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どうしても赤ちゃんがほしかったので神様におねがいしに行ったら・・・たいへんなことになりました  作者: ナナダイク


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第三話 今、魔法にできること (4)

 4



 パーク内はディザスターの名に相応しい様相であった。


 老若男女を問わず全ての人間がよそ行きの顔をかなぐり捨てて、自分だけでも助かろうと躍起になっている。しかし、園内に安全な場所などない。入出口は銃を手にしたイルカ人間に押さえられており、狙撃手が至る所に潜んでいるのだ。地震や火事に対する避難訓練なら経験の機会も多くある日本人だが、テロや戦争を想定した訓練は自衛隊など特殊な職業に就かない限り、一度も経験することなく一生を終える者がほとんどだろう。そのため、大勢の者たちはどう行動すれば正解なのかがわからず、無駄に体力を消耗させ、精神を疲弊させ、右往左往するばかりなのである。


「どけっ!」

 Tシャツの上からでも筋肉の起伏を見て取れる大男が、小さな子供を連れた女性を容赦なく突き飛ばす。

 倒れる女性と子供。女性は子供の上に覆い被さり、身を挺して子供を守ろうと必死の形相だ。だが、死に物狂いの群衆の目には、それが道に捨て置かれた粗大ゴミに見えるらしい。邪魔な起伏と唾棄し、踏み越える者が後を経たなかった。


 そんな大衆を軽蔑の目で見下ろす男がいた。


 短い頭髪は白金色の、双眼はアイスブルーの光を宿している。年齢は四十代前半くらいだろうか。黒いTシャツの上にGOSTーR規格のボディアーマーを着込んでいるが、それが無用に思えるほど鍛え抜かれた体躯をしていた。顔には無数の皺と傷が刻まれており、只者でない風格を漂わせている。


 彼のいる場所は建物の屋上に設置されたガーデンテラス。ベンチやガーデンテーブル、ガゼボまでが設置されており、普段は従業員に憩いを与える福利厚生施設として活用されているのだろう。しかし、今日は違った。ニオイバンマツリとシャリンバイの植え込みには五十口径の軍用対物狙撃銃を構えた狙撃手が潜み、ガゼボには厳しい表情の男女が集っている。眼下を睥睨していた男もその場を離れ、ゆっくりとガゼボに向かう。


「Иза беламе ду. ТӀаьххьарчу тӀамехь йоккхачу пачхьалкхана дуьхьал ша цхьаъ тӀом бина пачхьалкх хӀинца оцу хьолехь чекхъяьлла. 《滑稽なもんだ。先の大戦で大国を相手に孤軍奮闘していた国が、今やこのザマとはな》」

 幅の広い肩を器用にすくめて両掌を上に向けた男は、嘲笑を含む声で語りかける。

 だが、笑いは起きなかった。

 こちらはこちらで、なにやら紛糾しているようだ。


「хӀун хьала? 《どうした?》」

「This lady here says that all the dolphins in Japan should be set free... 《こちらのお姉さんが、日本にいるすべてのイルカを解放すべきだと言ってまして⋯⋯》」

 鼻にそばかす跡を色濃く残す童顔の青年がおそるおそるテーブルの向かいを指し示す。


 そこには差し込む陽の光を浴びて艶やかに輝く金糸の滝を擁した二十歳前後と思しき女性がいた。十人中十人が美人と形容するであろう容姿に加え、頭頂部から顔の輪郭を経て胸元へと流れ落ちる光の束が彼女に神々しさまで加えている。仮に人物を推し量る基準が美貌に限定された場合、彼女は神に準ずるカリスマとなることは確実だろう。実際に彼女の本業はファッションモデル、歌手、女優である。年齢イコール芸歴の彼女だが、過激な環境保護活動に身を投じた後も仕事の依頼が絶えることはなかった。


 また、彼女の声も魅惑的であるのだ。”Oceans Unite Us.”《海が私たちをひとつにする》という組織のキャッチコピーを読み上げる彼女の声がネットを通じて全世界に広まった結果、世界中から賛同者が殺到。活動支援金も小国の国家予算並みに増え、経済的問題が一気に解消した。今や彼女はTACOSIA(タコシア)(Team for Action in Conserving Oceanic Species and Inclusive Advocacy 《海洋種の保護と包括的な活動を行うアクションチーム》)の『顔』だった。タコシアの代表としてマスコミや政府関係者と対峙し、国連で演説を行うのである。彼女がいなければ、多くの人種を一つにまとめ、愛護のための行動を起こすこともできなかっただろう。


 マスコミが彼女につけたあだ名は”二十一世紀のジャンヌ・ダルク”。

 本人の耳に入っているかは定かでない。


 そのジャンヌ・ダルクは周囲の者たちに寄ってたかって宥めすかされた結果、頬を膨らませそっぽを向いている。

 年相応の女の子らしい仕草が実に愛らしく、ガゼボに集った者の表情も初孫に対面したジジのごとく大いに和らげていた。


 だが、穏やかな視線の集中砲火を嫌ったのか、女の子は助けを求めるかのようにガゼボ入口に視線を送る。そこに立っているのはチェチェン語を話す、あの屈強な男だ。

 男は人でいっぱいのガゼボ内には入らず、立ったまま入り口の柱に体躯を預けていた。


 男は少女のSOSに気づいていないらしい。

 視線の送り先に気づいたジジのひとり(性別的にはババであるが)が、男に労いの言葉をかける。

「Kolmen helikopterin samanaikainen hyökkäys aiemmin oli vaikuttava. 《先ほどのヘリの三機同時攻撃はお見事でした》」

