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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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【おまけ・没短編】人生の退職代行会社

退職代行がブームらしい。ブームというかすっかり根付いている模様だが、俺はため息をつく。


「人生の退職代行ってないかね?」


 色々検索してみるが、企業からの退職代行が一般的だ。


 元々俺もよく退職代行を使ってた。氷河期世代の俺はブラック企業漬けになり、心身を崩し、適応障害とか発達障害とか言われた。


 障害者雇用も利用したが、どこ行っても腫れ物扱いか、仕事を押し付けられ、中には上司のミスの濡れ衣も着せされ、退職代行のいい顧客と化した。初回は高いが、二回目からは半額サービスになるのも悪くない。うっかりリピーターになってしまったのだ。


 そんな事を繰り返し、もう退職代行を十回以上使っている。退職代行に課金した累計は、一ヶ月分の手取りぐらいになるかもしれない。


 だんだんと馬鹿馬鹿しくなった。こんな状況で生きる意味とは?


 結局、俺は退職代行の養分か。いや、そこだけでなく、この社会そのもの養分になっている気がして遺書を書き始めていた。


 問題なのは死体の処理だ。このアパートは事故物件になるのだろうか。電車に飛び込んでも迷惑がかかる。森、山、湖、ダムでもそうだ。


「あー、人生の退職代行があればいいのに」


 そういった死後の面倒事を丸っと引き受けてくれる会社が欲しい。


「うん?」


 そんな都合の良い会社は実在しないだろうと思っていたが、しつこく検索し続けるとあった……。自殺したい人向けに死後の後片付けをやってくれるらしい。


 公式ホームページには「あなたの人生の退職、代行します」と書いてある。人生の退職代行という企業名らしい。


 とりあえずLINE登録し、担当者に相談し始めた。胡散臭いサイトだと思ったが、死ぬと思えばどうでもいい。それに俺の貯金額は十万しかない。詐欺もできないだろう。


 担当者は丁寧だった。状況をヒアリングした結果、見積もりの書類等を送ってくるという。そんな所も一般的な退職代行とそっくり。少し笑ってしまうぐらいだ。


 二日後、レターパックで書類が届いた。金額は二万円。遺書もLINEで送ると文章の体裁を整えてくれるとあったが、なぜかDVDも入っていた。


「なんだ、これ?」


 DVDには「あなたの死後の世界」とラベルが貼ってある。


「気持ち悪いな」


 そうは思いつつ、一応再生するが。


 DVDはインタビュー動画だった。この人生の退職代行の社員が俺の周囲の人間にインタビューしているらしい。


 AIや合成だろうか。たちの悪い冗談に見えたが、どうも画面にリアリティがあり、全くの嘘にも見えない。


「ああ、あの彼ね。自殺したの? でも、まあ、どうでもいいかな」


 インタビューを受けた俺の元上司は笑って焼肉を食べていた。


「えー、あの彼、死んじゃったんですかー!」


 障害者雇用関係の精神科福祉士は過剰に涙を浮かべ、ネットでポエムを書いていた。どうやら俺の死が感動ポルノとなったらしい。


 他にも親、兄弟、親戚も誰一人俺の死を悲しまず、寿司、ピザ、ラーメンを美味そうに食べている。


 かつて世話になった退職代行の担当者もそう。俺の事などすっかり忘れ、パフェを口いっぱい頬張っている。


 人生の退職代行の社員達もノリノリで酒を飲み交わし、俺の存在などすっかり忘れていた。


「あ、あれ? 俺が死んでもムダって事か?」


 急にまた馬鹿馬鹿しくなってきた。


 とりあえず美味しいものでも食べよう。寿司やピザを食べても貯金がゼロになるわけでもないし、そうなったとしても、何だかんだで生き延びられるだろう。


「もしもし、一番高いお寿司、注文できますか? ええ、今すぐ届けてください」


 遺書をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨ててしまった。

ご覧いただきたありがとうございました。

本作の元になった短編です。第二回ひらづみ文学賞の応募作なんですが、落選作なので没供養です。本作の正規はこのキャラが元ネタですね。実は他も没作品いっぱいあるんですが、体調と時間と相談しつつアップしてもいいかなぁと思います。

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