27 本気
「ディレクトム・トニトリィ」
一閃。
ミリアスの放った魔術。雷の砲撃。雷龍の咆哮。そう表すのが適当なほどの魔術の行使だった。
ミリアスの前方一kmは焼野原になった。
それでいて、ギルド員の周り二mは雷が避けて通る。術式の構築段階で識別を組んでおくと人を避けて通る雷の完成だ。普段みんなが使っている雷魔法では到底成し得ないことであるため、ギルド員たちの開いた口は塞がらない。
「……こりゃあ魔術か!」
そんな中、口を開いたのはギルドマスター。グランはかつて、一度だけSSSランカーと剣を交えたことがあった。その時に使った魔法、いや、魔術はどれも考えられないようなものばかりだった。しかし、その時は剣術でも圧倒されてしまったのだが。その去り際に少しだけ魔法と魔術の話を聞かせてもらったことがった。そういったことから、グランとほか二名のSランカーどちらも魔法に長けた冒険者なのだが、その三人は魔術の行使を理解していた。
「……成程、あいつらだな? 三人のうちの誰か、いや、精霊だって言ってた奴がいたな…………こりゃ負けてらんねぇなぁ!!」
ギルドマスター率いる侵攻チームはこの後地獄をみる羽目となった。
グランはレアリが張本人だと思っているようだが、実際はミリアスが行使している。だが、彼は知る由もないことである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミリアスの放った雷は最前線まで届いていた。
〔だいたいこんなもんですかね〕
〔うん、ありがとう、やっぱ俺にはまだ難しくてな〕
〔ミリィはおバカさんですからね〕
〔そりゃ、ニティに比べたらな……〕
そう、魔術の行使における。術式の構築は全て二ティに任せた。だからこその威力と精度だ。俺には到底できない。しかも、新しい能力を習得したらしく。ますます賢くなっている。最近は、俺に干渉して、記憶を漁るのが日課になっているようで、日本の知識を絶賛輸入中である。こいつどこを目指しているのかね。まさか、俺、乗っ取られるんじゃ?
〔失礼な〕
〔すいません〕
そう言って、真正面から斬りかかってきたリザードマンの剣を受け流し、すれ違いざまに両断。刀ではないので一刀ではない。一剣両断だ。
会話をしながら魔術の行使に使った魔力の回復を待つ。そう、魔術は基本魔力を消耗しないのだが、実はそうではない。魔術には魔力をつかうものとそうでないものの二種類がある。その違いは単にあるものを使うか。ないものを使うか。の違いだ。ここで言えば魔力を消費しない魔術は水・地・風・光・重で、逆に魔力を使うのは、火や闇・雷・氷、その他はSランク以上の魔術だ。火水はE、地風はD、光闇はC、氷爆はB、重雷はA、混無生死はSランク以上だ。俺は魔術ランクAまで使える。生死に関しては[不滅]で補えると考えているし、混属性と無属性は体術しか思いつかないのでパスしているのだ。
そして、視界の端のメニューの下にあるバーを確認する、赤と黄色のバーを特に。バーは全部で四つあり、上から、緑、青、赤、黄色。緑は体力、青は魔力、赤いバーはリザードマン、敵。黄色のバーは冒険者、味方。の総数を表している。赤いバーは既に半分程減っており、黄色のバーは八割は残っている。二割は既に事切れ、亡くなってしまった冒険者たちだ。これが戦争であれば既に撤退も視野に入れつつあるだろう。
ミリアスはこのバーを見て、眉を顰めた。先ほど放った雷は確かに威力は減らしたが、リードマンの総数の一割程を蹴散らした。当初は三割は削れるだろうと推測していたのだが、誤差にしては大きい違いに思えた。
「ミ、ミリアスさぁん! もう、もうダメですぅ!!」
そんなことを考えていると泥沼からエルが声をかけてきた。魔法を打ちまくって魔力がなくなったのだろう。打ちまくっていたのは、バカだからでも、狂戦士だからでもない。俺の指示に従っただけだ。
「っ! ……」
振り返ると……
そこには怪物がいた。
「? どうかしましたかぁ?」
その怪物はだらけているような声音だった。
「……キモイ」
――キモイ。
スライムってこんななんだ。
エルはスライムである。
普通のスライムは有機物を取り込んで無機物へと換える。
よって、エルは今、泥を体内で水へと戻し、循環させている。
さらに、戦ってきたばかりであるため、返り血も浴びている。
そして、ここは戦場であり、有機物がもある。
お分かり頂けただろうか?
