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この異世界は優しすぎ!?  作者: 爈嚌祁 恵
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15 新たな生活

 俺は少し気分を落ち着かせてから、爺さんのステータスを確認し、下の階に何があるのかを探知で確認してから意を決して、下の階へと続く階段に足をかけた。

 下の階に降りると、腕を組んで席に座っている爺さんと、料理を作っていたのか、エプロンを抱えた、先ほどの女の子と見たことはないが探知にて存在を確認していた通り四人の子供がいた。


「すいません、お待たせしてしまったみたいですね」

「おぉ、やっと、降りてきおったか」

「このひとだぁれ?」

「チェリねぇのかれし?」

「違うよ! チェリねぇの……なんだろう?」

「…………寝てた人」

「「「それだ!!!」」」


 この家ではすっと寝ていた人で通っているのか。


「はいはい、ご飯にするからみんな椅子に座ってね~!」


 子供たちは元気よく返事をすると一人を除いて、みんなが席に着いた。


「ん? どうかしたかな?」

「……別に」

「ん? アオー? どしたんー?」

「……なんでもない」

「変なアオー?」


 子供らのなかで一番表情が薄く、冷静に状況を判断していた、俺と同じような緑色の髪で黒い目をしたどちらかというと可愛らしい顔立ちの少女はアオというらしい。なんとなくだが、めちゃくちゃ頭が良さそうな気がする。この歳で今も本読んでるし。いや、逆にこれでおばあちゃんな説も? ないか。


「ささ、えっと……キミも! こっち座って!」

「あぁ、うん」


 俺が席に着く頃にはみんなが勝手にご飯を食べ始めていた。

 俺の席の前には、肉じゃがと思われるようなものとよくわからないがきゅうりのような緑色をした漬物っぽいもの、後は、オレンジ色をした冷製スープが置かれていた。


「今日のはこの時期に取れやすい食材で適当に作った出来合いものなのでお口に合うかわかりませんが、遠慮せずどうぞ」


 出来合いのものにしてはとても手間がかけられているように思えた。見ただけでわかるほどなのだから相当なのだろうが、こっちではこれが普通なのだろうか?


「チェリの作った料理じゃ、美味いに決まっておろうが」

「おじいちゃん!」

「あはは、じゃあ、いただきます」


 そう言って俺は取り敢えず、近くにあったフォークを手に取り、肉じゃがの肉ような物とじゃがいものような物を口に放り込んだ。

 すると、じゃがいもの方は口に入れた瞬間、中で溶け出し、肉にまとわりついてタレのようになり、肉を食べ終わる頃には焼肉のような感覚が口の中に残っていた。


「…………うまい」

「はぁ~、良かった、お口に合ったようですね」

「うん、美味しいよ、これはなんていう料理なの?」

「へ? 極一般的なお肉料理だと思いますけど……?」

「あ、えっと、じゃあ、この、食べると溶けるこの食材はなに?」

「それはバンスリリーの肝を煮詰めた物ですね」

「バンスリリー?」

「えぇ、ウサギ型のアレですよ」

「へぇ~」

「…………いいかの?」


 料理の説明を受けている途中で爺さんが痺れを切らしたのか、自分に注意を向けると話をしたそうに声をかけてきた。


「小僧、まずは自己紹介から始めるとしよう。ワシはベル=ビータスじゃ、この家の主じゃ。それでこっちのかわいいのがわしの孫の」

「チェリです。よろしくお願いします」

「んで、おい、チビども、名前言ってけ」

「僕、キヴィ!」

「あたいはクァイ!」

「あ、シアです」

「……アオ」


 上から順にキヴィが赤目赤髪のやんちゃそうで四人の中で一番目に背の高い少年で、次のクァイが同じく赤目で、赤とオレンジ色をした髪の活発そうな少女。それとは反対に大人しそうで青色に紫がまじった髪の黄色い目をした少年がシア。最後のアオはさっき俺を見ていた娘だ。この中ではアオが一番背が低い。次にクァイ、シアといった順だ。男女二対二でバランスが良いなとは思った。これで全員の名前と顔は覚えただろう。特にアオは。


「俺はミリアス、よろしく」

「ん? お前さん、家名は?」

「あぁ、エグノスですよ」

「「っ!?」」

「い、いま、なんと言ったんじゃ?」

「へ? ですからミリアス=エグノスです」

「ふぅ、なるほどのぉ、なんとなく事情が分かった気がするわい」


 どういうことだ? エグノスに何かおかしなところがあるのか? いや、なんというかじいさんの態度からするとそんな感じじゃないしな、これは、エグノス家が何かしたってことか? ジズが出てるんだ、少なからず何かニュースのようなものにでもなったかそんなところだろう。


