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第2話



 どうやら俺の祈りは無駄に終わったようだ。

 魔法やスキル等を色々と調べている最中に、いきなりモンスターと遭遇して囲まれちゃってます。

 俺を中心に円を描くような形で広がっている、体毛が銀色で全長二メートルほどの狼――シルバーウルフの群れがグルグル唸っててめっちゃ怖いです。

 不幸中の幸いなのが、シルバーウルフは3レベル相当の初心者プレイヤーが戦うような弱いモンスターだということだ。

 いくら転生したばかりで種族レベルが1に戻ったとはいえ、クラスレベルが最高値の100なので脅威になることはない。

 しかし、ここがリアルな世界で目の前のモンスターもゲームのプログラムで構成されたNPCではなく本物だと思うと、流石に怖い。


「――っ。〈風の拡散ウィンドディフュージョン〉!」


 シルバーウルフが動くよりも先に、俺は急いで魔法を行使する。

 俺を中心に全方位に放たれた不可視の風の刃が、シルバーウルフを一匹残らず切り裂く。

 〈風の拡散〉は下位、中位、上位、最上位、超級とある中で、最も弱い下位に位置する魔法だ。

 さらに、それぞれのくらいには一級、二級、三級と三つの強さの階級が存在しており、〈風の拡散〉は下位の魔法だが、下位の中では一番の威力を持つ一級に分類される。

 超級だけは例外で、この魔法だけは階級は存在しない。


 俺はシルバーウルフの屍に若干びくつきながら近づくと、そっと手をかざす。

 ゲームの時ならこの方法でモンスターの素材アイテムを回収するのだが、いくら待っても何も起こらない。

 先ほどのタイラントグリズリーとの戦闘は、色々と動揺をしていたせいですっかり素材を回収するのを失念していたが、これで判明した。 

 やはりここがゲームの世界ではなく現実世界になった事により、こういったゲームの法則は消失してしまっているようだ。

 戦闘が終わっても、モンスターの死体が消えない事から予想はしていたが、これで確信した。


 何回も繰り返すようだが……。

 ここはもう――ゲームの世界ではない。


 しかし、それが分かっていてもこのままでは素材アイテムをモンスターから回収する事が出来ない。

 現実になった以上、やはり“現実の方法“で回収するしかないか……。

 つまり……そう…、解体するのだ。

 タイラントグリズリーの時は出来なかったが、これから先の事を考えると、いつまでもやらないままでいるわけにはいかないだろう。

 俺はゴクリと喉を鳴らすと、額に浮かぶ汗を手の甲で拭う。

 初めての解体作業のため、上手く出来るかどうか分からない。

 いや、それよりもよくよく考えてみればどうやって解体するのか、その仕方も分からない

 しかし、このまま素材を何も回収せずに放置しておくという訳にいかない。

 俺は吐き気を催すような血生臭い異臭を放つシルバーウルフの屍に近づくと、ぬらぬらと光る血液に後込みしながら作業に取り掛かる。

 皮や肉は〈風の拡散〉で身体全体を切り裂いたため、とても剥ぎ取れる状態ではない。

 なので、取りあえず牙や爪といった比較的簡単に剥ぎ取れそうな部位だけでも回収しよう。

 だが、どうやって牙を採取するのか? 力一杯思いっきり引き抜けばいいのかな?

 ……あっ、抜けた。

 やったぜ、一件落着。

 根本に肉が付いてるけど、まあ大丈夫だろう。

 さすが筋力が3130だけあって、意外とあっけなく出来るもんだな。

 筋力3130は伊達じゃない。

 爪の方は根元を折って回収する。


 そして、収納と念じる。

 すると、手に持っていたシルバーウルフの牙と爪がふっと消える。

 これはシルバーウルフと戦闘になる前に発見した方法で、そこら辺に落ちていた石ころを拾った時にどうやってアイテムボックスに入れるか悩んでいる最中に偶然発見した。

 どうやらそれはモンスターから剥ぎ取った素材も同様で、回収したアイテムをアイテムボックスに入れるのは、たんに手をかざすだけではなく、直接ものに触れなければならないようだった。

 雑草は地面から引き抜いてからでないと収納する事が出来なかった。

 よく分からないが、モンスターの死体も雑草と同様にそのままでは収納する事が出来ず、こうやって一つ一つ素材を回収しなければいけない。

 故に、解体作業という工程がどうしても必要になってくる。

 かなり面倒だが、これを発見した事は良かった。

 それにアイテムを取り出す方法も見つけれたし。


 そして俺は、他のシルバーウルフの屍も同様に牙と爪だけを回収する作業を黙々と繰り返す。


 暫くして、ようやく素材の回収が終わった事にほっと一息をつく。

 

