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だうん  作者: 篠義
1/7

そのいち

「あほは風邪ひかへん」 というのは迷信やと思う。なんせ、うちのあほが、今、ひいている。職場で貰ったらしく激しく発熱して喉が腫れているので声も出ないし、飯粒も喉を通らないという本気の風邪だ。

「病院行くで? 」

 インフルエンザでは、市販の風邪薬では太刀打ちができない。最初は熱があるだけだから、と、市販のやつを飲ませたが、悪化した。いや、悪化させやがったが正解だ。大人しく寝ていればいいものを、このバカは、天気がいいからという理由で、この寒空に網戸を洗い、ついでに、風呂場のカビとりとかしてやがったからだ。

 帰宅した俺が、びっくりするぐらいの発熱模様で、夜間の救急診療へ走ろうかと考えたほどだった。大したことはない、と、当人は言うので、とりあえず、朝まで様子を見た。実のところ、インフルエンザなら、この発熱で菌は死ぬから、翌日には楽になるかもしれないと思ったのも、様子見の理由だ。だが、現実は、まだ熱が治まらず、呻いているので、あほの健康保険を用意した。それを見るたびに、俺は、少し寂しい気分になる。お互いがお互いと、結婚していると思っているが、現実には、養子縁組でもしない限りは、俺たちは、ただの同居人ということになる。だから、健康保険証も別々だ。

 今は、そんなことを考えている場合ではない、と、気分を切り替えて、花月の部屋に入る。

「・・・うー・・・・・」

「あ? 仕事か? 休んだがな。おまえが、そんなんではオチオチしてられへん。とりあえず、病院で抗生物質と点滴してもらって、昼から出る。」

「・・うーうーうーうーうーうー・・・」

「じゃかましいっっんじゃあっっ。どっかのあほが、余計なことしくさるから、俺は半日も有給を潰すんじゃあっっ。どあほっっ。」

 病人が、心配しなくても、自分で行くとかぬかしたので、蹴りを見舞って、その頭にコートを叩きつけた。熱は39度を越えている。受付けができるわけがない。総合病院は、さすがに混むだろうから、近くの内科へ出向いた。




 いや、もう、わかりすぎるほどわかる診断結果だった。

「インフルエンザですね。脱水症状を起こしてますから、点滴します。」

 一時間ほどかかるということだったので、俺は、処置室から待合に出た。それから、病院の玄関を出て、外でタバコをふかす。あほが、あんなに酷い風邪をひいたのは、あまりないことだ。だいたいは、自分のほうがひく。


・・・・もしかして、俺のほうが介護するとか言うことも有り得るんやな?・・・・・


 年をとれば、それなりに身体も弱る。至極健康体のあほだって、どうなるかわからない。寝たきりになったら、世話をするのは俺の仕事だ。


・・・・まあ、かまへんけどな。それはそれで。・・・・・


 よぼよぼしたあほの世話をするのは楽しそうだ。いや、俺も年とってるから、「辛いのぉー」 とか愚痴るのかもしれない。そんな想像していたら、おかしくて頬が勝手に緩んだ。別れている未来が思い浮かばないからだ。


・・・・喉が腫れてるから、お粥ぐらいか・・・・


 とりあえず、食事をさせなければ、と、シュミレートして、病院の中へ戻った。点滴が終わるまで、待合室で、ぼんやりとしていたら、つい、うとうとしていた。


 


 病院から抱えるようにして、家に戻って、とりあえず、ベッドに叩き込んだ。メシを食わさないと、次のクスリが飲ませられない。

「やっぱ、お粥さんやろな、ここは。・・・いや、ぐたぐたのおじやのほうが栄養あるか・・・うわっ、野菜があらへんやんけっっ。」

 メニューを決めて、冷蔵庫を覗き込んだら野菜がない。そういや、昨日は、メシを食っていないし、その前は、具合が悪かったあほのお陰で、月見うどんだけというメニューだった。いつもは、あのあほが買い物しているわけだから、具合が悪くて、何もないのは当たり前だ。

