18 精霊と意思
「よし、取り敢えず、今日の持ち物はこれぐらいかな」
すると、ドアの前で待っていたのかウナが声をかけてきた。
「ミリアス? まだ?」
「もうすぐ、行く」
「さき下行ってる」
「はいよ」
そう言うと、ウナは階段を下りていったしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は涼妹、今はウナと名乗っている。私は冒険者だ。
私が始めてこの街にやってきた時、ギルドを紹介され、即座に入った。その後は徐々に戦闘を覚えて、一端の冒険者に登りつめた。
そんなある日、私がお世話になっている家の主である、ベルさんがある男の子を拾ってきた。最初は私も驚いたけど、私も拾われた身だから特に反論はなかった。だけど、娘であるチェリは怒っていた。それはもうカンカンに。しかも、何を勘違いしたのか「おじいちゃん! その子に何をしたの!!」と責め立てていた。
まぁ、それで、一応念の為に[鑑定]で見てみると……
>[鑑定]を妨害されました。
私の能力が妨害されたの。
「どうして?」
「ん? ウナどうかしたかの?」
つい、言葉にしてしまったのをベルさんは耳ざとく聞いてきた。
「その子」
「こいつか? 何じゃ?」
「不思議」
「そうかの?」
そうでしょうとも、私は自分が転移者であることを話していなければ、鑑定を持っていることも教えていない。いつか、いつかと思っているうちに言う機会を逃してしまったのだ、まぁ、それなのに能力妨害のことなんて言えるわけなく、誤魔化すしかなかった。それに、妨害のことについては起きてから本人に問い詰めればいいと思ったから。
そんな風に思っていたのだが、彼は思っていた以上にお寝坊さんだったようだ。十年以上も眠っているなんて思ってもいなかった。
お医者さんに見せても「身体に傷は見当たらない、傷は治っている」と診断されるばかりで、何の役にも立たない。
それどころか名前すら知ることができない。これはどういうことなのだろうか?
「チェリ、ナイフ、欲しい」
「へ? ウナ、料理するの?」
「うん、料理、する」
「……」
「……?」
「ウナ?」
「!?」
「彼、生きてるからね?」
ちょ、ちょ、ちょっと普通にバレてるんですけどぉぉ!? 私のやろうとしてことバレてるぅ!! しかも、目! 目!! この目は一体何!? いつも温厚で半開きで緩ぅい感じを漂わせているあの目が!! 今は!! 私を見ていないのかのような冷たい目をしているよ!? 彼に何かしたら殺すよ? って割と本気で思ってるでしょ!! 怖い怖い怖い怖い怖い
「…………わかった?」
「はい…………」
「ナイフは?」
「……(ブルブル」
次の日、私はやっぱり隣の部屋が気になって覗いてみることにした。
ベランダを伝って彼の部屋を覗くと…………
「フフフ、体調はどうですか? ……それは良かったです? いえいえ私は何もしてませんよぉ」
チェリがいた。
なんと、寝ている彼と会話してたのです。
私はいてもいられずそっと自室へ戻りました。だって、チェリが少し、っていうか、かなり怖いんですもん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ミリアス、早く」
「わかってるって」
今日は冒険者になって初めてのクエストを受けようと思っているのだ。と言ってもクエストは薬草採取という、初歩中の初歩である、簡単なものであり、クエストの手続きを覚えるためのチュートリアルクエストのようなものだ。
ギルドへ着くともう既に人で溢れかえっていた。酒を呑み既に出来上がっているものもいた、あの人たちはきっとこの前体験した、朝の軍勢の残りだと思う。何人か見覚えのある人がいた。
ウナはそんな人からの挨拶もさらっと受け流し、そそくさと掲示板へと歩いて行った。俺もちゃんと挨拶はして、ウナの後をついて行く。
掲示板の前まで着くとすぐにウナが口を開いた。
「…………草クエ無い」
ウナはそう呟いた。言われて掲示板を見てみると、確かにそれらしき物は見つけられなかった。あるのはFランクの討伐依頼だったり、Eランクの討伐依頼など、討伐依頼ばかりであった。
「あるのは討伐依頼ばっかだな」
「もっと早く来るべきだった」
「はい、準備遅くて、すいません」
「どうする?」
と言われても、イマイチどれが何なのかがわからないからな、無難に行けばFランクのコボルト討伐とかなんだろうが。俺には一つ気になるやつがあった。
「なぁ、自分のランク以上の討伐依頼って受けれるのか?」
「? ……一つ上までなら」
「そうか、なら、Eランク討伐のゴブリン討伐が少し気になっているんだが」
