28 能力の違い
「ミリアスさん!! これはどういうことですか!!」
叫びながらこっちに向かって走って来た、否、飛んで来たのはレアリだ。
こんなにも彼女が声を荒らげているのにはわけがある。
「どぉおして!! 私のステータスが激減してるんですか!!」
そう。レアリのステータスは現在、俺と同じく通常の5%にまで下がっている。これも全ては俺の責任。無暗に[交換]を使ったことによる影響だ。精霊との契約による精霊側のメリットというのが悪影響を及ぼしてしまったのだ。
精霊は他生物との契約により、ステータスと容姿を手に入れる。レアリも俺と契約を交わしているので、レアリのステータスは俺のレベルアップとともに相当増えていたはずである。
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【ステータス】
ソフィーナ・ファンタジア 高位精霊 201年 Lv270
・体力:8494
・筋力:7394
・魔力:68562
・耐性:3211
・敏捷:13703
【スキル】
[固有能力:魔少女]
[独自魔法:再生][高速思考Ⅴ]
[魔法適性:魔][剣術・払捨刀][剣術・夢想剣]
[瞬速][強靱]
【称号】
『森の守護者』『大量殺害』『完全裁判』
『無慈悲』『大賢者』『ミリアスのお嫁さん』
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「って! ミリアスさん!! な、なななな、何ですか!? この称号はぁ!?」
「いいだろ? 契約者、お嫁さん、改変しておいた」
「はぁ!? ちょっ何を勝手に!!」
「え、え? そんな怒ることだったか? す、すまん。すぐ戻すから」
「へ? は! そ、そう意味では――」
「ほいっ、元に戻したよ、次からは気をつけるからな……すまん」
「は、へ、もう? もどったの?」
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【称号】
『契約者:人種』
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「あ、ほんとだ……わたしの馬鹿っ!」
はぁ、取り敢えず、怒りは沈められたかな? そんなに気に障るとは思わなかった。ほんの冗談のつもりだったんだけどな。今後こういうことはやめにしよう。あんまり俺の柄でもないしな。
さて、と、レアリのステータスが戻ってないってことは俺のステータスもまだ戻ってないんだよな。
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【ステータス】
ミリアス=エグノス(空綺麗 櫓実) 管理者 15歳 Lv56
・体力:490(9800)
・筋力:456(9128)
・魔力:454(9072)
・耐性:426(8512)
・敏捷:462(9240)
【スキル】
[固有能力:交換Ⅲ]
[天恵:成長]
[天呪:不滅Ⅳ]
[神術:心眼]
[探知Ⅸ][遮断Ⅷ][武術Ⅵ][投擲Ⅴ]
[五感超強化Ⅳ][身体超強化Ⅴ]
[瞬速移動Ⅳ][魔力回復Ⅱ][体力回復Ⅰ]
[高速思考Ⅶ][並列思考Ⅹ][並列意思Ⅲ]
[空間把握Ⅹ][立体機動Ⅷ][高速演算Ⅷ]
[追跡Ⅶ][推理Ⅵ][予知Ⅵ][演舞Ⅴ]
[交渉Ⅴ][脅迫Ⅳ][読心Ⅴ][賢者Ⅴ]
[治療Ⅶ][治癒Ⅹ][自己治癒力Ⅹ][楽園Ⅹ]
[魔法適性:魔][式神][従魔]
[持続][豪力][強靭][金剛][瞬速]
[禁忌Ⅶ][聖域Ⅶ][永眠Ⅹ][覚醒Ⅹ]
[言語理解Ⅹ][礼儀作法Ⅹ][不老不死]
[干渉][メニュー][ヘルプ][概念]
【称号】
『転生者』『読書家』『魔術師』『受神』
『能力収集者』『称号収集者』『舞踏家』
『傍観者』『全知』『探偵』『心解者』
『睡眠之王』『永眠の支配者』『覚醒の支配者』
『賢明者』『急成長』『強者』『ゴブリン殺し』
【特典】
〈世界の懐中時計〉〈世界の権能〉
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あ、レベルが上がってる。
管理者というところには突っ込まないぞ。どうせあれのせいだろ。
たしか前見た時は45だったと思うが、これなら今の状態でもリザードマン一体くらいなら余裕だな。
