13 バケモノ
〔情報の処理を行います。完了〕
〔情報を操作します。本体への負担軽減を確認〕
〔言語確認。……言語の一致を確認。応答を願います〕
んー、これは、答えたほうがよかった、よな? でも、どうすんだ?
〔確認。櫓実様。現在はミリアス=エグノス様〕
は? なんで、こいつが俺の名前知ってんの? どういうこと? いや、でも、こいつがこの世界の神様と繋がりがあるとするなら、それはありえることなのだろうが
「あ、あー、なぁ、聞こえるのか?」
〔肯定。念話でも可能〕
「あー、うん。そっか」
んー、念話能力習得してないんだよなぁ。どうしたもんかね。でも、言葉にすれば、伝わるんなら今はそれでいいか。どうやら、問題はないっぽいし。
〔干渉。念話スキルのインストールに移ります〕
「……は? 今なんて」
――ズキンッ
「んぐっ!?」
突然頭に激痛が走った。あまりの激痛で思考が乱されているのか、意識を失いそうになる。
「ふっ、これ、は……?」
でが、数分で頭痛は治り、さらに、ステータス欄には[念話Ⅹ]という能力が書かれているのが確認できた。
これは、こいつがやったのか? 干渉、とか言ってたよな? どういう原理だ……能力をインストールしたってのか。しかも最高レベルで? 一体何もんなんだ、こいつは。
〔意識レベルの安定を確認。応答を願います〕
〔あ。これでいい、のか?〕
早速、手に入れた能力を使って念話というものをしてみたのだが、反応が帰ってこなかった。
(んー? できてんのかな?)
〔身体、精神、共に安定を確認〕
〔あー、聞こえてる?〕
〔肯定。なにか?〕
〔あぁ、そ、そうか? えっと、じゃあ、お前のことを教えて欲しい〕
〔不可能。質問の糸が掴めませんでした〕
〔あぁ、ええと、名前は?〕
〔該当なし〕
〔あぁ、そっち系か、えっと、じゃあ、、、フィニティアって呼んでいい?〕
〔確認。なるほど〕
〔え? なに? 確認? 何の? え?〕
〔登録。本日より、私のことはフィニティアと呼称します。敬称でニティとお呼びください〕
あ、はい。これは気に入ってなかったパターンなのかな? まぁ、ニティもいい名前だし、それでもいっか。
〔んじゃ、ニティ、お前は何者なんだ?〕
〔回答。意思ある者。付き従う者。代理人〕
〔簡単にいうと、メイド? みたいなもの?〕
〔登録。櫓実様の知能レベルの仮定を修正……完了〕
〔えっと、じゃあ次、神との繋がりは?〕
〔保留。その質問へは回答できません〕
そうやって言ってしまうこと自体が、既に神との繋がりを示唆しているんだけどな、まぁ、いいか。
〔じゃあ。ニティのステータスってあるのか?〕
〔肯定。ステータスの開示を申請しますか?〕
〔する。見えるようにして欲しい〕
〔確認。ステータスを表示いたします〕
――――――――――――――――――
【ステータス】
フィニティア 意思 00:25 Lv-
・体力:-
・筋力:-
・魔力:1789665
・耐性:-
・敏捷:-
【スキル】
[固有能力:自己意思]
[学習][停止][再生][思考][念話]
[干渉][侵食][申請][回答][魔力]
【称号】
『思念体』『追従者』『世界干渉』『魔者』
『怠惰の種』『暴食の種』『色欲の種』
――――――――――――――――――
想像以上。だったな。なんだこのステータス。というか、能力は。下手したら世界征服でもできるんじゃないのか?
て、一番の問題が称号にある、世界干渉なんだが、その隣にある魔者ってのはなんだ? 魔族とも、魔物とも違う存在なのだろうか?
