23 覚悟
ちょっと風邪をひきました。明日には治します、気合で。あぁ、仕事やすみてぇ。
ギルドから家に戻ろうとしたが、ふと、疑問に思ったことがある。
「ウナ、そういえば、部屋って余ってたっけ?」
「……無い」
「ミリアスさん? なんなら私たち宿をとりますが?」
「いや、流石にそれは」
「大丈夫、孤児院のみんな優しい」
ん? 孤児院? まぁ、そうかなのかなとは思ってたけどそうだったのか、ベルさんは娘のように接してるってことだろう。
「まぁ、なんとかなるだろ」
「そんな適当な……」
実際、チェリさんはともかく、ベルさんは大丈夫だろう。なんだかんだ言ってあの爺さんも面倒見がいいからな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……というわけでして」
この家をでてからの経緯を報告した。すると、チェリは案の定というか、少し呆れながらも、これからのことを考えてくれた。
「……そうなの、それは、大変だったわね、二人共、部屋のことは気にしないで、って言いたいところだけど生憎部屋が一つも空いてないのよ」
「そうですよねぇ」
「なら……やはり、宿を」
「でもね! 二人が相部屋でよかったら、ミリアスくんの部屋をどうかな? 二人がいる間、ミリアスくんには私の部屋で寝てもらうことにすればいいよ!」
なんと、仮にも同年代の女の子と同じ部屋で過ごすような流れになっている。
「そ、それでいいんですか? お二人は?」
「わたしは構わない、ミリアスくんは?」
「まぁ、チェリがいいなら、俺も大丈夫」
俺も、別に問題はないし、チェリがそれでいいと言うならなんら問題ないだろう
「じゃあ、そういうことで決まりね! ミリアスくん、私物とかあったらまとめておいて」
「はい」
話がまとまり、一旦解散になるかと思われたが、ここで待ったの声が上がった。
「意義あり!」
ウナだ。意義ありとかどこの弁護士だよ
「ミリアスは私の部屋で預かる」
「なっ!?」
どうやら、俺がチェリの部屋で寝泊りするのに不満があるようだ。
「いいえ、ウナは寝相が悪いでしょ! 私の部屋で寝てもらうわ! もちろん私物も預かるわ!」
「私がミリアスの貞操を守る!!」
「わ、わわ、私は、守れな……はっ、私が守るわ! あらゆる手段を使ってね!」
なにやら、不穏な雰囲気になっているのだが、どうしろというのだ。
とか考えていると人外ふたりの方から提案があった……
「私たち、別に睡眠が必要ってわけじゃないんですけど……わたしはミリアスさんと同じ部屋でも構いませんよ? それにわたしはミリアスさんと契約した身ですし、精霊なので姿は変えられますから、できれば傍に居たいのですが?」
「わたしは桶があればそこに貯まりますよ?」
「「「そうなの?」」」
一気にことが解決にまとまってきた気がする。それでもまだ、納得いかないのかチェリさんは反論してくる。
「で、ですが、わたしは反対です! 御二人は女性ですし」
「あなたも女ではないですか……」
「そ、それは……ウ、ウナも反対よね!?」
「わたしは別に」
「なぁっ!? なぜです!?」
「チェリが居ないから」
「わたしは不審者かなにかですか!?」
「……変質者?」
チェリさんは負けた、最初から勝ち目などない戦いに挑んでボロボロにされた。
それにしてもウナはどうして俺にチェリさんを近づけたくないんだろうか?
〔それはチェリさんが……いえ、本人の名誉の為に言わないでおきましょう〕
〔え……なにそれすごい気になる〕
〔いつかミリィにもわかる日が来ると思いますよ〕
ま、それなら、今聞く必要もないか、ニティのことだから、危険なことだったら教えてくれるだろうしな。今は気にしないでおこう。
「えっと、ふたりのことは放っておいて、部屋に行くか」
「い、いいんですか?」
「これ、大変なことになりません?」
「いいの、いつものことだから、二人がわけわからないことで喧嘩するのは」
「「……わけのわからないことって(鈍感か!!)」」
ふたりの中で、ミリアスは鈍感系だと認識されることとなった。もちろんニティも同意見である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕飯になって、ふたりのことを皆に紹介を済ませた。
するとベルさんに風呂をでたら来るようにと言われた。
「どうすっかな~?」
正直、まだ何も決まっていない。この三日間この街で過ごしたが、この街はいいところだ。街の名前すら知らないが。
〔辺境の街ソールです〕
そうか、ソールって言う街だったのね。ってそうじゃなくて!