「よし! もう人踏ん張りといきますか」
俺は気合を入れ直し、向かっているリザードマンを蹴散らした。
日が暮れるまで奮闘し、夜になると、昼間の戦闘が嘘かのように冷戦状態となっていた。互いの軍が徐々に後退していき俺達は今、精霊の森で野営をしている最中だ。リザードマンたちは沼地の奥、少しだけ盛り上がっている土地に洞穴のように巣をつくり、そこに潜んでいるのは確認済みだ。
各々がテントを張り休む中で、俺たち四人は俺とレアリが地の魔術で木を操り即席で建てたツリーハウスで休みを取っていた。俺はツリーハウスの居間スペースで幼葉で作られたソファーに腰掛けていた。ちなみに自作だ。隣では疲れたのかウナが俺の肩に寄りかかって小さな寝息を立てている。ツリーハウスといえど魔術の樹で造られた家だ俺が少し弄れば色々なことが出来る。例えば、さっきつくったばかりであるが、酸素の代わりに蒸気を噴出する葉の部屋を作って、サウナっぽくしてみたり、居間の葉やこの幼葉のソファーには甘くて、爽やかな匂いが香るようになっていて、ソファーは幼葉なので柔らかく、このツリーハウスはとても居心地がよくなっていい。
「人をダメにしそうだなぁ」
そうこうして寛いでいると二人の足音が聞こえた。
「いい、お湯加減でした」
「お風呂すごかったぁ……あれは反則ですねぇ……」
レアリとエルは戻ってきてから身体が汚れていたので、水樹で風呂を造ったのだ。シャワーも完備しているのである。2LDKで風呂とサウナ付き。居間はハーブの香りが充満している。これなら、月十万くらいは取れるんじゃないか?
「おう、満足してもらえたようで何よりだな!」
「そうですね、とても満足できました」
「こんなお家を造っちゃうなんてお二人共すごいですぅ!!」
「い、いえ、わたしは何も、ほとんどミリアスさんお一人で建ててしまわれましたよ」
「あはは、ごめんな。どこか不備が会ったら遠慮せずに言ってくれ」
遠慮はいらない、もし次何処かで野営する時が来た時に改良できるように不備があれば教えてもらいたかった。
「あ、だったら、あの……」
「ん? 何か問題あった?」
「いえ、その、不備ってわけじゃないんですが、お昼に言ってた、あの、トイレって場所が欲しいです。皆さんにお聞きしたところ家には必ず一箇所はあるそうですよね!!」
「あ、あー、成程ねぇ、トイレか、うん、後で造っとくよ」
あぁーやっぱり来たか。ウナがいるからいつかは言われると思っていたが意外と難しいんだよな。
「ほんとですか!? ありがとうございますぅ!!」
まぁ、こんなに無邪気に言われちゃ、断れないよね。精一杯いいものを造らせていただきます。
「お昼間のあれが再発すると思うと不安で仕方なくて」
「あー、ソウダネー」
俺は、二人と少し雑談したあとウナを預けて風呂に入ることにした。
脱衣室で脱いだ服を木の籠に入れ、タオルを持って浴室へ入った。
大きさは広い。大人三人は並べる洗い場があり、風呂は露天風呂のようになっていて、風呂場の天井の葉が除けられている。内装を造ったあとの外装アレンジはレアリに任せていたのでどうなっていたかは知らなかったのだが。
「きれいな夜空じゃないか」
空を眺めつつ、さっと軽く掛け湯を流し、大きな風呂に浸かった。
「ふぅ…………ははっ」
入ると同時に大きくため息をしてしまった。思いの他、今日の戦いで疲れが溜まっていたらしい。初めて、人と魔物が殺し合う現場を目撃したのだ。エルの時は一方的にやられていたため感じなかったのだが、今回の戦いでは殺し殺され奪い合う、といったもので今までのとは意味が違った。相手も自分も本気なのだ。今回は余裕が有るからいいものの、これが、常に死と共にあるということなのだ。ひとつ間違えれば死ぬかもしれない。ふたつ間違えれば仲間が殺されているかもしれない。そういった漠然とした恐怖と戦うのだ。日本に居ては決して体験できなかったであろうことがこの世界では起こっているのだ。そんな世界で俺は今後も生きていかなければならないのだろう。簡単にはいかにかも知れない。それでも、生きるためには乗り越えなければならないものがあるのだ。先人達はそうして生きてきたのだ。
―――ガラガラ
そんなことを考えていると、ふと、何かを引きずる音のようなものが聞こえていた。
なんだろうか?
