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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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人生の退職代行会社と就活と終活(4)

 就活するつもりが、なぜか終活になってしまった。実家の祖母にこの事を言ったら、ノリノリで終活したいと言い出し、エンディングノートも書き上げてしまったという。


 あの妙な退職代行会社・出エジプト社にも興味を示し、家の片付けもあの会社のサービスを利用したいという。


 一応、奈緒は止めた。SNSで炎上している会社などブラック企業の可能性が高いと言ったが、祖母は元々好奇心が強い性格で、止められそうになかった。


 結局、出エジプト社の社員と共に家の片付けをやっていた。終活サービスの中には片付けの代行・手伝いもあった。


「マナさーん、このお皿は捨てた方がいい?」


 いつもよりテンションの高い祖母。キッチンの食器の片付けの時は、高野マナと共に笑いながら手を動かす。古い一軒屋のキッチンは狭く、三人もいると窮屈だったが。


「そうですね。このお皿はキャンペーンのノベルティです。一部マニアがいますから、フリマアプリで出品しましょう。それも代行します」


 作業着姿の高野マナは、テキパキと仕事をしていた。片付けで出た不用品はフリマアプリで代行出品もしているらしい。なんでも代行できるらしい。側で見ているだけの奈緒も呆れてきたが、この調子でキッチンの食器棚も綺麗になってきた。


「え、おばあちゃん。この食器も捨てる?」


 祖母は思い切りもいいらしい。子供の頃の奈緒が使っていたキャラクターの食器類も躊躇なく処分していた。キャラクターのマニアがいるものは高野マナがフリマアプリに出すと引き取っていたが、奈緒はいい気分がしない。


 まるで幼い頃の思い出も消えてしまったような。複雑な家庭で祖母の家で育った。母にも捨てられたと思い込んでいた奈緒は、子供の頃、祖母が買って来てくれたキャラクターグッズは一時期の慰めにもなっていた。


「捨てるわ。だってそんな不用品持っていても仕方ないでしょ。もう奈緒は大人になったんだから要らないでしょ?」


 祖母は顔を余計に皺くちゃにし、キャラクターの食器を高野マナに渡した。


「これはレアですよ。フリマアプリでプレミアついていますから、いいお小遣いになりますよ!」


 高野マナも現実的な事を言い、思い出の品も情緒などない。事務的に処理されていく。


 食器が終わると、写真やアルバムの整理だったが、これも全部捨てる事になった。写真は全部デジタル化する。出エジプト社は写真などのデジタルアーカイブするアプリも開発し、家族なら誰でもいつでも見られるサービスもあるとか。


 祖母は「まあ、そんなサービスはいいわ!」とはしゃぎ、アプリも登録し、デジタル化はあっという間に終わる。しかもアプリの中では思い出の写真をAIで動画化する事も出来、祖母はさらにはしゃいでいた。


 思い出の写真も全く情緒がなく、サクサクと片付けられていく。


「あら、おばあさん。若い頃もお写真、素敵ですね」

「マナさん、そう? この写真、死んだ夫が撮ったものなのよ。そうね、これって遺影にできる?」

「もちろん、遺影のサービスも承っております! あと銀行口座やお金、携帯、SNSの終活サービスもしていますので、どんどんオプションつけてくださいませ!」


 高野マナはこんな時も営業は忘れない。祖母も孫と同年代の高野マナと話すのが楽しいらしく、さらに終活サービスのオプションをつけ、二人とも笑顔。とても死ぬ準備をしているような雰囲気がない。


 側で見ている奈緒はため息が出てくるほどだ。祖母のテンションの高さも全く笑えない。


 とはいえ、若い頃の祖母の写真は可愛い。AIで動画化もしたが、清楚なワンピースが似合い、祖父が恋に落ちるのも納得。確かにこれは遺影にしても悪くない。遺影などイメージ悪いのに、笑っている祖母や高野マナを見ていたら、暗い気持ちになれない。


「どうせね、死んだら何も持っていけなからね。未練はないのよ」


 あらかた片付けが終わると、祖母はスッキリとした目だった。もう高齢だが、目だけは野生的で生命力もある。


「死んだお父さんと会えるかもって思えば、終活も意外と楽しいもんね。遺影も可愛く加工してね。今より百倍可愛くするのよ?」


 高野マナに図々しく要求する祖母。高野マナもタジタジだったが、祖母の言う通りかもしれない。


 死んだら何も持っていけない。お金も地位も名誉も資格も職歴もそうだ。フォロワー数だって死後の世界では無意味だ。


 だとしたら、今の奈緒の悩みも小さい。インフルエンサーの立場や進路など、死と比べたら、どうでもいいのかもしれない。


 就活も葬式のように暗いものと考えていたが、何を選んでもゴールは死に行き着く。インフルエンサーを続けても死。就活成功して正社員になれたとしても死。どっちを失敗しても最後は死。


 ゴールが同じだったら、結局どの道も同じ。全部当たりのあみだクジみたいなものだ。その上、得たものも死後の世界に持っていけない事も同じ。


 今から悩むには無駄。結局ゴールが同じなら、祖母のように可愛い遺影を用意して置いた方がお得かもしれない。


「マナさん、遺影撮影のサービスってあります?」


 片付けが終わり、帰りがげの高野マナに聞いてみた。


「も、もちろんですよ! 遺影撮影サービスは我が社でも人気のコースが各種ありまして……」


 案の定、高野マナは鼻息荒く営業してきた。その営業トークに乗せられ、ヘアメイクつきで撮影スタジオで撮る事に決まった。


 値段は決して安くはなかったが肩の荷が落ちた。遺影を撮るのは、履歴書の証明写真を撮るより楽しそうで。

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