったか? そいつらからの援助願いってのはどこで見たんだ?」
「あぁ、情報屋と呼ばれる、冒険者で言うところのギルドのようなものがあるのですよ。そこでは援助やファミリーへの勧誘、パーティ募集なども見れるのです。一見しただけではわからないようなところにあるので、情報屋の場所は知る人ぞ知るってことですね」
情報屋か、一度は行ってみたいよな。男として、ヲタクとして、己の血が騒いでいるのがわかる。この戦が終わったら行ってみるか。エルあたりにでも聞けば知ってるだろう。にしてもそんな場所があるとは知らなかったな
「へぇ、そんな所があるのか」
「えぇ。それで、お願いのことなのですが。ミリアス様には我々をこの森の外まで連れ出して欲しいのです」
「成程なぁ」
正直、もっと頼ってくるものだと思っていたのだが……
「森の主であるミリアス様の御力であれば可能ではないかと考えまして、もちろん、外へ出て欲しいとはいいません、森の外への一本道だけでも教えて頂ければ、自分たちで外へ抜けます」
そういうことか、こいつらは俺を森の主だと思ってるんだったな。つまりその力は森の中限定であると、だから、外へは自分たちだけで行こうとしてるのか。
「どうでしょうか」
「なぁ、援助の依頼書? にはなんて書かれてたんだ?」
「へ? あ、はい。えっと、ギュノース沼地で多数の魔物を確認したと近くのものはできる限り来て欲しいとのことでした」
「そうか」
やっぱり、ギュノース沼地のリザードマンたちとの関連性か。そのファミリーがエルと関係があるとは決まったわけではないが、一度ちゃんと話を聞いておく必要がある、か。
「ミリアス様。どうか御力をお借り頂けないでしょうか? 我らは一刻も早く援助に向かいたいのです」
「そこまでして助けに行く理由はなんだ?」
それは気になっていたことではあった。この二人がジェイソンファミリーの援助に向かう理由は依頼の報酬だけではないような気がする。第一依頼者と受諾者という関係だけでは説明のつかない、焦燥や不安、といったものが感じられる。二人には悪いが少し時間をかけさせてもらうぞ。
「……そう、ですね。……はい。えっと、正直に申しますと、私は元々ジェイソンファミリーの一員でした。ファミリーのお頭である。フォルゲン様という御方に御恩がございまして、それを返すためにファミリーで身を粉にして活動していました。ですが、私は元々捨て子でございまして、ファミリーにあまり馴染めず、結局フォルゲン様を裏切る形でファミリーを脱退しました。その後、ジェイソンファミリーは大きくなっていったそうですが、私はあまり関わらないように避けておりました。ですが、十日ほど前に情報屋で援助依頼を見つけて」
「心配になった、と」
「そうです」
「まぁ、お前らを外まで送ることは可能だ」
確かに、森の中を案内して、二人を送り出すことは可能だ。というか、今の俺なら、リザードマンの洞穴まで送ることも可能だろう。
「本当ですかっ!!」
グリードさんはとても嬉しそうに喜んでいる。だが、現実は……喜んでいるところで悪いがこういうのは早いうちがいい。
「あぁ、だが、手遅れだと思うぞ」
俺は現実を突きつけた。実際、グリードが依頼書を見たのは十日ほど前で、エルが俺たちとあってから今日を入れて四日経っている。エルは夜通し森を走っていただからそれだけで既に五日経ち、今この森にはエル以外の探検家はこの二人しかいない。それは二ティが証明してくれている。確かに、俺の能力を超えて隠密しているなら可能性はあるが、その確率も高くはないだろう。
「え? そ、それはどういう?」
「実はな」
現在、この戦場で起きていること、そして、その人数、リザードマンの軍勢の話をも伝えた。
「ミリアス様、ミリアス様は死体を確認されたのですか?」
それでも、彼は納得しなかった。
「いや、それはしていないが」
「なら、まだ、可能性はあります」
いや、納得しなかったのではなく、活路を見出してみせた。
「それは、どういうことだ?」
「我々、いや、ジェイソンファミリーの中には転移魔法を使える者がおります。仲間が時間を稼げば一度の転移は出来るのではないかと……」