 それにしても、いざ戦闘になった時に改めて痛感したが、前衛がいないというのはかなり痛い。

 今はレベルに圧倒的な差があるから、ソロで戦うという事に問題はない。

 しかし、もしも強敵と遭遇した場合を考えると、やはり後衛系のクラスである魔法職に前衛がいないのはキツイ。

 ギルドホームに戻れば前衛を担当してくれる相棒のNPCがいるんだが、生憎とそのホームに帰還するためのアイテム――転移の札を切らしている。

 間が悪すぎる。

 こんな状況下に置かれているからこそ、共に戦場を駆けて困難を乗り越えてくれるNPCの存在が必要なのに。

 こんな事なら常に補充しとけば良かった。

 まあ、ギルドホームとそのNPCがこの世界に存在していたらだが。


 それと実際に戦ってみて気がついたが、ゲームだった時の戦闘とリアルでの戦闘とでは、全く違うところが多々ある。

 視界が狭い、というのもその内の一つだ。

 パソコンの画面越しに見る風景は360℃全方位が見渡せれたが、リアルになった今では当然ながら、自分の目の見える範囲しか視界に納める事が出来ない。

 今の戦闘のように背後に回り込まれると、非常に厄介だ。

 それからゲームでは決して感じられなかった本当の殺気や敵意を向けられる事に、一瞬身がすくんでしまった。

 腰が抜けなかったのは良かったが、いきなり集団で取り囲まれる恐怖感と焦燥感の二つの感情が、今さらながらぶつぶつと蘇ってくる。

 当たり前の事だが、やはりゲームとリアルは違う。


 目まぐるしく変わる戦況に、しっかりと臨機応変に対応していかないと、そのうち致命的なミスを起こしかねない。

 そこら辺は少しずつでもいいから、とにかく何度も戦闘を繰り返して徐々に慣れていく必要がある。

 実戦の厳しさが改めて身に染みた。


 それから、現在の装備も見直した方がよさそうだ。

 次から次へと急な出来事が発生して気づくのに遅れたが、この装備にはレベル70以下の魔法攻撃を完全に無効化する能力が備わっている。

 しかし、タイラントグリズリーの戦闘を振り返るに、それはあくまで魔法攻撃のみを無効化するだけであり、当然ながら物理攻撃を無効化する事は出来ない。

 つまり、この装備は魔法を用いる戦闘には強いが、物理攻撃による肉弾戦には向いていない。

 前衛がいない現状では、魔法攻撃よりも物理攻撃に対策を考えるべきだろう。

 そうなるとレア度が二つ下がるが、物理攻撃に備えた近接戦闘に向いた装備の方がいいだろう。

 今は手持ちの装備の数はあまり多くない。

 魔法戦に特化した装備ばかりでレア度が下がってしまうが、近接戦闘向きの能力がある装備の数は少ないのでこれは仕方ない。

 それにいくらダメージを受けないと分かっていても、やっぱり現実で攻撃食らうのは怖いし。



 俺はメニューと念じて、目の前に長方形型の半透明のパネルを出す。

 やっぱりキーボードで操作するよりも、こっちの方がはるかに操作しやすくて便利だ。

 装備の項目を選択し、現在の装備を変更する。

 その瞬間、漆黒のローブは瞬く間に紅いローブへと変わる。

 この紅いローブは封鬼ふうきの衣という名のレア度が秘宝トレジャー級の装備で、レベル30以下の物理攻撃無効の能力が備わっている。

 これなら直接物理攻撃を食らっても大丈夫だろう。


「大体これでいいかな……」


 武器とアクセサリーはもっとレベルの高いモンスターと遭遇した時に改めて装備すれば、別にいいか。

 タイラントグリズリーやシルバーウルフといったレベルの低いモンスターばかりが出る場所に、そこまで万全に準備をしなくてもいいだろう。

 レベルの高いモンスターが出るような場所なら、そういったモンスターしか出ない。

 それがないというなら、ここら一帯は弱いモンスターしか出ないだろう。


「《索敵サーチ》」


 周りに敵がいないか探知系のスキルを発動する。

 脳内に自分を中心に円形のマップが浮かび上がると、緑、灰の二色の点が表記する。

 なるほど、《索敵》のスキルはこういう形で表示されるのか。

 だが、灰色の点はどういうことだ?

 表示される色の種類は緑、青、赤、黄の四色が存在し緑の点は自分で、青が味方、赤はモンスターといった敵対する存在、黄がNPCを表す。

 表示されるのは四色のうち緑こそ変わらないが、他の三色が消失して代わりに灰色が表記されている。

 現実世界になったことによる何らかの影響だろうか?

 これじゃあ灰色の点が味方なのかモンスターなのか、はたまたNPCなのかが全く分からない。

 この灰色の点は一体何を表すものなのか?

 分からない事をいくら考えたところで答えは出てこないので、取りあえずこの目で直接確認をしにいく方が早い。

 念のためにアクセサリーの一つである、神器ゴッズ級のネックレスを装備しておく。

 白金に輝く鳥の羽根を模したそれは天鳥竜の首飾りというアイテムで、全状態異常無効と精神攻撃無効、さらにHP自動回復(上)の能力を有する。


 俺は脳内に浮かび上がったマップの中に点在する灰色の点の場所を確認をすると、気を引き締めてその方向へ足を進める。





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