表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
2/57

2 神様の思惑

 神様ことアリスたんは説明という名の現状報告をしてくれた。大部分は愚痴であったのは秘密にしようと思うが、説明をまとめると


 ・俺は今まで居た世界とは別の世界へ転移する。

 ・転移先は剣と魔法のファンタジー世界である。

 ・こちらとはシステムが違うのであちらの世界で生きていけるように最低限の援助を与える。


 他にも色々聞かされたがザックリとはこんな感じだ。正直言ってとても胡散臭い話ではあるのだが、大分気持ちの整理は付いた。

 そこの説明を聞いて驚いたのが、その援助で能力(スキル)とやらの一つを自分で決めて良いとのことだった。スキルの説明を受けた時は、所為、オタクと呼ばれる人種の俺がそういったゲーム的なものにも疎いわけはなく、とても興奮してしまった。

 だから、今、俺は自分がなるべく有利になるべく、いい案がないか模索しているところだった。


「ねぇねぇ」

「ん? なんだ? ……ヨ?」

「ジャーン」

「…………め」

「ん? ……め?」

「…………女神か」


 そこに立っていたのはまさに女神で天使であった。さっきまで、浮いてたローマ風神様が突然のお着替えで現代風の服装に変わり自分に話しかけてきたのだ、咄嗟に顔を逸らしてしまった。


「へ? …………いやいやいやいや、今更!?」

「いや、可愛すぎるだろ!!」

「はぁ!? 照れないでよ! そんな照れられるとこっちまで恥ずかしくなるじゃんかよ!! ヤメレー!! このっこのっ!」

「いっ! いたい、いたい! 蹴るな! バカ!」


 と言って蹴られてる現状から逃げながらも、少し頭を整理できた。

 おそらく、俺は今、人生の選択を迫られているんだ。このスキルが有能かどうかで今後にも大きな影響を与えることだろう。そうなってくるとやはり悩まずにはいられない。だが、結局、俺の知識じゃいい案は出てこなかった。


「なぁ、一つ頼みがあるんだが……」

「ん? ……なんだい? あ、スリーサイズ? そんなのは教えないよ!?」

「いや、そうじゃなくて……その、なんていうかさ」

「ん? なんだい? 遠慮せずに言ってみな! ボクとキミの仲じゃないか!」

「いや、どんな仲だよ、はぁ、ならさ……スキルはそっちが決めてくれて構わないから、優位な情報を教えてくれないか?」

「…………というと?」

「うっ」


 これだ、この圧倒的威圧感だ。そこに、初めて姿を見せた時のような気軽さなく、まるで蛇に睨まれたと錯覚するようなこの圧力。おそらくこれが、彼女を一番神様たらしめている要素だろう。だがしかし、この時、この状態を待っていたのだ。こうなりゃ、こっちのテリトリーだ。ネットの交渉術じゃ逃がさねぇぜ?

 まず手始めに……


 その後、彼女との交渉は問題なく進んだ。

 そして……


「じゃあ、他には何も無いかな?」

「あぁ、できる限りの最良の選択をとった自信はあるよ」

「ふふ、そうだろうね、正直、ボクも、ここまで言い負かされるとは思ってなかったよ」

「そりゃあ、良かった」

「はいはい、んじゃ、これで、キミは飛ばされるけど、心の準備はいい?」

「あぁ、問題ない」

「……ふーん」

「なんだよ?」

「……ううん、なんでもないよ。んじゃ、行ってらっしゃい!」

「? ……おうよ! 行ってくるぜ」


「ふぅ………………………………これは期待外れだったかなぁ?」


 そうして俺は少しの浮遊感と共に異世界〈ラルメキア〉に飛ばされた。そして、彼女が最後に呟いた言葉は、彼に届くことは無かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ふと目が覚めると、そこは、、、何も無い真っ白な空間だった。


 もう一度自分の立っている場所を見るも、やはり白い。

 

 そりゃもう一面真っ白。

 

 何も無い。

 

 さっきの空間と一緒だった。


 一瞬、失敗したのか? とも思えたが、すぐに、その考えが間違いであると思い知らされることになった。なぜなら、先程まで居たあの空間にはアリスたんこと、神アリス様がいたからだ。だかここに彼女の姿は見えない。実はこの空間は境界的な何かで彼女が席を外しているだけとは考えたが、そもそも境界を司る神である彼女が転移に失敗するなど考えられない。根拠があるわけではないけどね。それならここは別空間だということになる。そして、この空間があの境界の部屋に似ていることから。この空間を作った人物は彼女自身かその関係者となる。

 そこでやっと感じたのだが、この空間を見回すと、ここの中心部分に美女が立っていた。アリスのような幼さの残る可憐さと言うよりは、秘書のような優秀感漂う大人な女性がそこに居た。