 とりあえず、お粥を白米から炊いて、梅干としらすを用意して、それで、午後になっていた。

「花月っっ、ちょっと起きろ。」

 手が一杯だったから、足で、あほの身体に軽く蹴りを見舞う。もそもそと動いて、よれよれのあほが顔を出した。

「・・・うーー・・・」

「なんでもええわ。メシ食うて、クスリ飲め。」

 点滴と注射で、ちょっと持ち直したあほは、ゆっくりと起き上がった。よくよく考えたら、俺が具合が悪い場合と、その対応が雲泥の差だ。あほは、ものすごく甲斐甲斐しい世話をする。俺が起きるのも難儀な時は、そのまんま、「あーん」 と、寝たままでメシを食わせてくれるのだ。

 俺には、そこまでの世話はできないので、というか、そんな恥ずかしいことをしてやったら、末代まで、あほに言いまくられるだろう。

「ほら、茶碗持てるやろ? 」

「・・うーーー・・・」

「あ? 俺か? 後で食うから、おまえは病人の時ぐらい、大人しくしとけ。」

 で、まあ、このあほな病人は、それで言うことなんか聞く訳もなく、うーうーと、手を台所へと向けて、「おまえも、ここで食え。」 と、真剣な顔をして睨む。なぜ、そういうことに気づくんだろうか、と、思いつつ、俺も茶碗を持ってきて、一緒に、お粥を食った。

「・・・ほか・・・」

「別にええ。ああ、俺、ちょっと職場に顔出して買い物してくるわ。おまえは寝とけよ。」

 栄養が足りないから、他のものも食えと言っているらしいので、適当に誤魔化した。別に、それほど空腹ではない。一膳のお粥を平らげたので、クスリを飲ませた。これでいいだろうと立ち上がったら、また、うーうーうーとお粥の入ったままの俺のお茶碗を指差す。

「もうええ。俺は出てくる。」

 病人の横で、もっちゃりもっちゃりとお粥なんぞ食ってる場合ではない。半日有給だから、かなり遅刻している。慌てて、着替えて家を出た。半年前に入った俺の部下が、とりあえず、本日業務はこなしているはずだから、それのチェックだけはしなければならない。それから、買い物して、晩御飯を食べさせないといけないから、あまり時間がない。


・・・もう、なんでもええわ。とりあえず、金が滞ってなかったら、そのまんま、ぶちこんどいたらええやろ。・・・・


 乱暴な作戦を考えて、俺は階段を駆け下りた。






・・・なんとか、熱が下がったな・・・・・


 うつらうつらと寝て、ようやく起きたら、楽になっていた。とはいえ、やっぱり、喉が腫れていて声はない。汗でべたべたになったパジャマを着替えようと起きあがった。

 ついでに、汗だけ流しておこうと、風呂場へ着替えと共に移動する。そして、着替えたものを洗濯機に放り込んで、中身を確認して、溜息をひとつついた。


・・・・着替えぐらいしとけよ、水都・・・・・・


 自分の分しか入っていない洗濯機の現状から察するに、シャワーすら浴びずにいるらしいことが判明する。おとついに、洗濯したから、昨日からということになるが、たぶん、当人は気づいていないんだろうと、俺は、がっくりと肩を落として、風呂場へ入った。

 俺の嫁は、些か人生を投げているので、自分のことには興味がない。たとえば、食事とか入浴とか睡眠とか、普通は、無意識にやることすら無視できてしまうからだ。発熱して食事の準備すらできなかったから、昨日は何も食べなかったはずだ。今日も、俺のお粥を、ちょっと食べただけで、仕事に出てしまった。