「あ、あの、よくわからないのですが? ……何かあったんですね?」

「あぁ、おそらく今から話すことはお主にとって辛いことであろうな」

「なるほど、そういうことでしたか。お話を聞いても?」

「あぁ、わかった、飯終わりにわしの部屋へ来るといい」



 ご飯を食べ終え、爺さんの部屋へ呼ばれた俺は、俺が転移した後の家のことを聞くこととなった。


「八年前のことじゃ、ワシは仕事で【エルモア王国】へ向かった」


 エモルア王国には大きな権力を持った貴族が五つあった。それがドルミア、ラオ、グラン、セジールそしてエグノスじゃ。その五貴族は互いに牽制しあっており、表立って動くような家ではなかったがために、エルモアは発展も争いも無く、良くも悪くも平和な国であっただろう。

 じゃが、そんな、ある日、五つのうちの一つの家が忽然と姿を消したんじゃ。理由は一族全員が死んだという悲惨な事故とされておる、噂によると巨大な魔物に滅ぼされたという内容であったな。そして、ワシは仕事としてその屋敷の調査を任されたのじゃ。貴族家が滅ぶ原因となった巨大な魔物の正体とその魔物が及ぼした影響を調べろという名目でな。


「じゃが実際行ってみてワシは驚いたよ。まさか、魔物の正体がランク不明の魔物じゃったのだからな。ランク不明と判断できたのはその影響が凄まじいものじゃったからじゃ。ギルドが隠せないほどの、な」


 まず、魔物の及ぼした影響範囲が異常じゃった、おそらく屋敷があったと思われる跡地を中心に直径五kmのクレーターが出来ておった。その中心には一振りの刀があったんじゃが、それに近づくことは出来んかったんじゃ。というのも、その刀は異常な魔力を有しており、その魔力を常に放ち続けておるのじゃ。普通の奴なら五kmの範囲に入っただけで何かしらの影響を受けていたのは確実じゃろうな。それほどの魔力量じゃった。そのせいで、碌に調査することも出来んかったんじゃ。しかも、その刀は数週間が経っても尚そこに存在しておったわ。


「全く傍迷惑なものじゃ」


 んで、次に調べたのが生存者の捜索なんじゃが、もちろんそんなところに生存者なんぞいるもんじゃなしに、全員死亡とするほかなかったのじゃよ。


「じゃが、小僧がそのエグノス家の子であるなら、生存者がいる可能性が出てくるじゃろ?」

「……なる……ほど」

「はぁ、これを聞いた上で小僧、これからどうするつもりじゃ?」

「……」

「ずっと眠っておった小僧には辛いことだろうが、お前さんならもう自分で決めれるじゃろ?」

「……はい、ですが……少し、時間をもらえますか?」

「あぁ、ワシはこのことを報告しに行くのでな長くは待てんが……三日じゃ、三日後答えを聞こうかの」

「……分かりました」

「……あまり……気に病むでないぞ?」

「……はい、ご好意感謝いたします」


 そう言って爺さんの部屋を出てすぐに、二ティが念話をしてきた。


〔ミリィ、彼に教えなくて良かったのですか?〕

〔……何の事だ?〕

〔すいません。出過ぎた真似をしました〕

〔…………まぁ、教えたところでなにができるわけじゃないしな〕

〔……それは、そうですが……〕

〔……ありがとう、ニティ……少し考え事をする、一人にしてくれ〕

〔……分かりました〕



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ――寒い、寒い、寒い。


 いつからだろうか。こんなに寒くなったのは。

 寒いのは苦手なんだ…………



 …………誰かどうにかしてくれよ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 気が付くと窓の外は暗くなっていた。


(こんなに考え事をしたのは久々だな)


 というかこんなに考えることなんて今まで一度もなかったかもしれない。自分の性格では考え事をするのには向いてないと思っていたので、この人生ではあまり考えをせずに生きてきた。その結果、異世界に転生し、どういうわけかその世界で両親を失った。


(とんだ御時世だな……)


 ――そんな世界で俺はこれから生きていけるのだろうか?


 そんな考えが脳内で響き渡り、こびりついている。


(そもそも俺はどうなんだ。本当に悲しんでいるのか?)