「…………ん」
「ダメか?」
「……大丈夫」
「おぉ、ならこれ受けたい!」
「わかった。紙持ってきて」
「おうよ」
俺はさっさと掲示板からEランク〈ゴブリン討伐〉の依頼書をとって、ウナの後に続いてクエストカウンターに向かった。
「あっ、おはようございます! ミリアスさん! 初クエですか?」
「おはようございます、ラミアさん。そうですね、ゴブリン討伐をお願いします」
「おや、Eランクですか、熱心ですねぇ。まぁ、仮にもウナちゃんがいますし、平気でしょうがお気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
「ウナに任せなさい」
「はいはい、頼りにしてるよ」
討伐対象であるゴブリンはこの街の南門出て、東へ行ったところにある森に生息しているらしい。
その森は知性の森と呼ばれていて、理由は知られていないが、森に害を成すものに幻術をかける特性がある。それでもこの森でしか存在を確認してことが無い植物などを狙って盗賊などが忍び込むこともあるらしい。ただし、その特性も絶対ではなく、精霊に愛されているものは精霊の加護を受けることによって、その幻術の施しを受けないそうだ。ただ、そうでない者でも精霊と仮契約を結べば、加護を受けることが出来るらしい。代わりに魔力を与える契約ではあるが。それでもメリットは十分だろうと思う。
そんな知性の森についたのだが……
「わ~ウナだ~」
「久しぶりだね~」
「今日は何しに来たの~?」
「草取り~?」
「討伐~?」
「それとも遊んでくれるの~?」
「「「「「遊んでくれるの!?」」」」」
ウナの周りに姿が見えなくなるほどの精霊が集まって来た。
精霊は平均背丈が10cmでほのかに発光している、蛍のような存在だった。そして、彼女たちの背中には自身の背丈の二倍ほどはあるかという大きさの羽が付いていた。そんな精霊の中で唯一少し離れていたところから見ていた、白い布のようなものを着た白い髪の精霊が近くにやって来た。
「あなたも見えるのですか?」
「まぁね、とても眩しいよ」
「皆、ウナさんが来てくれたので、興奮してしまっているんですよ」
そう言って彼女の表情は少し寂しそうな顔をしていた。そのせいなのか俺は聞かずにはいられなかった。
「君は行かないのかい?」
「えぇ、私はきっと邪魔をしてしまいますもの」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんです」
よく見てみると彼女だけ他の精霊より光が弱いことに気がついた。そんなことからも彼女にはなにかしら事情があるのだろうと深く追求は出来なかった。
にしても、ウナは長いなぁと思ってそっちを見ると彼女は何やら精霊たちに触れて魔力を流していた。
たしか、前に呼んだ本に、精霊は魔力でできており、精霊にとって魔力とは生命力と等しいと書いてあったなと思い出した。そして精霊にはその魔力を生み出すことができないため、こうして、人からもらうか、生き物から吸い取るしかないのだ。
そして、そういえばこの白い精霊は魔力をもらわないのだろうか? と思ったので聞いてみると。
「えぇ、私と彼女とでは魔力の質が違うんですよ」
「そうなのか?」
そう思ったので、俺は[心眼]で見てみた。
――――――――――――――――――
【ステータス】
ソフィーナ・ファンタジア 高位精霊 201年 Lv250
・体力:4719
・筋力:4108
・魔力:38090
・耐性:1784
・敏捷:7613
【スキル】
[固有能力:魔少女]
[独自魔法:再生]
[魔法適性:魔]
【称号】
『森の守護者』『大量殺害』『完全裁判』
『無慈悲』『大賢者』
――――――――――――――――――
「ソフィーナ……」
「!? 何故その名を!?」
「へ…………?」
「いま、私の名前を呼んだのではないですか?」
「あ、あぁ、そうだけど?」
「その名はどこで知ったのですか?」
「どこと言われましても」
今知ったとは言いにくいのだが、おそらくこの子なら平気だろう。いや、この人? か。
「ソフィーナ・ファンタジア、二百年生きている高位精霊で、レベル二百五十。魔力適性が魔属性で、ユニーク、オリジナル、どちらも保有。他にも称号をいくつか」
「そこまでわかっているのですか……」
「えぇ……何せ、私はそういうスキルを持っていますから」
「……なるほど、あなたも転移者なのですね?」
へぇ、いいことを聞いた。転移者は俺と同じような鑑定能力を持っているということだろう? ということはウナも持っているのか?