・・・・あいつ、昔よりひどなってないか?・・・・・・


 昔は、一応、一日一食ぐらいは食べていたはずだ。それすら、どうでもよくなっているとしたら、人生投げ遣り度数が確実にアップしている。

 熱いシャワーを浴びてから、水を飲んで、冷蔵庫の中を覗いた。買い物していないから野菜がない。冷凍している常備菜はあるが、それだけでは心もとないので買い物に出ようかと、普段着に着替えて財布を手にした。


・・・・うーん、俺も食われへんから、高野豆腐とか、エンドウの卵とじとか、そういうのでええかな・・・・・


 玄関に向かったら、そこで、思わず立ち止まった。玄関の扉に、折込みチラシの裏全面に書かれた、「出たら、ぶっ殺す」 の文字が目に入ったからだ。

「ぶっっ、ははははー・・・・・あーいてぇーーーー・・・・笑かすなよ・・・・・」

 それも、急いでいたのかガムテープで貼り付けてある。心配してのことらしいが、あまりにも乱暴な殺し文句に笑ってしまった。


・・・・そういや、買い物してくるとか言うてたな・・・・・・


 おぼろげな俺の嫁の言葉を思い出した。たぶん、何か買ってくるのだろう。それなら、待っているとするか、と、俺は居間へ踵を返した。






 動くと熱が上がるらしく、こたつで、大人しく横になった。ウィークデーの午後なんてものは、碌なテレビもないからつけていない。

 のんびりと外の音を聞いている。もしかしなくても、俺が介護必要な状態になったら、あいつのほうが先にくたばるだろうと思った。自分に対する世話を一切しない俺の嫁は、俺のことしかしないだろう。どんどん顔色が悪くなってやつれていく俺の嫁を、黙って見ていなければならないとしたら、俺は、かなり辛い。「食事をしろ」、と、言っても、「食べた」と言われ、「横になれ」 と言っても、「今、忙しい」 と、怒鳴られたら笑うに笑えない。


 手を離すつもりはない。


けれど、人生何があるか、先のことはわからない。


・・・・・やっぱ、俺が動けなくなったら、あいつを道連れにするほうが楽やろうな・・・・


 たまに、ふと思うことだ。俺が世話をしなくなれば、完全に人生を投げてしまうだろうから、それなら、そうするほうがいいのかな? と、考えてしまう。


・・・・いや、まあ、俺が看取ったったら、それで済むことやけどなあー・・・・・・


 健康であり続ける必要がある。お互いに、健康であれば、こんなことを考えなくていい。


・・・・帰ってきたら、風呂に入れって言わなあかんな・・・せやせや・・・・・


 散らばっている折込みチラシを集めて、俺もペンを手にした。「風呂入れ、カビるぞ。」 とか「餓死する前にメシを食え。」 とか 「毎日、パンツぐらい履き代えろ。」 とか、思いつく限りのことを書きなぐって、こたつの天板にガムテで貼り付けておいた。






 使えねぇーと、文句を吐きつつ、タクシーで家に帰ったのは、十時を回っていた。無理矢理に夕刻に終わらせようと思っていたら、部下は、ちっとも仕事をしていないことが判明して雷を落とすことから始まり、ついでに、その部下たちに泣かれて時間がかかり、余計に仕事が遅れた。泣いて済むのは、学生だけだ、と、再度、怒鳴りつけて、やるべきことをやらせて、自分の持分も処理していたら、そんな時間だ。結局、買い物は、会社の側のコンビニで買うので手一杯だった。


・・・・・とりあえず、これを食わせて、ほんで、薬飲ませたらええか・・・・・・


 手にしたコンビニの惣菜と冷凍うどんを覗きこんで階段を上がる。汗をかいているだろうから着替えも必要だろうし、シーツも代えなければならないだろう。いろんなことを考えて、部屋の鍵を開けた。

