番外編 天使アリス、まだ希望を持っていた頃
天界転生管理局・地球課に配属された日のアリスは、とても浮かれていた。
「地球課ですか? はいっ、よろしくお願いします!」
白い制服。
転生案内用の端末も、まだ手に馴染んでいない。
(人の人生の節目に立ち会える仕事なんて、素敵……!)
神の言葉は、今も胸に残っている。
「挑戦する魂は尊い。多ければ多いほど良い」
その理念に、疑問はなかった。
「まずは一日の流れを説明するわね」
指導係の先輩天使――リディアが、記録板を開いた。
「地球課の転生処理上限は、基本5人」
「5人ですか! ちょうどいい人数ですね!」
「理論上は」
「……理論上?」
リディアは微笑んだまま、別の表示を開く。
本日の転生予定者:30名。
「……え?」
「今日は少ない方よ」
「す、少ない……?」
「神様のご機嫌次第。昨日は50」
アリスの笑顔が、わずかに固まった。
最初の転生者は、鑑定スキル持ちの少年だった。
「すごい! 勇者ですね!」
アリスがそう言うと、少年は目を輝かせた。
「はい! 世界を救ってきます!」
光の門が閉じる。
達成感が、確かにあった。
2人目、3人目、4人目。
スキルは剣聖。魔法帝。無限努力。
(わぁ……本当に、勇者ばっかり……!)
だが5人目を終えた瞬間、端末が鳴った。
《未処理魂:残り25》
「はい、続き行きましょう」
「え、でもやっぱり上限が……」
「上限は“努力目標”よ。まるで私たちに与えられたスキルみたいね」
リディアは事務的に言った。
転生者たちは皆、前向きだった。
「俺、このスキルで強くなれますよね?」
アリスは一人ひとりに笑顔で答えた。
「はい! きっと!」
そう言いながら、端末操作は次第に早くなる。
20人目を超えたあたりで、指が震えた。
「……あの、リディアさん」
「なに?」
「この人数、向こうの世界……大丈夫なんでしょうか」
リディアは少しだけ考えてから答えた。
「統計上は、問題ないことになってるわ」
「……統計」
その日の業務が終わった頃。
アリスは椅子に沈み込み、深く息を吐いた。
「……思ってた仕事と、違いました」
「うん。そうだろうね」
「でも、やりがいは……ありますよね?」
リディアは少しだけ、目を逸らした。
「最初はね」
数日後。
アリスは、転生リストを無言で確認していた。
名前。年齢。死因。スキル。
淡々と処理できている自分に、気づいてしまった。
(……あれ?)
隣の席に、同期のセイレーンが座る。
「アリス、もう慣れた?」
「……ええ。少しは…」
その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
光の門が、また開く。
「天界転生管理局・地球課です。次の方、どうぞ」
その微笑みは、まだ優しかった。
でも、ほんの少しだけ――現実を知り始めていた。
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