番外編短編・杉下荒野の休日
人生の退職代行会社・出エジプト社の杉下荒野。若手社員で、どうも社内での地位は低い。顧客からも「チャラい」とか「声がかん高い」とか「軽すぎる」などと言われ、どう見ても真面目タイプではない。いわゆる陽キャだったが、本人はコンプレックスだったりする。
「俺、軽いのかねー?」
会社のトイレで髪型や顔色などをチェックしながら、杉下荒野は呟く。我が社のファンである石井正規とも交流があったが、真面目で賢そう。本人は「俺はチー牛ですから」といじけていたが、杉下荒野は石井正規のルックスが羨ましい。
仕事も任せてもらえないし、頑張ってもあまり評価もされない。真面目にしていても「ふざけてるの?」と怒られる時もあり、まったく損な性分だった。休日もルックスや雰囲気に悩んでしまい、楽しくない。
「つまんないなー」
杉下荒野はせっかく休日だったが、家に引きこもり、SNSや動画サイトを見ていた。上司の百瀬亜論は食レポで動画サイトも楽しんでいるらしく、ますます焦りが出てくる。杉下荒野はSNSもパッとしなかった。会社の動画にも「チャラいからダメ」だとろくに出演させてもらえなかった。
「まあ、スマホばっかり見ているのも良くないね。散歩でもすっか」
杉下荒野は気分転換のため、近所を散歩。空き地は誰もなく、静かだったが、何か物音がする?
「うん? 声? まさか猫!?」
物音は猫の鳴き声らしい。急いで空き地を調べると、子猫が一匹ミャーミャー鳴いていた。どうやら母猫とはぐれ、迷い猫になったらしい。小さな三毛猫で毛も汚れている。小さく鳴く姿は可哀想で見ていられない!
という事で杉下荒野は猫の世話を始めた。動物病院に行き、獣医からアドバイスも受けるものの、初めての事ばかりで戸惑う。お風呂の時は大暴れし、顔も引っかかられて大変だ。爪切りの時も暴れられ、杉下荒野の頬には引っ掻き傷が絶えない。
「さあ、ミケちゃん! ご飯ですよ!」
それでも杉下荒野は笑顔だ。こんなに暴れられ、引っかかられても、猫は可愛いからだ。お世話も忙しく、杉下荒野は何に悩んでいたのか忘れてしまうほどだった。
社内では猫にメロメロになり、ますます残念な青年だと噂されていたが、本人が幸せなら、それで良いだろう。