 エアコンが効いていて室内は暖かい。居間へ入ると、こたつに、同居人が沈没していた。机の上には、作り置きしたお粥と梅干と、飲んだと思われる薬の袋がある。


・・・・せやんなあー腹は減るもんなー・・・・


 間に合わなくて申し訳ないと思ったが、今、ここで眠っているなら、先にベッドのシーツを取り替えようと、荷物を置いて立ち上がった。

「やっぱりか? なんで大人しいしてられんのやっっ、あのあほはっっ。」

 部屋に入って開口一番叫んだ。きっちりとベッドメイクされているベッドから察するに、シーツを取り替えたらしい。もしや、と、自分の部屋も覗いたら、同じように綺麗になっていた。暗くなってはいるが、ベランダには白いものがひらひらとしているのも判明した。

 つまり、病人は自らで着替えて、さらに、シーツも取り替えて、ご丁寧にも、自分の分もやってくれたらしい。病気の時ぐらい、そういうことはしなければいいのに、と、俺はがっくりと肩を落とした。




 水分と栄養は補給しなければ、と、ゼリー飲料とポカリを袋から取り出した。こたつの上を片付けておこうとしたら、下から、「パンツぐらい履き換えろ」 とか「風呂に入れ、かびる」 とか「メシを食え、痩せたら抱き心地が悪い」 とか、もう、それは、どんな悪口なんや? というような文字が書かれたチラシの裏が現れた。

「おっおまえなー、なんじゃっっ、これはっっ。」

 極めつけが、「いくら俺が物好きでも、すえた匂いのする嫁は舐められへん」 という文字だ。

「舐めんんでええわいっっ。」

 ガムテで止められた、それらを、びりびりと引き剥がし、空っぽの鍋に投げ込んで台所へ運んだ。騒々しい物音で、病人も目を覚ましたのか、もそもそと起きて、「おうー」 と、声を上げた。

「花月、とりあえず、これ。マルチビタミンとブドウ糖を摂れ。」

「・・うー・・・おま・・・めし・・くえ・・・」

「いや、俺はええから。すまんな、仕事が長引いてしもて・・・・ていうか、洗濯なんかすんなよっっ。こういう時は、嫁の俺がするもんや。」

「・・・ひまで・・のーー・・・・ん?・・・うどんか? ・・・」

 朝よりは、幾分かマシな顔色で声も出るようになっていた。食卓のコンビニ袋を目ざとく見つけて、花月は立ち上がった。

「ああ、食うか? 」

「・・・いや・・・おまえ・・・・」

「俺はええから、それを吸え。ほんで、ちゃっちゃと寝ろ。」

「あー? おまえ・・・食うまでは・・・寝られん・・・・風呂も・・・」

「あほやろ? おまえ。俺のことはええ。」

「あかん。」

 花月が、物凄く真剣な顔で、俺を叱る。俺は、かなり壊れているので、自分のことは考えない。いつもは、花月が、俺の世話をする。そうしないと、俺は何もしないからだ。だが、こういう時ぐらい、自分の身体のことだけ考えていて欲しいとは思う。俺は成人しているし、至極健康ではあるのだから、数日ぐらい放置しても壊れたりはしない。

「二、三日ぐらいええ。」

「あかん。」

 もう一度、叱られる。わかってはいるが、自分には興味がないのだから仕方がない。あんまり目が真剣で、ちょっと視線を下げたら、そのまんま、花月は台所へ行って、さっさと冷凍うどんをコンロに仕掛けた。

「・・・これもな・・・・ほんで、風呂・・・・」

 袋から取り出したゼリー飲料を、無造作に口に突っ込まれて、それから、花月は風呂場を指した。風呂に入れ、ということらしい。




 結局、風呂に入って、うどんを食べたら俺は、花月のとなりで寝た。そうしないと眠れないくらい神経が高ぶっていたらしい。とんとんと背中を叩かれていると、どっちが病人かわからない。でも、この温かさが素直に嬉しいとは思う。

「・・・すまん・・・」

「・・・ええって・・・・仕事やから・・・・しゃーないやないか。」

 看病も、碌にできていないことを謝ったら、また、トントンと背中を叩かれた。花月は、いつも変わらず、俺のことを世話してくれるというのに、俺は、その半分もできていないのが、ちょっと残念だ。

