番外編短編・百瀬亜論の食レポ
百瀬亜論は出エジプト社という退職代行会社の広報。会社の方針で契約社員だったが、SNSで成功し、インフルエンサーと言っても良い立場だった。時々炎上もするが、かえってフォロワーもつき、いい宣伝になっていたりする。今の生活は順風満帆と言っていいだろう。
「そういえば、クライアントの正規くんからは、百瀬さんは美味しそうに食べる、食レポやった方がいいって勧められているが」
ふと、そんな事を思い出した百瀬亜論。確かに最近はフォロワー数の伸び悩みもあり、新しい企画を考えているところ。動画サイトやSNSで食レポをやってもいい気がした。
という事で、昼間、会社の近くの弁当屋に出向く。唐揚げ弁当を注文し、また会社に戻ると、食べながら撮影開始だ。
「衣はサクッと、中はふわりとした唐揚げの花が開くなぁ。この醤油とガーリックの味わいが最高だ。うん!」
実にうまそうに唐揚げ弁当を食べている百瀬亜論だったが、近所の評判はイマイチだった。本当は唐揚げの衣はベトベトしていたし、肉もギシギシと固い。ご飯はパサつき、外国人店員は無愛想で、割り箸やおしぼりも必ず忘れる。実際、ネットの評判は悪い。そもそも百瀬亜論は四十過ぎで、唐揚げ弁当は胃腸に負担がかかっていたが、こうしてカメラの前で演技をするのは大得意。
笑顔で食レポを終わらせると、動画編集を部下の高野マナに依頼。動画サイトでアップもしてもらうと、評判がいいらしい。大きなバズはなかったが、近所の弁当屋の客足は増えたと聞いた。
これがきっかけで、会社近くの飲食店から食レポをして貰いたいと依頼が相次ぐ。退職代行会社の広報という本職は忘れ、毎日のように飲食店に通い、食レポを繰り返していた。
もっとも依頼される飲食店は訳アリだ。人手不足で困っているところや、味などの品質に問題がるところ、立地が悪すぎたり、ネットで評判がイマイチなところが多かったが、百瀬亜論は食レポの演技を繰り返し、動画サイトで好評判も受け、訳アリ飲食店を救っていた。
食レポでも動画サイトやSNSで結果を出せた百瀬亜論は歳満足だ。そろそろ本業の方も本腰入れようか等と考えていた時、意外な飲食店から依頼がきた。
それは昆虫食レストランからだった。一部のマニアにしか受けず、一時期メディアに取り上げられた事で逆に客がへってしまい、困っているらしいが。
美味しそうに食事をするのが上手く、食レポでも結果を残してきた百瀬亜論だが、これには頭を抱えた。彼は虫は大嫌いだ。時にイナゴが嫌いだが、昆虫食レストランからはイナゴの佃煮を食べて欲しいと依頼され、困惑。
「い、イナゴか。いいね???」
こんな困惑顔の百瀬亜論は初めてだ、珍しいと社内でも噂になっているという。