そして、残念なことに、液体になって魔法で砲撃していたため、彼女は今、装備を外し、全裸なわけで、スライムなので局部はないが。
彼女の見た目はこうだ。
泥水が90cm程せりあがり、その頂点にエルの上半身が立っている。頭の高さは140cmぐらいで、彼女自身は裸だ。両手には片手剣を構えており、双剣としている。エルの顔をじっと見ていると、恥ずかしそうにしながらもえへへと微笑んだ。あら、かわいい。だが、エルの首から下の体内では、泥・水・血・肉塊・鉄や革といったものが細切れになっており、おそらく尾骶骨あたりから、きれいな水、清水が流し出されている。間違っても聖水ではない。
エルはとてもグロテスクな姿をしているのだが、一部にはきれいな水もとい清水が循環し、その肌をラインのように流れていた。
まったく。
キモい。
かわいいのに。
キモい。
仕草、態度、結構かわいらしいのに。
キモい。
どうしたらいいんだ。
「あ、あのぉ……? ミリアスさぁん?」
「ん? どした?」
「あ、あの、その、全部、声に出てましたよぉ……っ!」
「……すまん」
エルはそう言って顔を赤くしてしまった。
そんな態度も可愛いなぁ、なんて思ってしまうのだが、この見た目はどうにかできないのだろうか?
「そうですねぇ、私も、自分の身体が汚れてるような感覚におちいるのでどうにかしたんですけどねぇ」
「あっ……そうだ」
「? 何か思いついたんですか?」
「あぁ、ちょっとな……」
「え? 何ですか、怖い顔してますよぉ! 今度は何をするつもりなんですかぁ!!」
失礼な、良い案を思いついただけだ。何も変な事じゃない。
そうして、俺はエルに細工を施した。
「どうだ?」
「ん? ……あ、あれぇ? なんだか、魔力が回復してます?」
「あぁ、それだけでなく体力も回復してるはずだ」
「え? ……あぁ、ほんとですぅ!! す、すごいですよぉ!! ミリアスさぁん!!」
エルもレアリもこのクエストに参加する便宜上ギルドに登録する事したのだが、その際にもらえるステータスプレートを確認したエルが回復した体力を見てワタワタし始めた
「って、ミリアスさぁん!! これ、私の身体に何したんですか!!」
ワタワタしていた動きを止めて、急接近してきたエルの肌をチラリと見る。先程までは血や肉、泥まみれだった肌は澄んだ肌色になり、プルプルしていた。しかもいつの間にか服を生成しており、上は白いTシャツにスライムのようなロゴの入ったもので身体のサイズを間違えたのか少しぶかぶかになっていた。下はショーパンのようでそこから見える太ももは完全に肌色をしていた。
「ミ、ミリアスさぁん!! すごいですぅ!! 私! 本物のお洋服作り出しちゃいましたよぉ!!」
「あ、それ、本物なのね……」
どうりで、質感とか見た目が妙にスライムっぽくないなぁって思ったわ。あ、もうそうだった。
「ミ、ミリアスさぁん! ……っ!?」
おれの名前を呼んだ後の言葉がおかしくて気になった。
「ん? どうした!? 何か変になったか!?」
ちょうど余所見していたのか現場を目撃できなかったのは痛恨だった。
「あ、いえ……その……」
な、なんだ? その、様子がおかしいぞ? 迷ってるみたいな。歯切れが悪いというか。どういうことだ?
「い、命に関わるような問題か?」
「へ? え? あ、あぁ、そうです、まぁ少しですが」
どうしよう?
なに?
どうしよう?
え?
待って。
命に関わることなの?
ちょっと冗談半分だったのに。
はい。
アウトォ~!!
「……エル」
「え? あ、はい?」
「……その、本当に申し訳ない。あの、その、死の危険があるとは思ってなかったんです」
「ん?」
「この責任は俺がキチンとする。だから、些細な事でも、困ったら言ってくれ」
「んん? ありがとうございます?」
ふう、言えた。でもなんだろう。エルの様子が変なままだな。まだ、怒ってるのか? なんだ? 何をしろって言うんだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エルです。
ミリアスさんに魔法をかけてもらいました。魔力も体力も回復して、実はステータスも上昇していました。ミリアスさんに声を掛ける前に魔力切れの確認でプレートを見たばっかりでしたので間違いはありません。ステータスが全体的にあがってました!! さらに嬉しいことに能力も何故か習得していたようです。私が来ているこのTシャツとショートパンツがその証拠です。なんとお洋服が作れるようになってしまったのです!!
そうして、すごく幸せな気分で過ごしていた私ですが、実は今、とっても大変な事態に陥っています。私、いま、猛烈にムズムズしています。生まれて初めての感覚です。これは何ですか? お腹の下あたりがとても、とってもムズムズしています。力んだらいけないような気がするんですが、そうしないと歩くこともできないかもしれません。
「エル?」
「ひゃい!?」
「大丈夫? 顔色悪いよ?」
「そうですか?」
なんとなく、このことはミリアスさんには秘密にしていたいような気がします。でも説明すれば解決してくれそうな気もします。どうしよう。言ったほうが良い? 言わないほうがいい? あぁ、どうしよう!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エルの様態が悪い。顔色も良くないし。さっきから一歩も動いていない。
これはもしかして、もしかすると。本当に命の危機に貧している!?
