12 三度目の正直
なんか、気分が乗って、筆が進みましたので。今回少し長め、かもしれないです。
――ミリアスはどこへ消えた?
その事実を理解したロディは混乱していた。
「ミ、ミリアスは? どこいった?」
「だ、大丈夫よ! ほら、あの魔物が迫る前に魔法陣を起動してたじゃない!!」
そんなロディを心配したのか、アウラは元気づけてくれる。自分も気が気じゃないだろうというのに。
「そ、そうだったな、なら、大丈夫だな!」
ロディはそんな態度に一途の希望を見出していた。が同時に現実も見えていた。
魔法陣が起動して、ミリアスが転移したのは確かで、その事実に安堵するものの、やはり二人の顔は浮かないままだった。
それは飛んでいったジズという魔物の口にある肉体がそうさせていた。
体勢を整えこちらを睨みながら、そのジズという魔物はミリアスの右半身を喰らっていた。
つまり、今のミリアスは左半身しか残っておらず、そんな中、ジズの巨体を蹴り飛ばすという偉業を成し遂げたのだ、そして、転移先にて、動けなくなっていることだろう。本当なら、今すぐ行って治療してやりたいところだが、そうもいかない。
「くっ!」
ジズはその大きな顎門をこちらに向けて迫ってきていたのだ。なぜ魔法を使ってこないのかはいささか不思議ではあるが、魔法を使うまでもないとでも思っているのだろうと判断した。
ジズの攻撃をスレスレで回避して、無詠唱で火炎魔法を叩き込む。
「火炎弾!!」
叫ぶと同時にロディの周りに数十個の火炎球が燃え上がり、一斉にジズへと放射された。
「ぐるぅあぁぁ」
ジズは魔法を使ったのか、その火炎球を蒸発させてしまった。
「チッ! 大したダメージになってねぇな!」
「ロディ! どいて!」
その声でロディは横っ飛びに回避すると今まで立っていたその場所をもの凄い勢いでアウラが通過していき……
「ふっ!」
その勢いのまま刀を振るった。
その刀はジズの鱗を傷つけ、その勢いで、再びジズの巨体を屋敷の外まで飛ばした。
「やっぱり、おかしいわね」
「あぁ、なんだか、自分の力が出しきれていないような、それに、さっきから立っているのがやっとかのような動きも見せてる」
「……ミリィ」
「だろうな……」
正直、少し前から違和感は感じていた。前に彼が書斎で本を読んでいたことがあったのだが、その年では読めないような難解な魔道書を片手に紙に絵を書いていた。そのときは気づかなかったが、あれは文字だったのではないかと思う。それをなぜあの子が知っている?だが、そうするとどうして、あの子は文字が読める? 極めつけは彼が時折見せるその表情だ。どこか、悲しそうな、それでいて、諦めの滲んだ、そんな表情を…………馬鹿か俺は! 何を考えているんだ! あの子が何だろうと関係ないだろう! 今はミリアスで、ミリアスは俺らの子供だ! アウラのお腹から産まれてきた歴とした息子じゃないか! 今はあの子を信じよう。きっと生きているし、ジズを弱体化させてくれたんだ。
「よしっ!!」
「あら? ロディがいつも以上にかっこよくなってる?」
「ん? 今の俺はめちゃくちゃかっこいいぞ!」
「んふふ、そうね、でも、今はあいつに集中しなくちゃね」
「あぁ」
――ザガゴゴゴゴガッ
鎌首を持ち上げたジズはその獰猛な瞳でじっとこちらを見つめていた。
「人の子よ……洗脳を解いてくれたこと、感謝する……」
「なっ!?」
目の前に現れたジズはそう切り出し、わけのわからないことを話す。というよりか一言だけ発した。
「すまないが、お主らには少し眠っていてもらうぞ」
「ど、どういうことなの! っ!?」
「アウラァ!!」
ジズは言い終わると同時に二人はその大きな顎門に飲み込まれ、ジズはそのまま飛んでいった。
「だ、旦那様ァ!! お嬢様ァ!!」
ボロボロの爺やの叫びは虚しくも空を切った……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めるとそこは知らない森だった。
木々がお生い茂っており、陽の光が少量だけ入ってきていて、どこか神聖な空気を漂わせていた。
(ここは……?)
