22 ギルドの重荷
なんとか書き終えました、少し短いですが、どうぞ楽しんでいってください。
ギルドの正面玄関の前に降り立つとなにやら周りには数人の警備兵がいた。
「き、君たち! どこからやってきたんだ!!」
「どこって……空ですけど、そんなことより、ギルドに報告が」
「そ、そんなことって……いや、ダメだ! 得体のしれないものをギルド内に入れるわけには…………」
警戒しているのはいいことではあるが、説明も面倒だし、どうしたものかと考えていると警備兵の兄さんの目が、隣にいたウナを見て、急に固まった。
「どうも」
普通に返事をするウナ。どうやら知り合いのようだ。まぁ、そうだよな、いつもギルドに顔みせてるんだから。
「ウ、ウナさん? これはどういう? ……」
「知り合い、害はない」
「は、はぁ、そうですか」
まだ、疑ってはいるが信用のある人物にそう言われては信じざるを得ないのだろう。少し渋りながらも警戒を解いてくれた。
「さて、取り敢えず、ラミアさんでいいのか?」
「大丈夫」
彼女、平の受付嬢なんだよな? このギルドの中では相当に権力を持っているようなのだが、このギルド大丈夫なのか?
「あ! ミリアスさん!」
受付にはいつも通りラミアさんがいた。俺たちがギルドに入るとすぐさま気付いてこっちに走ってきた。鬼の形相で、いつも思うのだが、俺たちに向かってくるときの彼女の目が怖いんだよな。なんか怒ってるわけではないっぽいんだけど、すごい怖いんだよな。どうにかしてくれねぇかな。無理か。言えねぇよ。怖くて。
「ウ~ナぁぁあ!! ちょっとこっち来てぇ!!」
ラミアさんは走ってきた勢いのままにウナを捕まえると、そのまま奥の談話室に連れ込んでいった。
「これじゃ話ができないな」
「どうしましょうか?」
「急がないとですよぉ」
残された俺たちは唯一のコネと知識人を失ってしまったわけだ。人里には来ないレアリ、街にすら来ないエル、ギルドに入ったばかりでぼっちな俺。これは詰みか。取り敢えず、ほかの受付嬢に頼むしかないか。
「あの、すいません」
「!! 少々お待ちください!!」
「え、あの……」
どういうこと? 速攻で逃げられた。え、俺、そんなに近寄りたくないタイプ? 少し、気まずくなって、後ろを振り向くと、そこには、どこから仕入れたのか肉を頬張り、こちらに目も向けようとしていないエルと、そっぽを向いて我関せずを体現しているレアリの姿があった。ちくしょー!
「おう! ミリアス? ったっけか! 昨日ぶりだな!」
「これは、ガーディーさん、ちょうどいいところに」
「あん? いいところ? それはそこの嬢ちゃんたちに関係する話か!?」
ん? あぁ、まぁ、そう、勘違いさせておけば逃げることなく話を聞いてくれるだろう。
「別の部屋で話しませんか? ここではちょっと」
「わかった、すぐに用意しよう」
なんかすごいキリっとした表情で受付嬢に話を付けて、部屋を借りてきてくれた。この人、実際、権力も武力も併せ持ったすごい人なんだろうけど、なんだろう、女性陣二人のあの人を見る目が冷たい気がする。
「それで? どうしたんだ?」
「えぇ、その前に一つだけ質問いいですか?」
「おうよ、何だ?」
「この二人、どう思いますか?」
「どう? というのは?」
「そのまんまです」
「なるほど、女っけのない話だってのはわかったぜ、そっちの嬢ちゃん達、人外か?」
正解だ。
「いえ、残念ながら、人ですよ」
「ほう?」
「えぇ、彼女たちには色々助けてもらいました」
「ま、それならいいけどよ」
まさか、本当に気付いているとは思わなかった。いや、確かに、この人話しかけてくる前にちょっと殺気を出してたんだよね。俺の探知はどんな些細なものでも見逃さないぜ。
〔私のおかげですね〕
こら、ニティ、勝手に読心術をするんじゃないよ。
「では、本題に……」
「あ、あぁ(まじか、今のが本題だと思ってたわ)」
「ガーディーさんはギルドマスターに面識がありますよね?」
「ん? あぁ。ジルの爺さんとは面識どころの話じゃなく、呑み仲間だ」
あんた仮にもギルマスだろ、爺さんて、しかも呑み仲間て、そこまでの関わりが欲しいわけじゃないんだよな。