どうすりゃいい?
「顔色悪いよ? 大丈夫?」
「そうですか?」
えぇ、気づいてない!? 自分がどれだけひどい顔してるのか分かってないのか!! 何か時間が過ぎれば過ぎる程、顔色が悪くなってる気がする。何かを迷っているのか?
「悩みがあるの?」
「え、あの、その」
「俺なら聞いてあげるよ?」
「うぅ、ミリアスさぁん」
「どうしたの言ってごらん」
彼女は全てを話してくれた。
「うーん?」
だが、いまいちピンと来なかった。
今まで感じたことがないほどお腹が痒いってことだろう?
「お腹、見せてもらってもいい?」
「う、うん」
Tシャツをまくりあげてお腹を見てみるけど、なんともない。通常の状態だと思う。[治療]も使ってみた。特に何も起こらなかった。
「どういうことだろう?」
「ミリアスさぁん……」
「ん? どした?」
「もう、だめ」
「え!? だ、だめってどういうこと!?」
「もう耐えられないよぉ」
「へ? 耐える?」
「無リィ!!」
耐える、お腹のムズムズ、魔物が特に液体系魔物がしないこと。あ……
「なぁ、エル」
「ん?」
「股のところムズムズする?」
「………………す、するぅかもぉ」
あ、うん、これあれだ。
あれだあれ。
トイレだな。
俺の性だわ。
ってえええ待て待て待て待て待て。
さっき耐えられないって!?
それってもう出るってこと!?
いや、流石にここじゃまずいだろ!!
どこか、どこかいい場所を!?
「エ、エル、よく聞け。落ち着いて。深呼吸してちゃんと聞くんだ」
「う、うん」
「エルがいま感じているのは尿意だ」
「尿意?」
「あぁ、体内の不純物を吐き出す行為といえばある程度だたしい」
「成程」
「解決法はその不純物だしきってしまうことだ」
「おぉ、じゃあさっそく、やり方を」
「トイレという場所で排出するんだ」
「場所が決められてるの……?」
「冒険者の場合は草むらの中ですることもある」
「た、大変なんだねっう!?」
ミリアスは大きな選択ミスをした。解決策を教える前に症状の説明をしていたのだ。その間彼女の時は止まっているわけではない。ドンドンかおいろが悪くなっていた。我慢のしすぎである。そして……
「あ……」
「ふぁ、はぁぁん、あっ、ひゃぁ、あぁっ! ふにゅぅぅ」
俺は咄嗟にエルの周囲を地の魔術で囲った。誰からも見えないように自分が襲ってしまわないように。
ちなみにミリアスがやったことはひどいものであった。[交換]を駆使して
このステータスを
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【ステータス】
エルリアン=グリアモール 魔物 17歳 Lv86
・体力:950
・筋力:1200
・魔力:1720
・耐性:850
・敏捷:1300
【スキル】
[種族能力:状態変異]
[双剣術Ⅴ][体術Ⅳ][槍術Ⅲ][弓術Ⅴ]
[魔法適正:水][空間把握Ⅴ][一隻眼Ⅲ]
[身体強化Ⅳ]
【称号】
『人愛者』『魔物』
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【ステータス】
エルリアン=グリアモール NEW万能水人種 17歳 Lv86
・体力:NEW1950
・筋力:NEW3200
・魔力:NEW2720
・耐性:NEW1850
・敏捷:NEW2300
【スキル】
[種族能力:状態変異]
[双剣術Ⅴ][体術Ⅳ][槍術Ⅲ][弓術Ⅴ]
[魔法適正:水][空間把握Ⅴ][一隻眼Ⅲ]
[身体強化Ⅳ]NEW[消化]NEW[吸収]NEW[生成]
NEW[消化速度Ⅹ]NEW[吸収速度Ⅹ]NEW[擬態]
【称号】
『人愛者』NEW『創作物』NEW『創作者』NEW『万能水』
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こうした。[交換]の能力をフル活用し。彼女を強化してみせた。
ただし。彼は現在。その能力の《反動》で全てのステータスが5%にまで下がっている。それでも400近くはあるので、ステータス的には問題ない上、今もなおレベルがあがっているのだった……
※[交換]自分への場合の反動
時間制限、時間後:ステ減、スキル使用不可(特殊系は除く:固有とか独自とか)
※[交換]他者への場合の反動
ステ減、スキル使用不可(特殊系は除く:固有とか独自とか)
どちらの場合も反動を受けるのは自身のみ