〔なぁ、ニティ、お前はどこにいる?〕
〔回答不能。櫓実様の現在の知識では説明不可能〕
〔んじゃあ、お前の目的はなんだ?〕
〔回答。櫓実様のサポート役です〕
〔具体的には?〕
〔D領域に到達するための補助です〕
やっとかよ、長い時間かけさせやがって。D領域、Dか、多分神域のことだよな? 一般的には神様たちの存在する場所とされる領域のこと、たしか、メリーと最初にあった場所がそことの狭間だったよな。そういえば、メリー今どうしてんのかなぁ……
〔なぁ、メリーの、いや。神アリスの居場所って分かんのか?〕
〔否定。神の居場所特定はプライベート侵害で禁止されています〕
(プライベートって、でも、わからないわけではないってことだよな)
まぁ、今はどうすることもできないか……
〔……ミリィ〕
〔……?どう、なさいましたか?〕
〔俺、家族からはミリィって呼ばれてたんだ〕
〔家族。 血縁や結婚により関係づけられた人々?〕
〔そんな、堅苦しいものじゃなくってさ、家族って、お互いに命をかけることのできる人、だと思うんだ〕
〔……。登録。完了〕
〔…………だから、さ〕
〔……質問〕
〔…………なに?〕
〔ミリィ。私では貴方の家族にはなれませんか?〕
嬉しかった。とても、嬉しかった。返答は決まっている。俺もニティに言うつもりだった。
〔……俺からもお願いするよ。よろしく。ニティ〕
〔………………はい。よろしくお願い致します〕
この日俺はこの世界で家族ができた。父、母、メリーに次ぐ、ニティという存在。
でも、どうして、こんなに、家族になりたいと思ったのだろうか。まぁ、理由なんて、きっとどうでもいいことなんだろう。もしかしたら、ただただ寂しくって、たまたま聞こえてきた日本語に、反応してしまっただけなのかもしれない。だとしても、この繋がりは決して壊したくない。そう思えたことに変わりはない。
――だが俺は気付いていなかった。意識を取り戻してからこの思考に至るまでの時間は約三分。まさに能力の成せる技であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どうも。私、蓼科涼妹は先程まで教室でぐっすりだったはずなのに、現在は、全く見覚えのない森で変な生き物に囲まれています。
一口に『変』と言っても、見たこともないような『変』ではない。寧ろ個人的にはよく見かけた生き物だ。そう、私が今囲まれている変な生き物とは、ゲームでよく見かけるような、ケモミミっ子だ。私にはそっちの気はないので、現在は、ただただ、恐ろしく感じております。
猫耳おじさん、犬耳少女、うさ耳幼女? 狼耳少年に、極めつけは見た目がザ・ライオン的な人もいる。
(それだけでも、カオスな状況なんだが、一番、意味わからんのは……)
自身のお尻に意識を向けると背中にぺちぺちと打ち付けるなにかが確認できた。更には音の聞こえ方も頭に直接聞こえているような感覚がある。
そう、私はおそらく、猫人族になっている
「貴様。先程からなぜ尻尾の動きを止めない?」
「……これ、止まらない」
「? よくわからんな、自分の一部だろうに」
いやね、そういわれてもさ、私、今まで、こんなのなかったんよ? 歴としたJKやってた。極平凡な一般ピーポーだったんよ? それがさ、起きてみたら、知らん場所でさ、持ち物なんもなくてさ? ん? まって、私、持ち物、なかったよね? じゃあ……
「ところで、貴様、少しは、その、隠したらどうなんだ?」
「? ……これは、お見苦しいものをお見せしました」
>神器[輝くもの]の作成が可能です。作成しますか?
ん? 神器? ベレヌス?って何?
>神器[輝くもの]はマントで、身につけることで姿を変えることも可能です。
まじか! 今そういうのちょうど欲しかったとこっすよ! 誰だか知らんがありがとう!
「おい!お前ら、布か何かなんでもいい、身にまとえるものを取ってこい!」
「……必要ない」
「なに?」
「神器創造:輝くもの」
――フワッ、ボフン
スキルによって作られたマントは長さにして約一.五mほどの長さだった。そのマントは自身の真上に浮かび、そのまま落ちてきたが、マントの先が地面に触れていた。
「不服です。身体も縮んでるんですか、そうですか」
前の身体は百六十八はあったので、これくらいでちょうどいい長さだっただろうが、今のこの体はおそらく百四十あるかないかくらいなのだろう。
創り出したマントを羽織り、気づいたのだが、このマント、柄もなく無地で、色も白だ。正直言ってダサい。これはどうにかならないものか。
>創作した神器は姿形を変える効果があります。
あ、そういえば、そうだった。わ、忘れてないよ! 試しただけだよ!