「でしたら、至急、知性の森に人員の手配をするよう、伝えてください」
「ん? 知性の森? なんでまた、そんなところに、あそこは俺たちでも精霊の加護がなきゃ、迂闊には入れないようなところだぞ?」
「えぇ、ですから、我々がいるのです」
「どういうことだ?」
とりあず、ガーディーさんには全部話すことにした。もちろん二人の正体も、それを極力目立たせたくないことも。ガーディーさんもまさか、魔物と精霊しかも高位だとは思っていなかったのか、とても驚いていた。そして、リザードマン、探検家との遭遇など、諸々の危険性なども話し、この話はジルの爺さんにもちゃんと伝える、と約束してくれた。近いうちにギルドから緊急依頼の届けを出すだろうという話になった。
そんなこんな、で話を終えると、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「ガーディー! 何をしている!! 呑み行くぞ!!」
小さなお爺さんがそこにはいた。だが、俺が注意を惹かれたのは、ガーディー、呼び捨て、呑みの誘い。この三拍子と言って、俺が思いつくのは
「ジルさん!? なんで、ここに!?」
ギルドマスターであるグラン・ジルサンダー、今目の前にいる爺さんただひとりである。
「あぁ!? いつもの店言ったらおめぇ、いなかったんじゃろうが!! ん? 何だ取り込み中じゃったんか、そうならそう言っといてくれれば良かったんじゃが、すまんの兄ちゃん、こいつ借りてくぞ!」
「お、おい、ジルさん!」
「あぁん? 何だ?」
「マスター、緊急だ。ギュノースの沼地からリザードマンの群れが侵攻してきている。現状、既に知性の森の深層の魔物がちらほら浅いとこまで出てきてる」
「小僧の知らせか、確実か?」
ガーディーがしっかり仕事モードになったに釣られ、マスターの方もさっきまでの酒呑み老人から凛々しいギルドマスターへと雰囲気を変えた。真剣みがまして、一言一言が重く感じられる。だが、顔には出さない。礼儀としてな。
「えぇ、この目で。ジェネラルも一体討伐しました」
「なっ」
「ふむ、わかった」
そう言うと徐ろに部屋を抜け出して、ギルド全体に聞こえるような声量で叫んだ。
「緊急クエストじゃ!! Cランク以上の者で集まれる奴ら全員明後日の朝ここに集合じゃ! 詳しい内容は追って連絡する! あと、Sランクは強制じゃ!」
そう言い終えて、そのまま、ギルドマスターの執務室へと行ってしまった。執務室のドアが閉まると突然、地響きがした。地響きの原因はギルド内にいる奴らが上げていた雄叫びだった。その雄叫びは街全体を包み込み、ギルド前の大通りは冒険者たちでお祭り騒ぎのようになっていた。あの肉屋もきっと儲かったことだろう。
そして、忘れている頃になってようやく。
「ミリアスさん、用事ってなんですか?」
受付嬢のラミアさんが襤褸雑巾みたいになったウナを連れて戻ってきた。
「あぁ、もう用事は済んだので大丈夫ですよ……それより、ウナ大丈夫か?」
「ミリアスのせい、今日はいつもより激しいのを要請する」
「お、おぉう、何があったかはわからんがすまん、あと、その言い方紛らわしい」
鬼気迫る、ウナの様子に取り敢えず、ツッコミを入れるが、ふと顔を上げると、壁を殴りつけているラミアさんの姿が見えた。もちろん、すぐさま顔を空したよ。あのラミアさんの顔はもはや鬼、鬼そのものだった。
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そして、次の日、ギルドの掲示板に張り出されたクエストの内容にその場にいたもの全員が息を飲んだ。
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緊急クエスト
『ギュノースの沼地の鎮圧』
期間:不明
報酬:ランク上げ
条件:Cランク冒険者以上、Sランクは強制
ギルマスコメント:
おめぇら、死にたくなけりゃぁ辞退しな
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その日の、大通りは昨日の喧騒が嘘かのようにとても静かだった。店の人たちの証言によると、通った冒険者の顔は皆同じ顔であったという。