「汝に女神の加護があらんことを……」

「はぁ、今度は誰だか……」

「ん? …………ふぇ!?」

「いや、急に素っ頓狂になるなよ!!」

「いやいやいや! 貴方誰ですか!? 私の空間に勝手に侵入するなんて!! 信じられません!!」

「いや、侵入も何も、あんたが呼んだんだろ? …………たぶん」

「へ? ……だって、たった今、転生者一人送ったところなのに! こんな仕打ちって!」

「どうしろってんだよ」


 めちゃくちゃ凹んでorzになった女神と思われる人物は未だこの状態で愚痴という名の怨念をつぶやいている。きっとこいつはかなりの苦労人気質なのだろう。なんかそんな属性感放ってるし。目の下にクマがある感じ? いや、ないけどさ……


「きょ、今日の予定は一人のはずですが! こうなっては仕方がありません! 今日は気合いの二人目です!!」

「……そうかい、無理すんなよ」

「くッ、その目! なんだかよくわかりませんが、とても悔しいです! どうやって侵入したか分かりませんがポッキリと行ってもらいますよ!! 形式に則って! ね! ……えぇ……ごほん、私は女神メイア、突然ですが、あなたは前世で死んでこの空間にやってきました。ここは来世を決める場所、私と一緒に良い来世を作りましょう」

「え? ……いやだけど? それになんだよポッキリって」

「ましょう!!!」

「え?」

「いいでしょう、なら今までのあなたを教えてください「嫌です」教えなさい」

「あ~やめて! 暴力反対! ダメ絶対!」


 取り敢えず自己紹介をした。彼女はメイアというらし。正直どうでも……げふんげふん。

 女神ことメイアは淡々と説明をし始めたが。このメイアさん、どうにも何か勘違いしてるみたいで。まず、俺、死んでないし、そもそも、アリスとのことにも気づいてなさそうだし。現に今、目の前でさっき受けた説明と同じような内容が繰り広げられている。但しアリスのような愚痴説明ではなくて、キッチリカッチリ、細かく丁寧にというのが伝わってくる、ちゃんとした説明ではあった。その中でアリスの説明では理解しきれていなかったと思われる事が一つだけあったのだが。それが………………


 ・転移した者が元の世界に戻ることは不可能。


 ということだ。

 何故、不可能であるのか、と質問すると


「それは……今のあなたでは理解することは出来ないと思います。この世界に行かないと、ね?」


 少し、悲しそうな顔をして、そう言ってきた。若干バツイチ感を感じたのは俺だけではないはず。


「何か?」


 勘のいい奴らばっかだな。

 まぁ、なんだ、つまり、異世界にいけばその理由も分かると言われてしまった。こう言われるとコチラとしては何も言い返すことが出来ない。そしてその際に、俺はふと、気付いてしまった。アリスの加護でスキル得たのだから、メイアの加護とかでもスキルを得られるとのでは? ということに。

 その後はメイアにアリスとのことがバレないようにしつつ、スキルは相談して決めることになった。その時にさっきの、前世で覚えてること、を教えて欲しいと言われたので、ありのままの自分を教えてやった。オタクで、やる気のない人物だったと少しドラマチックに改変して。そしたら………………


「………………う、う~そ、そんなの、そんなのダメですぅ! 来世では人間的に成長できるようなスキルにしましょぉ~!!」

「……へ?」


 少しやりすぎたようだ。少し涙目になりながらも、残念なことにやる気になってしまったようだ。目が燃えてて見られてるこちらが暑く感じるくらいだ。冷や汗が止まらないぜ! などと悠長にしてると向こうでどんどん話が進んでいってしまっていた。


「フムフム……あ! ちょうどいいスキルがありましたよ! これがいいですね! これにしましょう! イマイチどんなスキルなのかわかりませんが問題ないでしょう。これにします!!」

「は? 決目たのか!? おい! 相談するんじゃなかったのかよ!?」

「ええい、こうなれば後はめんどくさい魂の移動だけです!! さっさと済ませましょう!」

「って、おい! 聞けよ!? ……えっ? いや押すな押すな! 俺まだスキル名すら聞いてないぞ!? しかもちょっと重要そうなこと言っt」

「いいんです、いいんです! 名前なんて加護で見れますよ!! 大丈夫ですよ!! 心配なっしんぐですよ!!」

「軽っ!? そんなんでいいの!? 女神様いいのかよ!?」

「という訳でさいなら〜! あ、女神の加護を〜」

「ちょ、さっきの略しただろ!? え、ちょ。こ、この、この駄女神がぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 そうして、俺は、思った以上に熱くなった駄女神によって、またもや浮遊感に見舞われながら、この何も無い空間から半強制的に追い出された。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 起きた。