〔ミリィが寝ていた。十年間に何回も鑑定スキルをしようしていますね〕
〔そうだったのか……ん? 何回も?〕
〔もちろん、妨害してましたから〕
〔ありがとうございます〕
ただ、ちゃんと間違いは正しておかなければならない。
「私は転移では無いんですけどね」
「ん? どういうことですか?」
「いや、ただ単に、転生した、って違いですよ」
「そ、それは。ありえないですよ! 今まで、そんなの聞いたこともありません!」
そういうものなのか。初耳ではあったな。俺はウナしか同胞を知らないからなんとも言えないのだが、確かに、ウナは種族が変わってしまっているなので、転移でも転生と大差はないのではと思われる。
「まぁ、実際起こってしまっているのだから、運が悪いとしか言いようがないんだよな」
「そ、それはそうですが。でしたら……えっと、貴方」
「ミリアスだよ」
「そうですか、ミリアスさんは何を目的にこの世界で生きているのですか?」
言われてみれば、そうだ。
俺は今何の為に生きているんだ?
俺の身体は既に無くなっているんだ。
この姿で、前の世界に戻ったところで、家族は俺を俺だと認識してくれるのだろうか?
それどころか、仮に戻れる方法すらないのだとしたら?
俺はこの世界で何がしたいんだ?
いや、ある。
一つだけ、そうだ。
俺はこの世界の両親である。
ロディ、アウラ、そしてメリーにもう一度会うという目的がある。
あの後みんなも魔法陣で転移しているはずだが、この世界で俺が住んでいたあの家は既に無い。故に家族みんなはバラバラになっているはずなのだ、だから第一歩として世界を回る必要があると俺は考えている。
あのジズは以上な強さではあったが、俺が与えた一撃で少しは時間を稼げたと思っている。ロディたちなら、その数秒で、みんなを魔法陣で飛ばすことはできただろう。俺は先に起動して、しかも動いてしまったから。こんなところに飛ばされただけであり、きっとみんな無事で今頃は俺のことを探しているに違いない。いや、もしかしたら、もう諦めているかもしれないが、それでも、おれから会いに行けばいいと思っている。……そうだ。俺は家族に会う。父さん、母さん、メリー、婆ちゃん、爺ちゃん。絶対に会いにいくからな。
「ミリアスさん?」
「あ、あぁ、ごめん」
「いえ、答えづらい質問でしたよね、ごめんなさい」
「いや、ありがとう。俺はっきりしたよ」
「…………え?」
「なんでもする。家族に会うためなら」
「そう……ですか」
(なんでしょう。ミリアスさん。少し、まとっている雰囲気が変わった?)
ソフィーナの思考は大体あっていた。ミリアスは、今、様々な感情を抱え込んで、とても不安定な状態にあるのだ。そんな彼のストッパーになっているのが、フィニティアなのだが、彼はそんなことにも気がつかないほどに、思考が鈍っている。そんな彼の状態にフィニティアはかつてないほどの焦りを感じていているのは本人しか知りえない。
>能力[並列意思Ⅱ]が[並列意思Ⅲ]に上がりました。
>能力[禁忌Ⅲ]が[禁忌Ⅳ]に上がりました。
>能力[聖域Ⅲ]が[聖域Ⅳ]に上がりました。
>能力[遮断Ⅶ]が[遮断Ⅷ]に上がりました。
(ククク、フィニティア、オマエハオレノテキカ?)