成程な。確かにその可能性はある。だが、その転移魔法を使える奴が真っ先にやられていたら……いや、それが分かっていて見す見す殺させはしないか。とすると、問題はどの程度転移できたかに依るのか。
〔ニティ。広範囲で捜索してくれ〕
〔分かりました。参考程度に総数だけを〕
「グリードさん、ジェイソンファミリーの総数を教えてくれ」
「え? 増えていなければ六十人ほどですが……いや、援助依頼だから全員で来ていると思ってましたが、そうではないのかも、ジェイソンファミリーの本部……先鋭部隊だけだとしたら…………囮?」
囮? 囮か、成程。もし仮にジェイソンファミリーがエルの所属するファミリーであるなら、エルの部隊は囮だったのだろう。しかし、何故、エルだけ? いや、考えても仕方がない。それよりも囮のことだ。囮である部隊が森に逃げたとなると挙げられる候補は二つ
〔だそうだ。おそらく、本部は沼地の先の海か、渓谷そのどちらかになるだろう〕
〔探知開始。……っ! 渓谷の浅部、おそらく沼地の洞穴と繋がっていると思われる場所を発見しました!〕
〔人らしき影は見当たるか!?〕
〔……………………見つけました!! 渓谷の最深部。え? なんですか、これ? もはやダンジョンレベルじゃないですか……〕
「グリードさん、朗報だ、人を見つけた」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕です。
アリスです。
現在、私は迷宮に来ております。
目の前にはモンスターがたぁっくさんいますね!!
でも、みんな僕のことを襲ったりしません。
何故かって?
それは僕が
「アリス様、冒険者の装備拾ってまいりました」
「うん。ありがと! ご苦労様!」
「はっ! 有り難き幸せ!」
そう言って、僕に装備を渡したゴブリンは踵を返して迷宮に戻っていった。
ここは火山迷宮『ヴァルカノン』そして僕は今このヴァルカノンの頂点に君臨している。簡単に言えば、この迷宮を攻略して、ここのモンスターを支配下においたのさ。なら外に出ればいいって? 残念ながらこの子たちはモンスターといって、魔物とは別種の存在なのだ。だから、ここからでたら魔物に襲われてしまうし、モンスターは魔物と区別がつかないから冒険者なんかに殺されてしまう。
ん? なぜ僕がこの迷宮を攻略できたかだって?
あぁ~それね。色々あったんだよ。色々ね……
とにかく! 僕はこの迷宮である計画を進めているのさ!!
「アリスサメ、ジュンビゲデゲマジダ」
「ごめん。何言ってるのかわからない」
「準備が出来たそうだぞ」
「おぉ、久しぶり! 戻ってたんだぁ!!」
「あぁ、それにしても、すごいことになってんな」
彼は僕が一番初めにあったファイヤーゴブリン。あの後、仲直りして、一時期旅をしていたんだ。んで、その時ファイヤーゴブリンって呼ぶのも面倒だったから名前をつけてあげたんだよね! そしたら僕、そのまま、気絶しちゃってさぁ~。神だった頃はいくら名付けても問題なかったんだけど。村娘Dになったからだろうね、魔力が極端に少なかったんだと思う。その後彼の名前が承認されるまで十回くらいは気絶したね!
そんなファイヤーゴブリンも今では百七十を超える名前持ちモンスターだよ。彼は僕から名前をもらったことで、種族が変わってただのモンスターだったのが、再人種という謎の種族に。いまでは人間そっくりだよ。名付けってすごいよね。もう、一生しないけど。
あ、彼の名前?
「レゲヌス!!」
「なんだよ!? 急に叫ぶなよ!!」
「いやぁ~何かど……誰かに求められた気がしてさ」
「はぁ? また意味わかんねぇこと言ってんのか」
「ひどいなぁ!!」
まぁ、僕は僕でなんだかんだ楽しい迷宮ライフを送っています。ミリィ待っててね! 僕、絶対強くなって迎えに行くから!!
「何ニヤニヤしてんだよ、気持ちわりぃ」
「うるさいなぁ!!」
※アリスは僕っ娘にしました。前話も修正してありますが、抜けているところがございましたら、ご指摘のほどよろしくお願い致します。