後ろから聞こえたのだが。後ろには洗い場が有るだけだったはず。
そう考え振り向いたのだが……
そこには茶色い髪を結い上げタオルを前からたらしたウナの姿があった。
「ウ、ウナ!? 何してんだ!? 俺が入ってるだろうが!!」
咄嗟におおきな声を出して顔を正面に戻したのだが、彼女からは何の返答もない。
「……ウナ?」
恐る恐る振り返って見ると先ほどと同じ態勢で突っ立っていた。その様子にどこか違和感を覚えたので、よくよく観察してみるとあることに気が付いた。
「おまえ、ウナか?」
彼女のトレードマークである、頭にあった猫耳とふさふさの尻尾がなかった。
「わ、わたし! 涼妹、蓼科涼妹です!! 初めましてですねミリアスさん!!」
「初めまして? それに涼妹? それってウナが日本にいた頃の名前だよな?」
「あ、いえ、ち、違うんです! いや、違わないんですけど……」
「えっと、取り敢えず落ち着こうか」
「は、はい」
ウナの声で、ウナの顔で、ウナの身体で、全く違う行動をしている涼妹ちゃん。これはなにやら事情がありそうだ……
ウナ、もとい涼妹ちゃんによると。この世界に転移して来た時に得た能力[神器創造]によって最初に生み出した神器が〔人格〕だったらしい。ただ、上手く制御ができず、自分が涼妹として活動できるのはこのお風呂のだけらしい。
「そうだったのか」
俺とすずめちゃんはお互い背中合わせで風呂に浸かってそんな会話をかわした。
「はい、それで、今日は、ウナにいたずらされて、ミリアスさんの入浴中にここまで来てしまいした。すいません」
「あぁ、俺は大丈夫だよ。でも、そうかぁ、ウナのやろう、今日のは強めでいっとくか」
「え?」
「ん?」
「ウナと何時も何してるんですか?」
「うん? いや、適当にご飯でも減らそうかと」
「あ! あぁ! 成程! そうですよね!」
「ん? もしかして――」
「考えてないですよ! そんなえっちなことなんて考えてないですよ!?」
「え? う、うん。分かってるよ? ていうか、涼妹ちゃんは、ウナが主導権を握っている時の意識はないの?」
「あぁ、それなんですけど、そのときは覚えてるんですけど、意識が戻ると思い出せないんですよね、多分いまのウナもそうですよ」
「へぇ? プライバシーの関係か何かかね?」
「さぁ? まぁ、確かに便利ではありますけど、時間をかければどうにか思い出せますからね」
「そうなのか」
この後はウナのこととか、涼妹ちゃんのことを少し話してから、涼妹ちゃんは先にあがらせた。
〔ニティ。どう思う?〕
先程聞いた話には俺とニティの関係によく似たような現象が起こっていた。記憶が云々のところはないが、俺たちも意識の共有はしている。
〔えぇ、彼女は自分の能力で人格を作り出したわけです、私は元あった媒体を元に産み落とされた、謂わば、スキルの賜物ですから、あまり参考にはならないと思われなくもないです。ですが、私たちも彼女のように人格を生み出すことは可能です。……実は現に[並列意思]がⅢになった時点で私たちとは別のもうひとつの意思が生まれたのを確認しています〕
二ティは爆弾を持っていた。
なんだって?
人格三人目がいるだって?
二人でもこんがらがって悲惨なことになっているのに、これ以上増えたらダメだろ。
〔安心してください、そこは抜かりなく。ミリィの悪口を耳にしましたので、現在、私の下で矯正しているところでございます〕
〔あぁ!? ……おい、てめぇ! これのどこが矯正だよ! ただのいじめだろうが!!〕
〔はぁ、まだ、矯正がうまくいっていないようですね、これは存外のことにございますね〕
〔当たり前だろ!! 俺がこんな野郎のいいなりになるわけないいだろ!!〕
〔ほう、それはそれは。ミリィのへの侮辱ですね? いいでしょうその売り言葉、買いました!!〕
〔はっ! 望むところだ!!〕
はい。ふたりのことは放っておこう。というか、三人目よ。どういった性格してるんだ? 俺とは似てもにつかねぇな。
「さて、と。俺も風呂あがろっと」
二人が脳内で、潜在意識レベルにまで落ちていったのを確認しつつ、浴室から出て行くミリアスであった。
実は最初から最後まで人外共が見ていたのだが、減るもんではないので最後まで二人のことは無視して帰った。
「……」
「……フリッジダーカー」
「「きゃぁぁぁ!!」」
無視…………できなかったようです。