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紅絹と白蚕

作者: しじ
掲載日:2025/11/10

初投稿です。

地元の河川を擬人化してなんか色々とオトナな関係を書いてます。

自分なりの解釈・・・?

*実際の団体や人物とは関係ありません*

紅絹(もみ)白蚕(しろかいこ)


栃木県東部から茨城県西部にかけて、二つの川が平行に流れている。

ひとつは鬼怒川(きぬがわ)、もうひとつは小貝川(こかいがわ)。かつては本流と支流で、合流と分流を繰り返しながら、やがて一つの流れになって香取海(かとりのうみ)(現在の茨城県・千葉県に存在していた内海)に注いでいた。

その流れのごとく、鬼怒川の龍神・鬼塚恕彦(おにつかひろひこ)と小貝川の龍神・小貝山美姫(こかいざんみき)は、深く愛し合う夫婦だった。

永遠と思われた絆――しかし、一六二九年。すべては一瞬で切れた。

江戸開発のため、利根川の東遷工事が行われ、かつて一つだった鬼怒川と小貝川は分かれた。これとは違う理由だが、二人も川の流れが変わったように、関係も断ち切られたのだ。小貝川側からの一方的な離婚宣言。理解も理由もないまま、愛は消えた。

四〇〇年年後――

近代化が進み、利根川水系は首都圏を守る組織として縦社会を築いた。

頂点に立つ利根川の龍神・利根野太郎(とねのたろう)の下、一次・二次と階級が定められる。

その中で、二人は利根野の右腕「三龍神(さんりゅうじん)」として(いち)()と、再び隣り合うことになる。

地理的距離は近く、しかし心は遠い――それが運命というものか。


鬼塚恕彦の視点

俺は鬼怒川の龍神・鬼塚恕彦。利根川水系「三龍神・初番手(いちばんて)」だ。

今日は月に一度の利根川水系上層部会議。群馬のみなかみ町、利根野さんの屋敷の一室だ。政治家の仕事以外でここに来るのは久しぶりだな。席に座り、ぼんやりそんなことを考えていた。 すると、隣に誰かが腰を下ろす。

「鬼塚さん、おはようございます!」

「おお、おはよう、瀬次郎君」

参番手(さんばんて)渡良瀬川(わたらせがわ)の龍神・渡辺瀬次郎(わたなべせじろう)君だ。軽く会釈した彼は、手元の資料に目を落とし、読み始めた。少し間抜けな笑顔が、場を和ませる。

今日の資料、確か流域の水害対策に関する重要な議題だったな。

栃木県にも関わるから、後で県大精霊様に報告しないと…。

そういえば明日はまた早朝から県議会の会議だったよな。

・・・・全く、政治家と両立させようとすると本当に身が持たない。

そう心の中で呟いていると、離れた席から椅子の引きずる音。

瀬次郎君が「こんにちは」と会釈する声。

・・・・美姫だ。 俺は資料に目を落とすふりをするが、意識は彼女に引き寄せられる。小貝山美姫。三龍神・弐番手。かつての妻。

いや、もう違う。 その名前を思うたび、胸に鈍い痛みが走る。

一六二九年のあの言葉が蘇る。

「もう貴方とは一緒にいられません。出ていきます」

それが最後の会話だ。あれから四〇〇年、彼女とは一言も話していない。

わからない。なぜこうなったのか。俺が何を間違えたのか。

あの夜、彼女の寝巻の隙間から見えた無数の痣と切り傷。気のせいだったのだろうか?

色々美姫には疑問が多く問い詰めたいが、彼女は冷たく無視するだけだ。

・・・・きっと、知らない内に俺は取り返しのつかない過ちを犯したんだろう。

だから俺にできるのは、遠くから彼女を眺めることだけ。

資料に目を落とす彼女の横顔。青い瞳が、痛いほど美しい。

あの目をもう一度こちらに向けたい。それが身勝手な願いだとわかっていても。 ふと、美姫が「瀬次郎君」と声をかけ、顔を上げる。一瞬、青い視線が俺とぶつかる。

「・・・・・!」

その目は鋭く、氷のように冷たかった。はっきりと拒絶の意思。

胸が締め付けられる。俺は臆病にも視線を逸らした。

「はい?」

瀬次郎の呑気な声が、なぜか耳に痛く響く。

二人の愛は永遠のものだったはずなのに。美姫もそうだと思っていたのに。

そう思っていたのは、俺だけか。・・・・・いや違う。

あの優しかった美姫を、俺はここまで変えてしまったのだろうか・・・・・。


小貝山美姫の視点


私は小貝山美姫。小貝川の龍神。

今日は利根野さんの屋敷で、月に一度の最高幹部会議。

はぁ、憂鬱だ。だってあの人が来るから。 会場に着くと、案の定。

鬼塚恕彦こと恕彦さんがいた。三龍神・初番手。かつての夫。

何事もないふりで席に近づく。

幸い、瀬次郎君が隣にいたから、最悪の状況は避けられた。

「こんにちは」と会釈してくれる瀬次郎君。

ありがとう、瀬次郎君。こういう瞬間に、密かに感謝しているわ。

資料を手に取り、読み始める。ページをめくるたび、指先に力が入る。

何度も読み込むふりをするのは、彼を視界に入れたくないからだ。

かつて流域も関係も密接だった。だけど、一六二九年を境にすべてを絶った。

それでも運命は意地悪だ。「三龍神」の立場で、同じ場に立たせるなんて。

紅い髪、端正な顔。数えきれない女性たちを魅了してきたのが、ひと目でわかる。

・・・あぁ、見るだけで腹の底から怒りが湧く。

あの男の腹黒さを知っているのは、私だけだ。

私は信じていたのに、あの男は私の身体と心を平気で踏みにじる様な奴だ。

自分の手は汚さず、周りの使える存在を操作して精神を蝕んだ・・・!

思い出すだけで体中に刻まれた切り傷と剝がされた鱗の跡が疼く。

私がどれだけ傷ついたか…。

許せない。こんな男が初番手だなんて。

いつか必ず抜いてやる。実力で初番手の座を奪い、彼を見下ろしてやる。

この屈辱を、絶対にわからせる・・・・・・!

ふと、嫌な視線を感じる。瀬次郎君に話しかける口実で顔を上げる。

予感通り、恕彦の金色の目と視線が交錯した。

高貴な貴族の出身特有の、優しく気品ある目__でも、すぐに彼は慌てて顔をそむけた。

その瞬間、胸がざわついた。

いや、違う。これは私を貶める演技だ。

そう言い聞かせ、氷のような目で彼を睨み、拒絶の意思を叩きつける。

あの時から今まで、彼への不信感は変わらない。

あの男が囁いた言葉、周りを操る甘い笑顔。私は今でも覚えている。

幼いころは夢を見ていた愛も永遠も、すべて幻だった。

きっと彼は私の怒りにすら気づいていないだろう。

むしろ、自分の自惚れの為のトロフィーの一つとでも思っているんだろう。

そういう男だ。

・・・・・・なのに、なぜ?

憎いはずなのに、時折胸が締め付けられ、涙が溢れそうになる。

嫌いなはずなのに、彼を見るたび惨めな思いがこみ上げる。

私があの人をまだ好きなんて、そんな事ありえないのに・・・・。


____でも、もっと私が深く愛していれば、こうはならなかったのかな。



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