「・・・ちゃんと、寝ーや・・・」

 おとついあたりから、あまり、ちゃんと寝ていなかった俺は、花月にあやされて気が抜けて目を閉じた。






 十分な睡眠とクスリで、どうにか風邪は、マシになった。とはいえ、声が出ないので、とりあえず、もう一日休むことにした。メールで同僚の御堂筋に、連絡しておいたので、うちの課長にも話は届いているだろう。ここんとこ、インフルエンザが蔓延しているので、休んでも文句は出ない。順番に、ひいているから、三日四日はダウンしているからだ。

「何もすんなよ? 」

「おうー」

「昼飯は、冷凍うどんな? コンロに置いてるから、昼ごろには溶けてると思うんで、それを食え。それから晩飯は、なんか買ってくる。遅くなったら、作ってあるお粥で凌いどいてくれ。」

「おうー」

 俺の嫁は、スーツに着替えつつ、ドタバタと暴れている。昨日はぐっすりと寝ていたから、体調はいいらしい。こちらも熱は、ほとんど下がっているから気分的には楽だ。とりあえず、具合がいいようなら買い物ぐらいは行こうと思っている。俺は、まだ、あんまり食えないからいいのだが、俺の嫁がスタミナ切れするといけないから、トンテキでもするかと考えていた。

「花月っっ、聞いてるかぁーっっ」

「おうー」

「今日ははよ帰るからっっ。」

 と、飛び出していった俺の嫁だが、結局、午前様で戻ってきた。そんなに忙しい時期でもないのに、おかしいなーと思ったが、仕事のことは、あまり聞かないようにしている。お互い、職場の愚痴は言わないのが暗黙の了解ごとだからだ。


 以前、俺が上司の愚痴ばかり零していたら、「俺に聞かせることか?  」 と、俺の嫁に質問されてしまった。確かに、あまり聞かせていいものではないし、愚痴ってばかりの旦那なんて幻滅されそうだ。聞かされても解決策もないものなんて、相談しているわけではない。ただ、負の言霊を嫁に浴びせているだけだ。嫁が怒るのも無理はない。それに、俺の嫁は、そういうことは何も言わない人間だった。

 だから、あれから、職場の愚痴は一切口にしないことにした。嫁からも聞いたことはない。でも、ちょっと心配になった。

「なんかあったんか? 」

「いや、なんでもない。あほがいろいろとしでかしよるんや。すまん、遅くなって。」

 買い物して料理したものを食卓に並べたら、嫁は少し困った顔をしてから、「おおきに。」 と、笑った。

「明日から復帰するんで、リハビリや。」

「高野豆腐とマメの卵とじって春やなあ。」

「せやなあー野菜の季節は先取りやからな。とりあえず、これ食べて、おまえは風呂入り。」

「・・うん・・・」

「前にも言うたと思うけどな。俺は、無理して、おまえが働くんは反対や。おっさんへの礼やっていうても、もう十分や。せやから、おまえ、専業主夫になってもええねんぞ。」

 毎晩のように残業している姿を見ていると、ついつい、そう言ってしまう。確かに、水都は人よりは稼いでいるが、俺も稼いでいるから、別に、貧乏ではない。無理してひっくり返る前に辞めて、バイトでもしてたらええと、俺は再三再四勧めている。高校生の時に、水都は年齢を詐称してバイトで入った会社に、いまだに勤めている。その時に、年齢のことを黙っていてくれたのが、堀内というおっさんで、いろいろと世話になったらしい。だから、その世話になった礼も兼ねて、水都は、多少、仕事がきつくても、そのまんま働いているのだ。それだって、もう足掛け十五年以上も働いているのだから、お礼奉公も終わっていると、俺は思っている。

「せやな。専業主夫もええかもな。」

 なんだか疲れているらしい俺の嫁は、そうぽつりと呟いて、春らしいおかずを口にした。


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