終わらない転生、終わらない仕事
天界転生管理局・地球課。
今日も光と書類とため息が、見事な三重奏を奏でている。
私はいつものように、転生リストを確認していた。
そして、思わず息をのむ。
「……討伐、完了?」
透明な記録板の上、神からの速報メッセージが点滅していた。
【速報:コロラット王国 魔王討伐成功】
勇者たちによる協同作戦が功を奏した模様。
勇者生存率:5%
「……やっと、終わったのね」
セイレーンがコーヒー片手に顔を出す。
「え、ほんと? 魔王、やっと倒れたの?」
「ええ。“無限努力”持ちがラストで頑張ったらしいわ。」
「すご……。いや、長かったねぇ……」
感慨深げに二人で見上げる天界の天井は、いつもより少しだけ明るく見えた。
「これで、勇者転生も終わりかな。ようやく残業減るじゃん」
「そうね……やっと、少し休めるかも」
私は椅子にもたれ、久しぶりに深呼吸をした。
仕事を終えた達成感。静かな幸福。
天界にも、ようやく春が来た――
……と思った、その瞬間。
通信石がチカチカと光り出す。 嫌な予感しかしない。
【至急:地球課職員アリスへ/神より】
「……来たわ」
「いやいや、もう案件ないでしょ!? 魔王倒れたのに!?」
私はおそるおそる通信石を開く。
『アリス、朗報だ! 魔王がこちらに来た!』
「……朗報?」
『魔王が死んで、魂が天界へ転送されたんだ! 魔王は地球出身の人間だったんだ!』
「えっ、地球人!?」
『うむ! 地球出身の元ゲーマー、加藤 直哉(享年27)。 今回の死因はもちろん、勇者による討伐』
「……地球出身の魔王、だったんですか」
『そうだ! つまり君たち地球課の担当である! 転生手続き、よろしく!』
「……終わらないわね、この仕事」
セイレーンがそっと肩を叩く。
「がんばれ、アリス。勇者も魔王も、地球人はみんなお客さんだよ」
「お客さんが多すぎて、サービス残業なんですけど」
転生ホール。
白い光の中に、黒いローブの青年が立っていた。
どこか気怠げで、それでいて不思議と威圧感のある目。
「……ここ、どこだ?」
「天界です。あなたは異世界での生を終え、再び転生の手続きを受けることになります」
「……勇者どもめ。最後の一撃、まだ痛い気がする……」
「魔王らしい最期でしたね」
「俺、地球じゃただのゲーマーだったんだ。転生して、魔王選ばれて、あれよあれよと討伐対象に。勇者の数、多すぎないか?」
「その件については、現場も困ってます」
魔王――いや、元魔王は小さく笑う。
「で、次はどこに転生するんだ?」
「本来なら、コロラット王国の人間として再転生の予定です。でも、もし希望があるなら……」
「……また魔王でいい。負けたまま終わるの、性に合わない」
「……また、魔王、ですか」
「うん。次こそ勇者たちとちゃんとした戦いをしたい」
彼の目には、確かに炎が宿っていた。
「かしこまりました。では次に、転生スキルを設定します。前回はユニークスキルなしでしたよね。今回からは付与することになりました。“再生”“炎帝”“竜化”などたくさん候補はありますが…」
「“分身”で」
「分身?」
「ああ。“俺が多すぎて勇者が足らない”くらいがちょうどいいだろ?」
「……勇者と魔王、どっちも多すぎて崩壊しません?」
「それもまた、面白いじゃないか」
そう言って笑う元魔王は、どこか清々しかった。
光が満ち、彼の姿が消える。
私は記録板に「転生完了」と打ち込みながら、ため息をついた。
「……勇者が多すぎて世界が回らない。魔王が増えて、世界がまた回らなくなる。 うん、結局、世界ってバランス取る気ないのね」
デスクに戻ると、セイレーンが書類を抱えていた。
「アリス、神様から新しい通達来たよ」
「もう嫌な予感しかしない」
「“これからは勇者だけでなく、魔王側の転生希望も受け付けることとする”だって」
「…………まじ?」
「うん。業務拡張だって」
「拡張とか、もう限界突破よ……」
二人で顔を見合わせ、苦笑する。
窓の外、天界の空が穏やかに光っている。
勇者と魔王の戦いが終わっても、魂は流れ続ける。
世界は終わらない。仕事も終わらない。
「……ねぇ、セイレーン」
「ん?」
「もし転生できるなら、私たち、どんなスキル欲しい?」
「うーん……“残業カット”かな」
「私は“コーヒー自動補充”」
「それ、神より有能じゃん」
二人の笑い声が、天界の空に溶けていく。
――今日もまた、新たな転生者がやってくる。
勇者も、魔王も、誰かの希望も、全部まとめて。
そしてアリスは、そっと記録板を開いた。
「天界転生管理局・地球課。次の転生、受付開始します」
その声は、少しだけ誇らしげだった。
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