>……。
というわけで、ちょいと手直し、想像すればいいのかな?
>神器に形態の保存をし、呼び出すことが可能です。
なるほど、じゃあ、このイメージは第二形態ってことで。
>保存完了。呼び出し可能です。
「ベレヌス、第二形態〈マントレム〉」
ベレヌスはマントの姿からローブのような姿へと変型した。ついでにローブにもこだわりを施した。生地はベルベット、柄はないが、淵を水色にし、その中に金色の装飾を施した。いわゆる聖職者ローブのようなものだが、少し工夫をし、体のラインに添って黒いスリットを入れておいた。
「「「おぉ」」」
獣耳の男性諸君の視線が痛い。私、この中、裸だから、あんまり見ないで欲しいんだけどなぁ
「はぁ、お前たち、何を見ている?」
おぉ、ちゃんのと仕切っているのね、ライオンさん。尊敬するわぁ、私にはできないことよね。
「ん、では本題に入ろう。我らは貴方のことを見たことがないのだが、どこの所属だ?」
ん、私のこと、貴様呼びから、貴方に変わってるな。これはさっきの能力を見て警戒されたか。
「分からない、あなたは、誰?」
よし、決まった。自分のことは最低限隠して、相手の情報を引き出す、おそらくあのライオンさん。礼儀正しい人だから答えてくれるだろう。
「ふむ、これは失礼した。我はザレオン、この第一部隊部隊のリーダーを勤めているものだ」
へぇ、第一部隊っていうくらいなんだから、多分強い人なんだろうな。さて、どうしたものか。
「改めて聞こう、君は何者なんだ?」
「私は……」
名前、考えてなかったな。どうしよ、うーん。そうだ、この案なら、いいじゃん。よし、そうすれば……うん、おっけ、いける。
「……多分、記憶喪失?」
記憶喪失、それは、一部の記憶を失うものとすべての記憶を失う二種類があるが、今回はそこを明確にしていない。だから、記憶があってもおかしくないが、そこを問われてもいいように……
「でも、感覚は覚えてる、はず、自分の記憶。これまでの経験を」
「なるほど、そうか、それは災難だったな……それで? 記憶があるのはいつからなんだ?」
「私の意識が覚醒してから。大体三十分が経った」
「そうか、実は、我々は遠征から王都に帰る戻るところなんだが、よかったら、どうだ? うちの国に来ないか?」
ザレオンさんもといライオンさんからの突然のお誘いに少し戸惑っていると、周りに居た狼耳の少年が声を荒らげて発言してきた。
「おい! リーダー!! こいつは信用ならねェだろ! 敵か味方かもわからねぇやつを連れて行くなんて、俺ァ反対だ!」
「お、おい! ギナサ!」
「あぁ? ルーダ! てめぇは黙ってろよ?」
「ギナサ、奴の周辺の護衛を任せる」
「あぁ?」
「不服か?」
「チッ、わかったよ」
ということらしく、狼耳少年は一応ギナサということがわかった。そして、それを止めたのが、ルーダ、同じく狼耳なのだが、片方千切れている少年だ。ギナサのほうはともかく、ルーダとは仲良くできるんじゃないかと思う。
「下手なまねしたら、殺すかんな?」
「ふん…………」
「ケッ」
それだけ言うとその狼耳少年は森の先へいてしまった。
「ルーダ、すまんが……」
「えぇ、わかっています」
「いつも、すまんな」
「いえ、これは償いでもあるので」
「お前も、思いつめんじゃないぞ?」
「ご忠告感謝いたします、それでは」
何やら、会話をしていたルーダくんがこっちに歩いてきた。
「先程はギナサが失礼しました」
「いえ、お気になさらず、彼も何か事情があったのでしょう?」
「えぇ、すいません、ご理解のほど感謝いたします」
「あぁ、それと、ルーだくん、敬語はいらないよ、名前はわからないんだけど、これからよろしく」
「あぁ、うん、よろしく……」
よし、第一コンタクトは成功、こうして、少しずつ、この輪に入れるといいな。
まぁ、自分の利益的にもね。