「...Баркалла. 《⋯⋯どうも》」

「특수 무기를 사용 했습니까? 《特殊な武器を使ったのですか?》

「...Цигахь волчу стаге хатта. 《⋯⋯詳しくは向こうの彼に訊くといい》」

「Vielen Dank für die Einführung. 《ご紹介ありがとうございます》」

 ビジネスマン然とした小柄な男がにこやかに返事をする。


 話題の受け渡しを終えた男は、武器談話に関心を示す事なく静かにタブレットを眺めているモジャ頭に声をかけた。

「Като, цхьа мӀаьрго хан яккха мегар дуй? 《カトー、ちょっといいか?》」

「なんです、グラグさん。あらたまって」

 

 カトーと呼ばれた痩身の男が立ち上がる。


 彼は銃弾の飛び交う戦場よりも、白衣を纏って大学の研究室で顕微鏡を覗き込む生活の方がずっと似合いそうな色白で高身長の男だった。年齢は三十代半ばといったあたりだろうか。メタルフレームの丸眼鏡に寝癖もそのままのボサボサ頭、アイロンと出会った経験がなさそうな皺だらけのコットンシャツに年季の入った雪駄サンダルというだらしのない格好だが本人は気に留める様子もない。


 一見頼りないこの男こそタコシアの行動計画を立案し、そのすべてを成功に導いてきた組織の頭脳。つまり、作戦参謀なのである。軍事顧問兼インストラクターのグラグにとって、欠かすことのできない相棒なのだ。


「Цигахь и стаг ву лахахь ноншалантно къамел деш, мила ву и стаг? 《下で好き勝手にしゃべってる男なんだが、ありゃあいったい何者なんだ?》」

「ああ、アレですか」

 無精ヒゲにまみれたカトーの口元が楽しそうに歪む。


「なんとか小路って名前の元お公家さんらしいです。第二次世界大戦後の憲法改正で華族⋯⋯いわゆる貴族制度が廃止になりまして、それで日本を恨んでる者ですよ。世が世なら一生遊んで暮らせたのに! みたいなこと言ってましたし」

「Суна го... 《なるほど⋯⋯》」

「とりあえず、ヤツは生贄です。日本の警察は面目を潰すとしつこいですからね。今回の事件の首謀者として逮捕される予定になってます」

「Хмм 《ふむ》」

「⋯⋯なにか問題でも?」


「ХӀан-хӀа, хӀумма а дац. 《いや、大丈夫だ》」

「もしかして、気になってるのは”タコあし世界”ですか」

 カトーがニヤリと笑う。

 一拍置いてグラグも同じ表情を作った。


「なんとか小路さんにこの仕事の話をした時、なぜかタコの話題で盛り上がりましてね。彼は一時期タコ漁で生活してたらしいんですよ。そのせいか、タコに関する知識もなかなかのものでして。それで、”タコはすごい!” ”人類はタコに支配されるべきだ!” ”タコの支配を受け入れてこそ世界は平和で満たされる!” という話の勢いであの団体名が誕生したわけです。面白いでしょ」

 心底楽しそうなカトーに対して、グラグは苦笑に止めている。


「Амма вон хир дацара цунна сан юьхь гича? 《しかし、顔を見られたのはまずいんじゃないか?》」

 もっともな疑問にカトーは自信たっぷりにこう応えた。

「ご心配なく。あやつの脳細胞は毎日のアルコール摂取でとっくに死滅してますよ。その影響で相貌失認(そうぼうしつにん)を患っているようですし、記憶も二時間と持たないみたいです。逮捕されたとしても医療刑務所行きでしょう。倒壊寸前のボロアパートで孤独死するより、ずっと幸せな結末だと思いますよ」


 グラグは無言でその場を離れると、再び下界を見渡せるガーデンテラスの縁へ足を進めた。

 彼の脳裏では、先ほどからフロートの上で扇子片手に踊り狂うゴキゲンなイルカ人間が居座り続け困っていたのだ。実物を見れば対消滅するのではないか、そんな企みを胸に秘め、テラスを囲う落下防止の手すりに肘を乗せる。


 眼下を見遣るアイスブルーの瞳が驚愕の光景を捉えた。


 真下で停止したフロート。イルカ人間の独擅場となっていたはずの舞台は血と臓物で赤黒く染まり、波飛沫を模した爽快な海の面影は微塵も残っていない。よく目を凝らすと、切断されたイルカ人間の頭からは脊髄が伸びており、首を捻じ切った後に腹わたごと引き摺り出したかのようだ。人間の仕業には見えなかった。


「どうしたんです、グラグさん。なんか面白いことでもやってますか?」

 カトーが呑気な声をかける。

 グラグは微動だにしない。


 グラグに並ぶ格好で下を覗き見たカトーの表情が凍った。


「ДӀагӀо вай, Като. МостагӀ гучуваьллачух тера ду. 《行くぞ、カトー。どうやら敵が現れたらしい》」



外国語への翻訳はApple Intelligence、ChatGPT、Google翻訳を使用しました。

会話部分は外国語→日本語翻訳で内容の確認をしていますが、ほぼ思ってたのと違う訳になっていたので、間違っているのだと思われます。「日本語以外で会話してるんだな」くらいに考えていただければ幸いです。

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