自分は仰向けに倒れてしたため身体を起こし、周囲の確認をする。
そして、鮮明になった記憶を思い出す。
(そうだ! ジズ!)
周囲にジズの姿は見えない。どうやら、魔法陣が起動して転移してしまったのだろう、そこまでいき、自身の身体が再生していることに気づいた。
「不死身スキルって本物だったのか」
そう、不滅によって手に入れた[不老不死]このスキルを持っている限りの世界で死ぬことはないのだろう。そして、俺には[成長]もあるので、ある程度までは成長できる。おそらく全盛期あたりで成長が止まるのではないかと思っている。つまり、成長の限界が来た時が成長の終了、そこからは不老の能力が機能するという感じではないかと推察している。
>称号『探偵』を取得しました。
>条件を満たしました。能力[推理Ⅴ][審美眼Ⅰ]を習得しました。
>能力[審美眼Ⅰ]が[魔眼]に統合されました。
>条件を満たしました。[魔眼]を[心眼]に進化可能です。進化しますか? Yes/No
ん? 初めてのアナウンスだな。今までは勝手に進化とかしてたんだけどな? これ、リスクとかあるパターンじゃね?
んーでもなー。スキル名見るからに結構使えそうなんだよなー。いいや、とっちゃえ。リスクとかぶっちゃけ不死の俺には関係ないし。
>能力[魔眼]を[心眼]に進化します。
>能力[心眼]を習得しました。
>称号[心解者]を取得しました。
>能力[聖域Ⅰ]を取得しました。
>能力[禁忌Ⅰ]を取得しました。
ん? んん? んんんん!? なにこれ? なにこれ!? 禁忌とかまじでやばいやつじゃん! え? 待って。これ、ほかの人には見えないよね? 大丈夫だとね? 顔に私禁忌犯してますよーなんて書いてないよね? どっかに警報装置とかないよね!? ね?
ふぅ、大丈夫そうだな、周囲にはそれらしきもはなかった。にしても、俺もスキル増えたなぁ。そのくせレベルがⅠってどういう神経してんのさ。周囲の安全も確保できたし、そろそろ、ドキッドキタイムとしますか、さーて、私の今の状態は~???
――――――――――――――――――
【ステータス】
ミリアス=エグノス(空綺麗 櫓実) 幼児 5歳 Lv1 交換00:47
・体力:175
・筋力:46140(58614)
・魔力:162
・耐性:152
・敏捷:165
【スキル】
[固有能力:交換Ⅲ]
[天恵:成長]
[天呪:不滅Ⅳ]
[神術:心眼]
[探知Ⅵ][遮断Ⅳ][武術Ⅲ][投擲Ⅳ]
[五感強化Ⅵ][身体超強化Ⅱ][瞬速移動Ⅲ]
[高速思考Ⅴ][並列思考Ⅶ][高速演算Ⅲ]
[追跡Ⅶ][推理Ⅴ][予知Ⅳ][演舞Ⅴ]
[空間把握Ⅸ][立体機動Ⅷ]
[治療Ⅶ][治癒Ⅹ][自己治癒力Ⅹ][楽園Ⅹ]
[魔法適性:魔][式神][従魔]
[持続][豪力][精神][金剛][瞬速]
[禁忌Ⅰ][聖域Ⅰ]
[言語理解Ⅹ][礼儀作法Ⅹ][不老不死]
[メニュー][ヘルプ][概念]
【称号】
『転生者』『読書家』『魔術師』『受神』
『能力収集者』『称号収集者』『舞踏家』
『傍観者』『全知』『探偵』『心解者』
――――――――――――――――――
うん、全体的に全部上がってる。そういえば、交換時間が残りわずかだな。
そろそろ〈反動〉が来るだろうか? あと三十秒。
ん? 探知になにか引っかかったな、これは? 人の形をしているな。でも、あ、これ獣人だ!
