エピローグ
晶子は空港にいた。河口に連れられて参加した会議に晶子の出番は無かった。だが、そのすぐ後で晶子の渡米が決定した。集まる場所は秘密事項であったが、晶子と同じ経験をした者が集められるという事だった。同じ経験、つまり二度、奴から生還した人間という共通点だ。高校卒業程度の学力である晶子は最低限の会話が出来るようになるために早めの渡米となった。ちなみに英会話が出来ないのは晶子だけだった。他の四人は普通に英語で会話が出来る。自分と同じだと思っていた花田真治が英語ペラペラだと知った時の衝撃はなかなか無い。
「俺は英語の他に中国語と韓国語で話せるぞ?あと、ドイツ語とフランス語も知ってる」
と真治が言った時の敗北感は他では味わえないだろう。そのため今回の渡米の話を晶子は素直に受け入れた。
晶子はその後の彼らの様子を知らない。それは晶子の管轄ではないからだ。おそらく今も監視がついているだろう。豊にも紀之にも。晶子達がそうであるように。晶子には今と別の環境が必要だというのが上の判断だ。「上」が何なのか、晶子は知らない。だがその決定に逆らう事は許されていない。
「今よりも強くなります」
晶子はそう決意して渡米を決めた。もう誰も死なないように。
飛行機の窓から眺める景色は色が薄かった。晶子はこれからを生きるために前を向いた。何があるのか想像も出来ない未来へと向かうために。