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極東の鴉  作者: 縞白
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第八話「二つの任務」





 暗いトンネルをひた走る地下鉄道(メトロ)に乗って、鮫島少尉と北の地下街【近江(おうみ)】へ向かう。

 がたん、ごとん、と意外に静かに走る列車の中でうとうとしていると、途中で一度、起こされた。


「譲葉少佐、危険種の根の発見報告があった地点に到着しました」

「んー……」


 ぼー、と寝ぼけながら鮫島少尉の指示に従い、いつの間にか停まっていた列車から線路へ降りた。

 トンネルの一部を破壊して繁殖しようとしている危険種の植物の根っこを、手分けして探して退治して、応急処置的に穴をふさぐ。


「任務完了を確認。お疲れ様です、譲葉少佐」

「はい、どうも」


 ぐびっとひとくち葡萄酒(ワイン)を飲んで車両に上がると、またまどろみに戻る。

 そうして半分寝ている間に、列車は【近江】へ到着した。



 今日の任務は二つ。

 地下鉄道のトンネルに出現した危険種の植物の根の除去と、琵琶湖の浅瀬にいるという水棲の危険種を捕まえ、魔法薬の素材となる実を採取してくるという簡単なものだ。



 一つ目はもう終わったので、あと一つ。

 地下街と呼ばれながら主に地上に集落を持つ【近江】を出て、湖へ向かう。

 移動手段は飛行できる魔物に変化した漣だ。


 ある程度【近江】から離れた樹海の中で変化した漣に乗ると、敵だと思われて撃ち落とされることのないよう姿隠しの魔法をかけ、一気に琵琶湖まで飛んでもらう。



「琵琶湖は古くからヌシが棲むと有名な湖です。目的の危険種は比較的活発に動く肉食性ですから、餌を用意して釣りましょう。

 可能な限り湖を騒がせないよう、一気に陸上へ引きあげてください。かかったものが何であれ、その後は私が処理します」


 湖のほとりで鮫島少尉の注意と指示に「了解」と応じ、足元の雑草を引き抜いて魔法をかけて、丈夫で長い蔦状のものになるよう加工。

 その蔦の先端に、鮫島少尉が生け捕りにしてきた小型犬サイズの野鼠を結びつけ、触れた物をくっつける魔法をかけた。

 後は自分の体に強化魔法をかけて、準備完了。


 雑草で作った臨時の釣り糸を、湖の浅瀬へ放り込む。

 まだ生きている野鼠がもがいてばちゃばちゃと湖の水面を叩くのに、間もなく獲物がかかった。


 真下からきた大きな口がばくんと野鼠を飲み込んだ瞬間、私は力任せに右へ振って、餌に食らいついた獲物を陸上へ放り出す。

 現れたのはコイに似た巨大魚だ。


 待ち構えていた鮫島少尉が腰の刀を抜いて、一刀両断。

 その頭部を斬りおとす。


 あまりにも鮮やかな動作に、すぱっと切り離された頭部と胴体から、数秒遅れて体液が噴出した。

 その時にはすでに私も鮫島少尉も退避済みなので、どちらも返り血を浴びることはない。


「次の餌にはこの魚を使いましょう。譲葉少佐は釣り糸の準備をお願いします」

「了解」



 なかなか目的の危険種がかかってくれない上、一体で数個の実しか採れなかったので複数体捕まえなければならなくなり、合計十三回の一本釣りをするはめになって正直疲れた。

 しかしなんとか必要量を採取できる分だけ釣りあげたので、最後の一体から手際よく実を採る鮫島少尉を待つ間、近くの岩に座って葡萄酒を飲みながら休憩する。



 今日は天気がいい。

 空は青く、湖上を渡る風はおだやか。



 夜は何を飲もうかなーと考えながら、ぼんやりと細波立つ琵琶湖を眺めていると、突然びくっと体が震えた。

 本能が嗅ぎつけた強烈な脅威の接近に、思考が停止しかける。


 ほとんど同時に鮫島少尉が動きを止め、実を詰め込んだ袋を掴んで私のところへ来ながら言った。


「退避を」

「間に合わない。防御壁張るから、動かず静かに」


 鮫島少尉が答える間もなく、数十メートル先で湖面がぐぐっと持ちあがり、巨大な生きものが大量の水をまとって出現した。


 私は呪文の詠唱なしで自分と鮫島少尉を覆う七重の防御壁を張ったが、その生きものがまとう水が滝のように降ってくると、あっさりと三枚の防御壁が破壊された。

 そんなバカなと思うが、落ちてくるのはただの水ではないようだ。

 出現した生きもののまとう魔力を含んで攻撃魔法のようになった、水という形の“槍”が防御壁に降りそそぐ。


 残る四枚の防御壁を維持するのに必死になったが、メリメリと嫌な音を立ててヒビが入り、時間が経過するにつれて耐えきれず壊れていく。


 右肩の珠の中で主の窮地を察したシガーが吠えたが、水相手に炎属性の魔法生物が出てきても何ともならない。

 君はそこにいなさい、と強く命令して珠の中に押しとどめた。


 そうしている間にも防御壁は残り二枚になり、またバキンと耳障りな音をたてて破壊され、残り一枚となる。



 水煙で周囲は何も見えず、落ちてくる水の勢いがゆるむこともない。



 ヒビ割れていく最後の一枚の防御壁の中で、思った。





 あー……


 これはちょっと、無理かも。





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