そう、この世界には何を隠そう獣人がいるのだ。今見つけた子は形からしたおそらく犬耳族だと思われる。
こいつ、間違いなくこっちに向かってきているな。そうか、たしか獣人って人間の何倍も五感が優れているんだっけか?
まぁ、襲いかかってくるようならどうにかするしかないだろう。
「おい! そこのガキ!」
ん? なんだ?
完全に子供じゃないか。はぐれ、か?
「ガキがこんなところで何してる!」
「……何してる……も何も……行き倒れ……てたん……だがッ!?」
「っ!? な、何してる!!」
急に倒れ込んでしまった。一瞬この女がなにかしたのかともおもったが、この反応からすると違うだろう。
となれば原因は一つ、[交換]の〈反動〉か。
反動せいで意識が薄れていくのを感じながらも、これだけは言わなくてはならないと、最後に一言だけ言うことができた。
「……ち、ちょっと……寝る……」
「は? え!? おい! 起きろ! おい!」
(あぁ~わんこちゃんなんか言ってるなぁー何言ってるか聞き取れないや、こりゃ本気で意識が消えるらしい。まぁ最後に寝るって言えたから大丈夫だろう、あとは任せた……わんころ……あ……一応……ポテチ召喚しとこ……)
そう思い、最大魔力で召喚魔法を行使したところで、ちょうど力が底を尽き、俺は静かに意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夢を見たんだ。とても心地よい夢を、その夢の中では隣に誰かがいた。その人は見た感じ二十代かそこらの人だった。
その人が言ったんだ、何を言ったのかはよく聞こえなかったけど。その人はたしかに微笑みかけて言葉を発していた。
あの人は誰だったのだろうか? 全く記憶にない人物なのだが、これは既視感の見せた夢なのだろうか。
とても穏やかな印象を受けた。また、いつか…会えるといいな……例え夢の中だけでも……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は意識を取り戻した。目を開けるとやはりそこは知らない天井だった。
(……前にもこんなことあったなぁ)
などと思ったが、今回は前回とは違い、手足は動かせた。
「大丈夫、生きてる」
いや、もしかしたら、一度は死んだのかもしれないが、今は生きている。身体にも特に問題は見当たらない。
唯一違う点をあげるならば、来ている服は見覚えのないものに着替えされられており、俺の身体は包帯が直に巻かれているのだろうということがわかる。
「誰かが……治療してくれたのか?」
――ガラガラッ
「っ!!」
寝返りを打とうとした拍子に寝ていたベッドから落ちた。二段ベッドではないのでそこまで問題はないだろう。
だが、一応、念のため、自身の身体を調べている時にふと気がついた。
「なんか、身体大きくなってね?」
ステータスを見て、疑問は確信に変わった。
――――――――――――――――――
【ステータス】
ミリアス=エグノス(空綺麗 櫓実) 幼児 15歳 Lv1
・体力:175
・筋力:163
・魔力:162
・耐性:152
・敏捷:165
【スキル】
[固有能力:交換Ⅲ]
[天恵:成長]
[天呪:不滅Ⅳ]
[神術:心眼]
[探知Ⅵ][遮断Ⅳ][武術Ⅲ][投擲Ⅳ]
[五感強化Ⅵ][身体超強化Ⅱ][瞬速移動Ⅲ]
[高速思考Ⅴ][並列思考Ⅶ][高速演算Ⅲ]
[追跡Ⅶ][推理Ⅴ][予知Ⅳ][演舞Ⅴ]
[空間把握Ⅸ][立体機動Ⅷ]
[治療Ⅶ][治癒Ⅹ][自己治癒力Ⅹ][楽園Ⅹ]
[魔法適性:魔][式神][従魔]
[持続][豪力][精神][金剛][瞬速]
[禁忌Ⅲ][聖域Ⅲ][永眠Ⅹ][覚醒Ⅹ]
[言語理解Ⅹ][礼儀作法Ⅹ][不老不死]
[メニュー][ヘルプ][概念]
【称号】
『転生者』『読書家』『魔術師』『受神』
『能力収集者』『称号収集者』『舞踏家』
『傍観者』『全知』『探偵』『心解者』
『睡眠之王』『永眠の支配者』『覚醒の支配者』
――――――――――――――――――
永眠と覚醒?