〔どうすればいいと思う?〕
〔さぁ、わたしはミリィじゃないのでわかりませんよ〕
〔ですよね~〕
〔ですが、わたしとしては彼について行く必要はないんじゃないかと思います〕
〔というと?〕
〔明日のこともありますし、気持ちの面でもどうかと〕
〔そっか〕
そうだよな。ついて行くとなると明日のクエストには参加できないんだよな。あれ? まてよ? すると、必然的にレアリもいけなくなるんじゃないか? ってなると大問題だよな? あぁ、そうだよな。そうだ、俺はベルさんにはついていけないわけだ。
いや、よそう、そんなわけ無いじゃないか。手段はいくらでもあるだろう。俺たちがいなくても、なんとかなるはずだ。最悪レアリをおいていけばいいんだからな。
「はぁ、結局行きたくないんだろう、な…………よし」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
風呂を出て、すぐに、俺はベルさんの部屋に向かった。もちろん、返事をするためだ。
扉の前で軽くノックし、名前を告げる。
「ベルさん、ミリアスです」
「おう、入れ」
返事が聞こえてから扉を開けると、机に向かっているベルさんの姿が確認できた
「で? どうすることにした?」
部屋の中ほどまで進み、ソファーの後ろに来たところで声がかけられた。
「俺は今回の遠征にはついて行きません」
はっきり言った。正直個人としてはついて行き俺の家の現状を正確に把握する必要があるだろうとは思う。でも、俺はあの家には何も残っていないと思う。遺体の件もそうだったけど、今の俺が行ったところで、悲しみを抱え込んでしまうだけだ。ちゃんと向き合う準備が出来てから、皆に会いに行きたいと思う。その趣旨をベルさんに伝えた。
「ミリアス、おめぇの考えはわかった、この際じゃからはっきり言おう…………あめぇんだよ!」
「っ!?」
「なんの覚悟もなしに家に戻ることもできねぇで? この街に残ろうってんだろ? それはただの現実逃避じゃろうが!!」
「……」
「……じゃが、おめぇもまだまだ餓鬼だ。身体は成長しても十年も昏睡状態じゃったんじゃ……少し話してやろう」
わしがお前を初めて見たのは十年前じゃ、街の巡回に出ておったワシは珍しく孫のチェリを連れてきておった、そのときはまだ孤児院には誰もおらんでな一人は寂しかろうと連れてきておった。じゃが、チェリはわしが目を話した隙に森で迷子になってしまったんじゃ。その迷子になっている間にチェリはお前さんを見つけ、その後すぐにわしらはお前たちを見つけた。お前は既に眠っておったのじゃが、ワシはチェリを抱え距離を取った。寝ている此奴をおこして、暴れられては問題なのでな、幸い、お前はずっと寝ており、全く起きる気配はなかった。じゃから、一旦、わしの家に連れ帰ることにしたんじゃ。ベッドに寝かせよく見てみるとどうじゃ? お前の身体はボロボロじゃったぞ? そのときはこの子は何故こんなにも傷をおっているか不思議でならんかった。お前がいつ起きるかわからない状態で、ワシは一週間寝ずの看病をした。医者に傷を直させ、治癒の魔術者を呼びつけたこともあった。じゃが、誰もこの症状についてわかるものはおらんかった。
「じゃから、ワシは面倒くさくなって後の世話は全部チェリに任せることにしたんじゃ」
おい、このジジイ肝心なところで手を抜いたのか? 後で、チェリには礼をしないといけないな。
「ま、それで、じゃが、その十年間の間にあの事件をしり、エグノス家跡地へと赴いたわけじゃが」
「なにもわからないってことがわかったわけですね」
「そうじゃな、っと話がずれたな……つまり、わしが言いたいのは……ここに残るんなら、エグノスの名を捨てろってことだ」
「っ!?」
「どうする?」
「お、俺は……」
俺は空綺麗 櫓実だ、今更家名をすてろと言われたところでなんともないはずだ。捨てれるものだろう? なのになんで? なんで、こんなに辛いんだ? いや、そうか、そうだよな、家名を捨てるってことは、ロディ、アウラ、二人と家族じゃなくなるってことだもんな、そう、そうだよな。この世界では二人が両親なんだ。俺にとっては育ての親ってイメージが強いけど、確かな家族だったんだよな。
「はぁ、やっぱり……む」
「分かり、ました……」
「っ!? お前ぇ何言ってんのかわかってんのかぁ!?」
「わかってますよ! でも、元々、俺には家名を名乗る資格すらないんです……家族を捨てる覚悟もなしに今を幸せにすることは不誠実だとおもうんです!」
気が付くと頬には涙が溢れていた。上手く前が見えないな。足もすんごく震えてる。それでもこれだけは言わなきゃならないよな。
「俺は! ミリアスは! 幸せになりたい! 何をしてでも、幸せでありたい! それが俺ができる唯一の恩返しだから! 胸を張って二人に会いたいから……」
「っ!? よくいった! ミリアス! お前はもう餓鬼じゃねぇ! 男だ! 家族を何よりも大切に思っている男だ! 好きなように生きろ! 好きなように前を向け!」
「は、はい!」
俺は決めた。この世界で幸せになる。どんな困難も乗り越えてみせる。俺はミリアス。ただのミリアスだ。空綺麗でもない、エグノスでもない、ミリアスだ。この世界で俺は生まれ変わる。
風邪のせい? 二人がキャラ崩壊してる気がする……