 暗かった。


 何も見えない。


 否、見えているのだが一面真っ黒だった。


 そう、俺はまた、飛べなかったのだ。


 もう三回目だ、もう何があってもおかしくない。いきなり魔王の目の前だったとしても大丈夫だ。なんせ俺はもう諦めたからな。俺だってアリスの時は、とりあえず人が近くにいるところに飛べたらいいなぁとか思っていたさ! しかし現実はどうだ! 駄女神一人しかいなかったじゃないか! もうヤダ! おうち帰る! と滅入っていると突然後ろから声をかけられた。



「ん? 貴様、妾の空間に直接飛んできおったな? しかも大分女神の臭いが強いのぉ? 妾は人族を召喚するつもりだったのだが? 女神か? 男であるのに? 何者だ?」

「すいません、俺にもさっぱり」


 と言って振り返ると、そこには金色に縁取られた赤い玉座に座り、黒く染まった長い黒髪を靡かせ、こちらを睨みつけている一人の幼女が居た。その姿はまるでおとぎ話のかぐや姫のようだといえば伝わるのだろう。だがその愛らしい要望とは異なり、彼女から発せられている異様な殺気は凄まじかった。素人でも、あ、これは死んだな、と思える程だ。そんな彼女と少し会話をした。とても緊張した。

 話していてわかったのだが幼女はメイアとは対になる邪神なるものらしい。遥か昔からの仲らしいが、メイアはその邪神幼女、レイと言うらしい、の事を気嫌いしているらしく、会う度に戦争になって面倒くさい関係だとのことだ。


「なら、戦争しなければいいのでは?」

「貴様、舐めておるのか? 何故、妾が引かねばなるまい? あの駄女神が吹っ掛けてこなきゃよいのだろう!」


 全くその通りでございますねぇ。返す言葉もなかったよ。二人の残念さには。


「む? 何か失礼な事を考えておったな? かッ! 最近の若者は女々しいのぉ」


 こっちも、二回も飛ばされて、イライラしてるっつーの! 言葉には出さないけど……

 さて、そんなこんなで仲(?)を詰めることに成功した俺は彼女に気に入られたのか、あるスキルを授けられた。その能力がまた訳の分からないチート性能だったのだが、これまでのことから考えると。その報酬はとても有難かった。とても貴重そうなスキルをだったのが、レイは軽々しく上げてよかったのだろうか? と思ったのだが……


「あぁ、それは元々お前さんのものじゃしな、問題ないじゃろ」

「は? ……俺のもの?」

「あぁ、それはな……うん、ええい! ややこしい!! 説明も面倒じゃしな、かくしかじゃ」

「それで通じるとでも?」

「伝わったな! 妾には伝わったということが十分伝わった!! 伝わればよし、なのじゃ!!」

「はぁ、じゃあまぁ、いいですよ、そうして隠すほどの理由があるんでしょうから」


 その後はジト目になりながら話をしていたのだが途中で思い出したのか、駄女神の代わりに謝罪と詫びを入れてくれた。

 その姿から想像するに、言っているほどメイアとの仲は悪い訳では無いようだと思ったよ。侘びのついでとして、異世界に送ってくれるらしい。ホントに致せり尽せりであった。メイアとは大違いの待遇だ。


 そんな思考と共に俺の身体は今度こそ、三回目の浮遊感と共に飛ばされるのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 何も無い真っ白な空間に飛んでいった櫓実の方を見送る三つの影があった。


「行ったかな?」

「行ったの」

「行ったでしょう」


 三人は口々に櫓実のことを考える。しかし、考えることは同じようで……


「はぁ、にしても奴はイレギュラーすぎだったのであはないかの? メーさんや」


 そういうのはさっきまで櫓実と一緒にいたレイだ。


「え? なんです? そのメーさんって、ちょっと本気で鳥肌立つからやめてくれません? ゴキ神風情が」


 それに答えまするは我らが駄女神メイアさんだ。一言目から吹っかけてまいりました。


「あぁ? そっちこそ喧嘩売っとんのか?? この駄女神様よ?」

「はぁ? この私とやり合おうってんですか??」

「ふッ……上等じゃ、ちょうどいいのぉ? ……どれ、少し駄女神を調教してやるかの?」


 その後もそんなやりとりを続ける二人を見て、アリスの微笑みが急速に冷えていく。


「はぁ…………二人共? こっちの仕事も滞ってるんだから喧嘩は後にしてくれないかな?」

「い、いや、これはちなうんですよ! アーちゃん! このゴキがキモイこと言うから!」

「あぁ? なんじゃって? 女子力ゼロ神が」

「はぁ? なんですって?」

「ふ・た・り・と・も?」

「「あッ」」


 その後二人は絶対零度の笑みを浮かべる阿修羅に睨まれながら自分の仕事に集中するのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