・永眠:称号『睡眠之王』を持つものに与えられる能力。効果:この能力を持つ者の意識を奪う。
・覚醒:称号『睡眠之王』を持つものに与えられる能力。効果:この能力を持つ者の意識を保つ。
つまり? 俺は何度も意識を失ったり、起きたりを繰り返していた? それは不老不死の能力の性質で何度も死んだり生き返ったりをしていたということなのではないか? 例えば、この傷が癒えるまで、出血多量で心臓が止まり、不老不死で心臓を動かして生き返り、同じ理由でまた、死んだ。とか、そういう理由なのでは? それならば、身につけている衣服が綺麗であることも納得であるし、身体が癒えるまでに相当時間がかかったと見るべきだろう。と考えたところで、部屋の外からドタドタという足音が聞こえてきた。
――バタンッ!!
「おじぃちゃん!!また何か落としたでしょ!!」
大きな音を立てて盛大にドアを開け入って来たのは頭に猫耳を生やした、女の子だった。その女の子と目があった。どちらも一瞬動きを止めてしまったが、今、俺は上半身裸で鏡の前で立っているところなんだよな。そんな状態の男を目の当たりにした女の子が執る行動と言えば……
「し、失礼しましたぁぁぁぁ!!!!」
取り敢えず部屋から出る。である。もちろん、目の前の少女も例外ではなく、すぐさまドアを閉めてドタドタと走って逃げていってしまった。
沢山聞きたいことがあったのだが、あの少女のおかげで少ないながらも情報は得られた。
「取り敢えず、今のところ身の危険はなし、と」
近くにあった紙とペンのようなものを拝借し、メモする。そして、同じくそのメモにこれからやることを書き出していった。
・身の回りの安全確保
・現在の俺の状況把握
・時系列の確認
・現在地の確認
・屋敷がどうなっているのか
・世界情勢の確認
・今後の計画
「まぁ、今は、こんなもんか」
さて、取り敢えず、上から順番にやっていこう。探知、遮断、五感・身体強化は常時発動にしよう。今までは必要なかったから特に発動はしていなかったのだが、ついでに心眼も常時発動させておこう。
そして、能力を発動した途端、ものすごい量の情報が流れ込んできた。様々な視界、気持ちの悪い匂い、多くの生命体の気配、物質の熱・存在や空間、服・床や空気の触感、etc.
ありとあらゆる情報という情報が流れ込んできた。その代償として、脳が破裂した。
「ぐっあぁっ!?」
これも能力のおかげなのだろうが、脳が破裂したにも関わらず、かなりの頭痛だけで、その痛みもすぐに引いていった。それと同時にログにも動きがあった。
>能力[高速演算Ⅲ]が[高速演算Ⅷ]に上がりました。
>能力[探知Ⅵ]が[探知Ⅷ]に上がりました。
>能力[遮断Ⅳ]が[遮断Ⅶ]に上がりました。
>能力[五感強化Ⅵ]が[五感強化Ⅹ]に上がりました。能力進化します。
>能力[五感超強化Ⅰ]を習得しました。
>能力[五感超強化Ⅰ]が[五感超強化Ⅱ]に上がりました。
>能力[身体超強化Ⅱ]が[身体超強化Ⅲ]に上がりました。
>能力[強靭]を取得しました。
>能力[精神]が[強靭]に統合されました。
>能力[並列思考Ⅶ]が[並列思考Ⅹ]に上がりました。能力進化します。
>能力[並列意思Ⅰ]を習得しました。
>能力[並列意思Ⅰ]が[並列意思Ⅱ]に上がりました。
>称号『賢明者』を取得しました。
>能力[賢者Ⅴ]を習得しました。
>条件を満たしました。これより、引き継ぎを行います。
>引き継ぎ中...
>引き継ぎが完了しました。これにて、本システムを終了いたします。ご利用ありがとうございました。
――ジッ、ザザッ、ザザザ、ザー、ア、アー対象言語、確認。応答、願います。
その声は、自分の脳内で反芻した。はぁ、俺は、また、やらかしたようだ。そう考えたところで、一旦、意識を手放した。