 俺の中で両親はこのラルメキアの両親では無く、地球の両親だ。そこに違いはないはずだが、何故か、ラルメキアでのあの二人との生活が……


 ――コンコン


 そんな思考を遮るかのようにこの部屋の扉が叩かれた。


「どちらさまですか?」


 と言って扉を開けると、そこには、見たことのない女の子の姿があった。


「あなたが、ミリアス君ね?」


 その女の子はそう言って首を傾げた。その拍子に彼女の深海のような澄み渡った紺色の髪が肩を流れる。なんとなく背徳感を感じ目をそらすと今度は彼女と目があった。彼女のその瞳は見る者の全てを引き込みそうなほど美しい碧だった。俺はその瞳に数秒間見惚れていたらしい。


「……?」

「あ、あぁ、そうだよ。俺がミリアスだ」


 あまりの挙動で、何故か変な喋り方になってしまった。


「そうなの、私はウナ。隣の部屋だから、よろしく」

「あぁ、うん、よろしく」

「あぁ、そうだ。私、時々変なこと言うけど、気にしないでね。そういう病気だから」

「は、はぁ。わ、わかった」

「うん、それだけ、じゃ」


 それだけ言うと彼女は自分の部屋へ入っていってしまった。しかも、その部屋は隣だった。


「一体彼女は何者なんだ? ……後でチェリに聞けばいいか」


 一旦、彼女のことは忘れることにした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺がこの家に来て二日が経った。そして俺は今、居間の掃除をしている。

 この家では住んでいるみんなで当番を決めて、いろいろな仕事を分担しているのだ。それで、今日の俺の当番が掃除だった。既に自分の部屋と台所の掃除は済ませているので後はこの居間と客間を掃除すれば終わりだ。なんだかんだで朝からやっているのでお昼頃には終わっていしまうだろう。そうなったら何をしようか。


〔でしたら、近くに魔物の巣がありますよ〕

〔魔物の巣?〕

〔えぇ、と言ってもゴブリンの巣です。数は少ないのですが、放っておくと大変なことになりますね〕

〔てことは?〕

〔えぇ、このまま成長すればギルドの討伐対象になるでしょう〕


「なるほど。ギルドねぇ」

「ん? ミリアス君冒険者なの?」

「へ? わぁっ」

「あぁ、ごめんごめん」


 俺は急に後ろから声をかけられびっくりしてしまった。声の主はチェリだったが彼女はこんなに隠密がうまかったか? いや、どちらかというと俺の問題か。

 念話や深く思考している時は[遮断]が機能するのか人が近づいていても気がつかないことが多いからな。並列意思のレベルが上がればどうにかならないだろうか?


「んで? ミリアス君冒険者やるの?」

「あぁ、検討中だけどね、今すぐやれることもないし」

「なら、うちに打って付けの子がいるよ、ちょっと呼んでくるね」

「あぁ、ありがとう」


 ん? 待てよ? この家にいるのって……


「お待たせ、お待たせ」

「チェリ? 何か用? ……ミリィ?」

「へ? あれ、あれ? ウナ知り合いだったの?」

「……いや、昨日の夜、挨拶に来たんだよ」

「部屋、隣だし」

「あぁ、なるほどね」


 にしても、どうして俺がミリィって呼ばれてるって知ってるんだ?この家ではまだ、誰にも話してないし。彼女が呼びやすいからそう呼んだだけなのかそれとも……


〔ミリィ君、貴方、念話能力持ってるでしょ?〕

〔……君も使えたのか〕

〔そう、でも、私のは待たちょっと違ってね〕

〔違う?〕

〔私、二重人格っぽくなってて、念話、というか精神体の私は他人の頭に直接話しかけることができるの〕

〔成程。たしかに話方も少し違うしな、だが、他人の意識に直接って、チート過ぎやしないか?〕

〔そうね、まぁ、チート並みの状態よ〕


「……」

「……」


「どうしたの? 二人して黙っちゃって」


「なぁ」

「何?」


「あー、無視、なるほどそういうスタイルで行くのねわかったわ、おとなしくしてますよ」


「お前、今、チートっていったよな?」

「うん」


 おう、チート、チートだよな。たしかチートって言葉、こっちの世界にはなかったよな。

 んで、それを知ってるってことは。


「なぁ、ウナ、質問していいか?」

「何?」

「スライムの色は何色?」

「……青色?」

「チェリ」

「スライムは濁った緑じゃないかな?」


「「……」」


「ウナ……」

「ミリィ君……」

「へ? どうしたの? …どゆこと?」

「ウナ、俺は今日これからギルドに行ってみようと思っているんだが、今日時間あれば…」

「私もこれからギルドに行く予定だった」

「……二人共? なんか、変だよ?」

「チェリ、俺は今からギルドに行かなければならない用事ができてしまったんだ」

「チェリ、私も右に同じく」

「……もう、わかったわよ。夕飯までには帰ってきてよね?」

「「ありがとう」」


 突然の出来事ではあるが、俺はこの世界で始めて、自分以外の同胞、転生者を見つけることに成功したみたいだ。

 だが、この事実、二ティは既に昨日彼女を見た時点で知っており、面白そうなので黙っていたのだが、後にそのことがミリアスにバレて散々責められることになるのはもう少し先のお話である。フィニティアよ強く生きろヨ。

誤字・脱字などがありましたら、お手数なのですが、報告の方よろしくお願い致します。

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